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【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


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【外伝】大西洋の戦い 前編

1941年(昭和16年) 5月初旬


Side :山本五十六 (海軍中将 第三機動艦隊 司令長官)


於:英仏海峡 旗艦 護衛空母「足摺」艦橋


私は現在、「宗谷」型護衛空母50隻を基幹とする艦隊を率いて作戦行動中だ。

英仏海峡は、日本近海とは違って比較的波も穏やかで、天気さえ良ければ対岸のフランス側もよく見える。

それにしても…ドイツ空軍は、連日にわたってイギリス本土への激しい空襲を継続中で、我ら第三機動艦隊は迎撃体制を緩める暇がない。


「宇垣参謀長。

今日の出撃数は、どれほどになるかね?」


「なんとか麾下の全空母が運用している可動戦闘機の半数に当たる、約200機が出撃しました」


昨日より少ないな…というより、日々少なくなっている。

イタリア陸軍への攻撃を行った際には、800機近くの戦闘機を運用できていたのだ。

それを思うと、可動数では既に半減ではないか。


「戦況報告はどうなっているかね?」


「現時点では昨日までと変わりなく迎撃できています。

九三式艦上戦闘機は、ドイツのメッサーシュミットより旧型ですが、ドッグファイトでは負けません。

それに迎撃に専念すれば良いので、欠点の航続力不足も問題とはなりませんので」


「そうか。

なんとかここまでは踏ん張れているが、早期の新型機導入が待たれるところだな?」


「まったくです。本格的なドイツ軍機による攻撃が開始されてから3ヶ月近く、ずっと戦い続けていますから、搭乗員の疲労も限界に近づいています。

申し上げにくいのですが、あとひと月が限界ではないかと思われますので、期待の新鋭戦闘機と交替の搭乗員が早く欲しいところではあります」


「うん。『零式』の生産は順調らしいし、搭乗員の訓練も進んでいるとの話だから、まもなくこちらに到着するとは思うが」


あの空技廠で毎日見ていた「零式」戦闘機が、いよいよ制式採用されて前線に出てくる。

確実にメッサーシュミットBf109や、フォッケウルフ Fw190を駆逐できるだろうし、ゆとりが出たらこの第三機動艦隊においても「三直制」を導入するだろうから、母艦が沈められない限り長期にわたって行動が可能になるのだ。


「既に第一機動艦隊と第二機動艦隊は、予備の『零式』を積んだ輸送船を護衛しつつ、日本を出撃したとの連絡があった。

この点でも我らの負担は減るだろうから、もう少しの辛抱だと各艦にも通達しよう」


そうだ。苦しい現状はもうすぐ一気に好転するのだ。


だが……現時点で既に損失機も多く出ているし、このままでは「零式」が到着するまで踏みとどまれるかは、確かにギリギリだな。

味方のスピットファイアがいなければ、とうの昔に活動できなくなっていただろう。


私が率いるこの第三機動艦隊は、参謀長が宇垣少将という、かつては砲術の専門家として活躍した人物だが、今では航空戦のスペシャリストに変貌している。

そして麾下には50隻に及ぶ護衛空母が配属されているが、ここまでは期待以上の活動が出来ていると評価されるだろう。


第三機動艦隊の編成一覧


第五航空戦隊 司令官 山本 五十六中将 兼任  参謀長 宇垣 纒少将 兼任 

旗艦 護衛空母「足摺」 他9隻


第六航空戦隊 司令官 角田 覚治少将  参謀長 草鹿 龍之介大佐

旗艦 護衛空母「佐多」 他9隻


第七航空戦隊 司令官 城島 高次少将  参謀長 三和 義勇大佐

旗艦 護衛空母「富津」 他9隻


第八航空戦隊 司令官 小沢 治三郎少将 参謀長 源田 実大佐

旗艦 護衛空母「襟裳」 他9隻


第九航空戦隊 司令官 木村 昌福少将  参謀長 有近 六次大佐

旗艦 護衛空母「残波」 他9隻


これ以外にも護衛の巡洋艦と駆逐艦が多数所属しているが、なぜ最大でも30機程度しか搭載できない小型の護衛空母のみで構成されているかというと、正規空母たる「伊勢」型が改装中で開戦に間に合わなかったからだ。

だが、それも完了して第一機動艦隊を編成してこちらに向かっている。


また基準排水量4万8000トンに達する最新鋭空母の「出雲」型が四隻同時に竣工し、こちらも艦載機を搭載した訓練を完了して出撃した。

「出雲」型の2番艦以降は「加賀」、「土佐」、「長門」で、この四隻で第二機動艦隊を構成するらしい。

ああ、司令長官は山口多聞少将らしいな。

勇猛さと積極さに定評がある人物で、統合作戦本部長に買われて就任したがお手並みに期待だな。


更には全く知らなかったが、基準排水量7万トン級となる超大型空母4隻も進水式を終えており、「大和」と名付けられたそうだ。

こちらの2番艦以降はそれぞれ「武蔵」、「信濃」、「甲斐」と命名されたらしい。

全長320m、最大船体幅42m、飛行甲板最大幅80m、満載排水量は9万トンを超える巨艦で、この4隻の「大和」型の竣工は2年後の1943年(昭和18年)となる予定だ。


いや凄いな。


新鋭空母が続々と竣工しているが、なんとか間に合って欲しいものだ。




1941年(昭和16年)5月18日 AM10時


Side :田辺 弥八 (海軍少佐 潜水艦 伊317号艦長)


於:ジブラルタル海峡 大西洋側出口


「艦長。水測員より報告。二時の方向 大型船の反応あり 距離 2万5000m 九時方向へ移動中」


ほう?今日の獲物は商船ではなく軍艦かな?


「反応の特徴は?」


「3軸、もしくは4軸推進と思われます」


となると間違いなく軍艦だな。


「単独で航行中なのか?」


「はい。周囲にそれ以外の反応ありません。

かなりの高速で航行中です」


では通商破壊戦に投入されたのだろうが、ドイツは戦艦ですら潜水艦みたいな使い方をするからな。

我が日本海軍では考えられない運用方法だ。

しかも、対潜・対空任務の護衛艦が随伴しないなんて、何を考えているのだろう?

自分の俊足によほど自信を持っているか?まあいい。追い掛けて攻撃しよう。

ただし今日は余り天候が良くないから、相応まで近づかないとどんな相手か判別できんかな。


「そうか。では取り舵。目標を追跡し、1万メートルまで接近する」


「ようそろ!とぉぉりかぁじ」

 

都合の良いことにこちらへ向かって来るから、まずは十分に接近して何者なのかを確認する必要がある。

3軸推進ならば、ドイツのビスマルク級戦艦か、シャルンホルスト級巡洋戦艦、若しくはアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦である可能性が考えられるな。

何れにしてもスペインに駐留している艦だろう。


「水測。機関音は判別できるか?」


「おそらく蒸気タービン機関です。少なくともディーゼル機関ではありません」


となればドイッチュラント級装甲巡洋艦、いやポケット戦艦か?とにかくやつでは無いな。

先に挙げた3タイプのどれかだろう。

ドイツの軍艦は個艦性能がどれも高く、厄介な存在だが、中でもポケット戦艦はロンドン条約の矛盾点を突いた実に嫌らしい存在だ。

これに対抗しようとしても、重巡以下の艦では砲力で劣るため相対するのは危険で、かといって戦艦を持ち出しても速力で劣るため逃げられてしまう。

それらの厄介さは、全ての艦に共通しているから、堂々と単艦行動が出来るのだろうが。


「艦長。まもなく目標の左舷1万メートルにつきます」


「よし!潜望鏡深度まで浮上し、目標を確認する」


どれ?いったいどんなやつかな?


うん…距離の関係で上部構造物しか確認できないが、このシルエットは……


「ドイツ艦だな。副長、特徴を言うぞ。前部に主砲塔2基、背負い式に配置。後部にも1基。煙突は大型のものが1本。垂直マストは前後に2本だ。

これに該当する艦はなんだ?」


「巡洋戦艦シャルンホルスト級と思われます。

28センチ主砲3連装3基搭載。速力31ノット。基準排水量約3万2000トンです」


やはり。

艦名までは分からんが、シャルンホルストかグナイゼナウのどちらかだろう。

ビスマルク級戦艦とヒッパー級重巡は、こちらの誤認を誘う目的で故意に似せて造っているから判別が難しいが、こいつだったら似たシルエットの艦は無いはずだから簡単に判別可能だ。


艦名不明ながら、最近竣工したと噂のP級装甲巡洋艦は?

いや、あれの主砲配置は前部2基、後部2基のはずで、2本煙突とアトランティック・バウ採用という情報だから違う。


「では魚雷攻撃を行おう。念のため1万2000まで距離を取って攻撃開始だ。

水雷長。今日は初めて例の対艦魚雷を使うぞ!」


「遂に使用されますか!準備します!」


その魚雷とは、新型魚雷の最終試作モデルだ。上層部としては実戦で使用して、問題点が無いか確認した上で制式採用しようというのだろうな。

本来ならもっと遠距離からの発射を想定しているらしいが、それだと逃げられてしまう。


「魚雷発射管1番から4番まで使用。2分ごとに間隔を空けて順次発射する!」


世界初の音響追尾型で、敵艦の機関音やスクリュープロペラの音を感知して自動で追尾する画期的な魚雷だ。

欠点は目の前の音を追い掛ける癖があることらしいから、一斉に発射するとわけの分からん結果になりかねんし、下手をするとこの艦に向かって来る恐れすらあるかもしれん。


それと、どの程度の発射間隔を開ければ、問題なく作動するかも知っておかねばならん。


「装填よし!発射用意完了しました!」


「魚雷発射管注水、発射口、全門開け」


「注水完了。発射口開きました!」


「よし!ではまず……1番。発射!」


「1番。発射します!」


さあ音響追尾魚雷を喰らうがいい。しかも炸薬搭載量が多いから一発命中しただけでも大ごとになるだろう。

防御の堅さに定評のあるドイツ艦といえども効果はあるはずだ。



結果。見事に四発とも命中し、敵艦は波間に消えていった。


やはり機関とプロペラのある後部に命中する確率が高いみたいだな。

最初の一発は後方から接近後に命中して推進器を損傷させたみたいで、行き足が一気に鈍ったのが分かった。

それにしても、確実では無いが、ドイツ艦は後部の防御構造に何か独特の弱点を抱えているのではないのか?

あと何隻か沈めないとはっきりとは分からないが、どうもそんな気がするな。

とにかくまずは戦果の報告をしよう。



同日 夕刻 同潜水艦 伊317号


「艦長。前方1時方向に音源多数。これはかなりの大型艦が10隻…いえ20隻以上航行中と思われます。

その他小型艦と思われるものも多数。

さらに後続艦も相当数見込まれそうで、正確には探知出来ません。

とんでもない大艦隊です!」


なんなのだ?

地中海方面からやって来て、ジブラルタル海峡を越えたということは…イタリア艦隊?敵に回ったフランスか?もしかしたらスペインも加わっているかもしれないな。


危険だが、接近して正体を確かめねばならん。


「よし。1万5000まで接近。どんな相手か確認する!」


さっきのシャルンホルスト級と違って、航行速度がゆっくりだから接近はしやすいだろう。


「艦長。まもなく1万5000です」


「了解。機関停止。潜望鏡深度まで上昇せよ」


「ようそろ!メインタンクちょいブロー!」


さてどこの艦隊かな?


うん??……これは!


「…日本艦隊だ。随伴艦に見覚えがある。

重巡は『葛城』型防空重巡。軽巡は『揖斐』型対潜巡洋艦で、駆逐艦は対潜特化の『敷波』型や、対空専門の『秋月』型など。

50隻以上いそうだな。しかも輪形陣中央には、輸送船がざっと見るだけでも70隻…いやもっといるだろう」


「では遂に本隊が到着したのですね?」


「そういうことになるな。

うん。後続艦もまだまだいるな。

……おや?この空母と戦艦には記憶がないな。

副長、見てみろ」


「…本当ですね。ただ八隻の戦艦は『金剛』型ですね?上部構造物は完全に一新されていますが、主砲配置は変更ありませんし、艦首の形状も変わってないようです。本土で行っていた改装工事が完了して派遣されてきたのでしょう」


そうか。確かに近代化改装工事をしていたな。

ユトランド沖海戦の結果、弱点が判明したものの、軍縮条約の制限もあって手を付けることが出来ていなかった水平装甲の追加、対魚雷を想定した大型バルジの追加、それから艦上構造物の近代化等の工事によって、従来の2万6000トンから一気に3万トンオーバーへと生まれ変わったと聞いたが、これがそうなのか。


「では空母は?」


「前方の四隻はこちらも改装が終わった『伊勢』型でしょうが、更に別の四隻が後方にいます。

これは『伊勢』型より大きいですね。

見分け方は…飛行甲板と艦首が、『伊勢』型とは違って一体化しているタイプで、間違いなく新型の『出雲』型でしょう」


ああ、噂のあれか。

5万トンに達しようかという重装甲空母らしいが、それが前線に投入されてきたのだな。

飛行甲板に分厚い装甲を施し、500kg爆弾の直撃に耐えられるという話だった。


「水測。貴重な機会だから各艦の音響データを拾っておけよ?」


「はい。既に行っております」


よし!きちんと自分の仕事をこなすとはさすがだ。

それにしても我が国は主力艦隊のほぼ全力をヨーロッパに投入してきたのか。

アメリカに対して無防備となるが、現状だと問題ないのだろうな。


しかし、アメリカ合衆国が昔のままだったらこんな行動はとれなかっただろうから、運がいいとしか言いようがない。

まさかと思うが、その為に誰かがアメリカを潰したのだとしたら面白いな。


とにかくこちらの戦いも楽になるだろう。


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