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【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


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【外伝】謎は解けた! 後編

・・・もしかしたら、聞かないほうが良かったかもしれない。

そう思うほど、悲惨で絶望的な未来だな。


「先ほどおっしゃられた『新型爆弾』とは、どのような爆弾だったのですか?


「それは『核分裂』と呼ばれる反応を用いた、『原子爆弾』で、たった一発で都市を消滅させる威力を発揮しました。

アメリカは、これを用いて広島と長崎で実験を兼ねて使用したのです」


「それで20万人もの犠牲者が出たというわけですか…何と表現すれば良いのか分かりませんが、その…地獄そのものでは?」


「そうです。人間が人間に対して用いる兵器ではありません!

この世界において、私は『原子爆弾』開発を全面的に禁止させるべく努力するつもりです」


そうだな。何とか阻止してもらうしかないな。


「ついでに申し上げますが、広島の原爆慰霊碑には、『安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから』と、()()()で刻まれていたのです。

ですが、日本語で刻むのはおかしく、本来は『米語』で刻むべきです。

もちろん、主語は『アメリカ国民は』であるべきなのですが、日本はアメリカを恐れて遠慮してしまったのです。

後世において、補足するような内容も記載されるようにはなりましたが、明らかにおかしいでしょう?」


つまり、そのような弱い立場に追いやられたというわけか。


「アメリカ人は表面ではともかく、心の中では決して原爆の使用を反省していませんし、それどころか誇ってすらいました。

『原爆によって戦争終結が早まり、日米の犠牲者は結果として少なく済んだのだ』と。

ですが、それでは原爆の犠牲者は浮かばれませんし、立場が逆なら決してそうは思わないでしょう」


そうだな。能天気で単純、知能に問題あるとしか表現しようのない、アメリカ人らしい発想だ。


「最終的には中国やロシア…これはあなたの知っているロシアとは全く別物ですが、それらの国によって日本は再び侵略を受け、日本軍…のようなものの奮戦によって何とか撃退しましたが、国土はまたもや甚大な被害を受けました」


「……」


「ご存じのように、新たな世界秩序というものは、戦争の結果としてすべての国が受け入れるからこそ構築されるものなのでしょうが、この戦争、第三次世界大戦において日本は戦勝国とはなりましたが、結局のところ第二次世界大戦で失った固有の領土は一片たりとも取り戻すことが叶いませんでした。

しかも日本国内の米軍基地もそのままという状況が継続することになったのです。

それまでの日本人がなぜ米軍基地の存在を容認し続けたのかと言えば、いざという時の『番犬』としての役割を期待したからです。

ですが、肝心な時に『番犬』は寝ていました。

役に立たない『番犬』など、一刻も早く追い出すのが正解でしょう?」


「……」


「私はそのような未来世界から過去に飛ばされ、気が付けば6歳児としてこの世界にいたのです。

しかも『史実』において私は存在しないはずの人間だったのですが、公爵近衛篤麿の長男としてこの世界で復活しました。

そこから先は、ご説明の必要は無いかと存じますが、私はこれから起こってしまうであろう、第二次世界大戦における日本の敗北と、人類が被る三度の世界大戦の被害を何とか小さなものとすること、それ以外にも人類が行う愚かしい行為の被害者を、可能な限り少なくして、平和な世界とするために、これまで活動してきました」


「…そうだったのですね。

ずいぶんご苦労をされましたな。

だが、あなたのお父上は、その『史実』の世界において存在感が無かったのですか?

あの人がおれば何とかなった気がしますが」


「残念なことに、『史実』における父は日露開戦前に病死しました」


え!?・・・


「従いまして、現在ロシアの首相を務めております末弟の彦麿は、『史実』においては生まれていなかったのです。

最も重大な歴史の変更、いや改変点は父が死ぬのを防ぎ、さらに日露戦争の結果として行われたはずの大陸進出を阻止し、海洋国家として歩み始めるよう、明治大帝のご裁可をいただいて誘導したことでしょう。

これは、大陸進出が遅れたアメリカとの利権の奪い合いに端を発する衝突を避ける意味があったのですが、日本が進出しないと、力の空白地帯が生じて周辺国が混乱しますから、これを防ぐために私は日本の代わりに、イギリスに犠牲になってもらう選択をしました」


あっ!そういうことか!


「な、なるほど!分かりましたぞ。ハリマン問題ですな?

…あの件をきっかけとして、英米は対立関係となって現在までそれが継続する状況となっていますが・・・厄介事をイギリスに押し付けて、高みの見物とは…何とお人が悪い…」


「はは…イギリスは極東アジアにどっぷりとはまり込んで、抜け出せなくなりました。

日英同盟も、現時点では既にイギリスにとって有益で不可欠なものへと変貌しましたから、イギリスから同盟破棄を言い出すことは無いでしょう。

ところで、恐らく高橋さんにとって一番わかりにくいのが、ユダヤ人についてではないですか?」


「その通りです。

近衛さんがユダヤ人を優遇する合理的な解釈が出来ず、極めて謎が多いです。

あれは一体どうなっているのですか?」


「ではご説明しましょう。

これは第一次世界大戦の…ああ、先の大戦ですが、その際に、イギリスが苦し紛れで致命的な外交的失策をしてしまったのが原因です。

後世では「三枚舌外交」などと揶揄され、拭う事の出来ない失敗だとされていますが、これを端緒として、近未来に発生した、ナチスによる大虐殺から生き延びたユダヤ人が、中東にて『イスラエル』を建国したのですが、当然のごとく周囲の国々との争いが絶えず、今度は逆に傲慢な加害者となりました。

最終的には、第三次世界大戦の原因の一つにもなってしまったのです」


ナチスによる大虐殺…やはりそうなるのか!

そして、せっかく生き延びたと思ったら、今度は逆に傲慢な加害者か…人間とは昔も今も愚かなものだが、未来でも同じなのか。


「そこで私は『イスラエル』を中東ではなく、別の場所、つまり現在の沿海州一帯にて建国しようと考えたのです。

歴史的な事実を並べれば、中東地域、ナイル川からユーフラテス川の間が、ユダヤ人にとって神から与えられたという、『約束の地』であるのは間違いないでしょう。

ですが、既に彼らが中東地域を去って2000年が経つのです。

ユダヤ人のように『1000年も一瞬も、ともに神の時』などという考え方を持つのなら、元の場所に戻ることは当然なのでしょう。

ですが中東においては、そう考えない人々のほうが多数派だったのです」


「…つまりはあなたの行動には、すべて意味があって、繋がっていたわけですな?

そのような悲惨な世界が訪れたのですか…」


「悲惨ついでに余計なことを申し上げますと、高橋さんは『二・二六事件』によって、二年前に軍部の手で暗殺されました。

第33代大蔵大臣として、軍部に渡すカネが少ないと逆恨みされたのです」


何!?私は畳の上では死ねなかったのか?

だが、私はまだ生きているぞ!

良かった!


「そのような事態が起こってしまったのですか…

現状と比べると、状況が全く違うので、今ひとつ現実味がありませんがね。

ところで…私が大蔵大臣だったならば、現時点での内閣総理大臣はどなたですか?」


「…私の弟の近衛文麿です」


な、なんだと!あの頭が良く、上品なだけが取り柄の、優柔不断な世間知らずのお坊ちゃんがか!?

一体この国はどうなっておるのだ!?


「…それはまた…何とも言い辛いですな」


「ご想像の通り、優柔不断で八方美人な彼の政策は、行き当たりばったりで一貫性を欠き、共産主義者に利用された末に、遂には日本を地獄へと誘導してしまいました」


だろうな。それは想像可能だ。

しかし、兄であるこの人ならば全く問題あるまい。

いや、この人以外にはうまくやれないだろう。


「では、これからの日本を宜しくお導きください。

そしてこれは私の遺言でもあります」


「はい。なんとか犠牲者を最小限で抑え、日本の手で恒久的な平和をもたらせるよう努力します。

今まで本当にありがとうございました」


確認して良かったのかどうかはわからないが、本当にこれですっきりした。

それだけは間違いないな。

それでは未来の事はこの人に託して、私は心置きなく余生を過ごすとしよう。




Side:近衛篤麿


私は政界を引退し、爵位も高麿に譲ったうえで完全に隠居することにした。

ロシアの先帝陛下も、この5月で70歳を迎える節目で完全に退位して隠居するらしいし、私も孫たちと遊んで暮らすとしよう。

ロシアにいる孫たちにも会いたいしな。

今では飛行機で2時間もあれば、東京からウラジオストクまで着いてしまうのだから、弾丸列車で大阪に行くよりも時間は掛からないのだ。

全く昔では考えられない時代になったものだな。

私も歳をとるはずだ。


後の事は高麿たちに任せて私はのんびりさせていただくとしよう。

幸いな事に高橋さんや犬養さん、原さんに石井さんといった馴染みの人たちも元気だし、たまには皆で温泉に行くのも良いな。

これまで頑張ってきたのだから、少しくらい楽をするのも許してもらえるであろう。


うんそうしよう!

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