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【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


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163/200

【外伝】黒海の戦い

1942年(昭和17年)5月11日 午前10時


Side:フィリップ・セルゲーヴィチ・イワノフ (ソビエト海軍中将 黒海艦隊司令官)


於:クリミア半島南部 セヴァストポリ軍港



「なに?日本艦隊が、こちらに向かっているだと!?」


副官はあわてた様子で答えた。


「は、はい!現在大艦隊がエーゲ海、アテネ沖を北上中とのことです。

その大部分は輸送船で、総数は数百隻にも及ぶ規模だそうです」


「護衛する艦隊の規模は分かるか?」


「判然とはしませんが、戦艦は含まれていないのは確実だそうです。

最大の艦でも、重巡洋艦が数隻と、残りは駆逐艦だけの構成とみられます」


それでは丸裸に等しいではないか?

こちらには12インチ砲搭載の戦艦が含まれているのだぞ?

しかも巡洋艦が5隻、駆逐艦は18隻、潜水艦44隻と、更には魚雷艇が84隻も所属しているのだ。

相当な規模と覚悟を持っていないと、我らに立ち向かうなど無謀で、しかも多数の輸送船を守り切るなど不可能だ。


日本海軍とはもっと頭脳明晰で、合理的な判断が出来る組織ではなかったのか?

それとも、我が黒海艦隊の存在を無視しているのか?

まさかと思うが忘れているとか?


…いや……チャイナとの戦争、ロシアとの戦争、そして先の大戦でも勝利をもぎ取って、世界三大海軍の一角を占めるようになってきたおごりがあるのではないか?

勝ち慣れて、相手を過小評価するような腐った組織となっているのであれば、我が黒海艦隊が目を覚ましてやらねばなるまい!?


「目的地が黒海方面なのは、間違いないか?」


「はい…彼らが同盟側友好国たるトルコに上陸しても意味はありません。

黒海方面へ進出し、ルーマニアを助ける目的で上陸を果たすと考えるのが、最も合理的な判断だと思われます」


そうだな…連中は北アフリカへ向かうと思っていたが、欺瞞情報だったというわけか。

だが以前、やつらは黒海に大艦隊を投入してウクライナから人民を大量に拉致したからな!

あの時のお返しが出来るだろう。


「黒海に到達するのは、いつぐらいになると見込む?」


「日本艦隊の針路の途中には、ダーダネルス海峡とボスポラス海峡がありますから、必然的に進撃速度は落ちるでしょう。

となれば、どう考えても明日の早朝が最短で、しかも夜間航行で海峡を抜けようとすれば、更に速度が落ちるのは必然です。

従いまして、我が艦隊がボスポラス海峡に到達するのが先と思われます」


うん。最も脚の遅い戦艦「パリジスカヤ・コンムナ」(パリ・コミューン)の最大速度が23ノット。

全速で航行すれば、セヴァストポリ軍港からボスポラス海峡までの約500kmを12時間か…

何とか今日中に到達出来るだろうから、先手を打てそうだな!


その時、党から派遣されてきた政治局員が、余計な一言を発した。


「司令官。党への忠誠心を示す好機ですぞ。

直ちに出撃を命令すべきです」


…この野郎。普段は軍事オンチのくせに!

お前なんぞに言われなくても、軍事のことは私が適切に判断するのだから黙っておれ。


「…とにかく、ボスポラス海峡の黒海側出口で待ち構え、輸送船団を撃滅する!

我が艦隊は全兵力をもって出撃するぞ!」


「はっ!出撃準備は既に完了していますので、直ちに全艦に閣下の命令を伝えます」


上手くいけば、我らの功績は比肩しようも無いほど巨大なものとなるだろう!

農民の家に生まれた私が、ソビエト海軍の頂点を極めるのも夢ではなくなるのだ!

少なくとも…この面倒な政治局員とはおさらば出来る。


翌5月12日 午前7時


戦艦「パリジスカヤ・コンムナ」艦橋にて


前日夜半に、ボスポラス海峡出口付近に到着したが、予想通り日本艦隊は姿を現していない。

相手は数百隻にものぼる大船団なのだ。

隊列を整え、狭い海峡を通過するには、それなりの手順を踏まねばならず、時間がかかっているのだとは思うが、その時間を利用して、我らは機雷敷設艦18隻を用い、海峡出口を機雷封鎖するべく行動中だ。


「司令官閣下。海峡出口における機雷封鎖が完了しました」


「よし!では、海峡を抜けて黒海へと乗り出した日本艦隊は、当然ながら触雷して混乱するだろうから、我らは半包囲態勢をとって迎撃しよう。

更に魚雷艇を突撃させて日本艦隊の退路を断てば、日本艦隊を一隻残らず撃滅させることすら夢では無い。

かつて、日本海でロシアが受けた屈辱を晴らし、我がソビエト海軍の名を世界に轟かせるのだ!」


「はっ!全艦戦闘配置に付くよう命令します!」


うん!

とてもいい感じだな。早く日本艦隊が現れないかな!

日本海軍は機雷を多用する戦術で知られているが、まさか自分たちの得意技を我らが使うなど、予想すらしておるまい。

などと考えていたら、見張り員から報告があった。


「司令官閣下。12時の方向、ボスポラス海峡方面より航空機が接近中。

所属は不明です」


この方向から来るのは、トルコ空軍しか考えられないが、あの弱小トルコ空軍が全力で日本艦隊を守ろうというのか?

笑止な!

まともな飛行技術を持たないトルコ空軍の連中に何が出来るのだ?

対空砲火で脅し、蹴散らしてやろうではないか。


しかし、トルコ空軍機にしては、かなり高速で接近してくるように見えるな?


「所属不明機さらに接近。

機数はおよそ200、いや…250はいます!

大編隊です!」


トルコ空軍に、これほどの機体数を一度に運用する能力があっただろうか?

何かよく分からんが嫌な予感がする…

見張り員が報告した。


「…所属判明!機体の識別マークは赤い丸ですから、トルコ空軍です……」


やはりトルコ空軍か。生意気だぞ!

だが次の瞬間、見張り員の声色が変わった。焦っている。


「…いや?お待ちを!あれは、塗りつぶされた赤い丸ですので…に、日本軍です!

日本軍機が我が艦隊に向けて突撃態勢に入りました!!

し、司令官ご命令を!」


何!?日本軍機?

いつの間にこんな所まで進出していたのだ?

トルコが基地を提供したのか?

そんな事実は何も知らされてはいないぞ。

情報部は何をしているんだ!


「情報将校!一体どうなっている?」


しかし情報将校は茫然としたまま言った。


「……分かりません。突然湧いてきたとしか、表現のしようがありません」


役立たずめ!しかし今はそんな事を言っている場合では無かったな!

急いで対応しないといけない。


「全対空火器の使用を許可する!

一機残らず撃ち落とせ!」


こちらは高速で航行中なのだ。

日本軍の戦闘機がどれほどの実力を持つのか知らんが、そんな我が艦隊の艦船に、爆弾や魚雷を当てるなど出来るはずが無い!

少なくとも我が空軍では不可能だろう。


しかし…こいつらは速い!

なんという俊敏な動きをするのだ?

全艦から打ち上げられる対空砲火は、日本軍機の遥か後方を空しく通過するのみで、まったく有効弾を得られていない。


しかも、敵機は次々と魚雷と思しき物体を投下し始めた。

白く尾を引く魚雷の航跡が麾下の各艦を襲い始め、命中したと思われる水柱があちこちで上がり始める。

これは…想像以上に数が多く、被害を受けた艦艇が続出し始めたではないか!


状況報告が続けてあった。


「巡洋艦『モロトフ』、『クラースヌイ』被弾!速度が落ちます!」


「駆逐艦『タシュケント』および『モスクワ』沈没!更に巡洋艦『ヴォロシーロフ』航行不能!」


何なのだ!航空機だけの攻撃で、こんな被害が出てしまうのか?

しかも敵機はまだまだ攻撃してくるぞ!

おまけに、本艦まで狙われているとの報告があった。


「敵攻撃機、本艦への魚雷発射態勢に入りました!

左舷から3機、右舷からも2機接近中!」


「あっ!!敵機直上!2機!急降下してきます!」


いかん!これでは回避不能か!?



そして…衝撃が艦を襲った。

この一連の攻撃によって、左舷に2発、右舷に1発の魚雷を受け、更に爆撃によって2発の爆弾を受けてしまったみたいで、急激に速度が落ち、船体が傾くのがわかった。


艦長が叫んでいる。


「損害を報告せよ!」


軽い損害で済めば良いが…だが、報告はそんな私の願いをあざ笑うものだった。


「…ボイラー室に浸水!タービン回転が急速に低下。行き足、止まります!」


「左舷に大浸水!傾斜10度!復旧不能!」


「傾斜により、揚弾機構作動停止、対空砲発射不能」


「後部煙突付近に被弾!三層下の兵員室で爆発!

火災が機械室に迫っています。消火に失敗!」


「もう一発が四番砲塔基部に命中!

第四層で炸裂し、火災が弾火薬庫に迫っています!

消火は間に合いません!」


なんだ!?戦艦がたったこれだけの攻撃で、航行不能に追い込まれる?

そんな事は聞いてない。私は聞いてないぞ!


たまらず艦長が命じた。


「総員、最上甲板への移動を命じろ!」


そしたら…政治局員がそれを制した。


「いや!それはなりませんぞ!

艦を放棄しようとの考えかもしれませんが、貴官は書記長閣下からお預かりした艦をなんと心得るのですか?

そのように簡単に放棄されては、貴官の党への忠誠心を疑わざるを得ず、私は帰還後に党へ報告し、『再教育』を受けていただくよう進言するほかありません。

司令官も同様ですぞ!?」


くっ…この政治局員はこの期に及んでも、まだそんな世迷い言を言うのか?


私はどうすれば良いのだ!


そこへ…魚雷を投下し終えて身軽になった日本機が、再び機銃を乱射しながら突っ込んできた。


艦橋の窓ガラスが飛び散り、飛び込んできた機銃弾が政治局員の頭を吹き飛ばした。


助かったか!?と思った次の瞬間、私の意識も永遠に飛んだ。




Side :山口 多聞 (海軍少将 第二機動艦隊司令官) 淵田 美津雄(海軍大佐 同 参謀長)


於:エーゲ海北部 空母「長門」艦橋


通信参謀より報告があった。


「閣下。第二波攻撃隊の板谷少佐機より入電。

『ワレ敵艦隊ヲ撃滅セリ、コレヨリ残敵掃討ニウツル』以上です」


期待通りにやってくれたみたいだな。


「そうか。ご苦労だった」


既に第一波攻撃にて、戦艦「パリジスカヤ・コンムナ」撃沈に成功したのは大きな成果だったが、黒海艦隊の主だった艦艇を全艦撃沈できるとは喜ばしいな。

淵田参謀長が私に声を掛けた。


「やりましたね!閣下!

これで航空攻撃によって、戦艦を撃沈可能なことが証明されましたから、我々の時代が到来したのです」


そうだな。

そうかもしれんな。

首相閣下が、空母航空隊による戦術を提示されてから20年ほど経ったが、最初は誰も飛行機で戦艦を撃沈可能とは思わなかっただろう。

何しろ魚雷も飛行機も当時は性能が低く、航行中の軍艦に当てるだけでも至難の技だったのだ。


我々も、大艦巨砲主義者たちから胡散臭い目で見られたこともあったが、これで結果は証明されたと言えるだろうな。


少なくとも戦艦が数隻存在した所で、我が航空隊の攻撃から逃れることはかなわない。

我々が注意せねばならないのは、敵の空母機動部隊に襲われること、そして潜水艦の襲撃に注意することだけだ。

だがヨーロッパで空母を保有している国など皆無だ。

最近になって、アメリカ合衆国が空母部隊を育成中との情報があったが、我々は既に「三直制」を導入して長期間の活動が可能となっている。

つまり、アメリカはまだ日本に比べて周回遅れのままなのだ。


それより海峡出口に敵が設置した機雷は大丈夫かな?


「通信参謀。海峡出口にバラ撒かれていた機雷の件は連絡済みか?」


「はっ!全て前衛の護衛艦隊により排除済みですから、安全に航行可能です」


では輸送船団と護衛艦隊には、潜水艦に注意して進んでいただこう。

念のため、哨戒機に零式短魚雷を積んで発進させるか。

我が第二機動艦隊は、輸送船団を追いかけながら黒海へ進出し、上陸部隊の護衛を果たさねばならんからな。

また忙しくなりそうだ。


「淵田参謀長。まずは黒海艦隊の根拠地たるセヴァストポリ軍港を空襲して、完全に機能を停止させねばならないな?」


「はい。全速航行が可能な黒海に入り次第、攻撃隊を発艦させる予定です。

軍港背後に存在する燃料タンク群は無傷で手に入れたいので、搭乗員にはその旨を徹底させます」


「よし。連続した出撃とはなるが、搭乗員にはそれまではしばらく休憩してもらうとしよう」


我が軍は北アフリカのドイツ軍と戦うものと思っていたが、黒海に進出してルーマニアに上陸し、ソビエトを南部から圧迫する作戦を取るとは意外だった。


淵田参謀長がかみしめるように言った。


「それにしても、黒海艦隊まで撃滅するとは…我が海軍は旅順艦隊、バルチック艦隊に続いてロシア人が作った艦隊の殲滅に成功したわけですが、これは『第二のバルチック艦隊殲滅戦』と後世において言われそうですなあ」


そうだな。そんな気もする。


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