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【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


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【外伝】近衛文麿 ④

最後にご紹介するのが、海軍関連の兵器です。

ここで特筆されるのが、兄上が注力してきた魚雷です。

これについては、潜水艦用の大型魚雷が遂に完成しました。

九八式酸素魚雷という制式名称が与えられましたが、この兵器の実現に関しても、イギリスからの技術供与に加えて、ユダヤ人技術者たちが開発に協力してくれたおかげと言って良いでしょう。


この魚雷の優れている点としては、従来の潜水艦用酸素魚雷である九五式酸素魚雷に比べて、口径が大型化し、炸薬量が増えたことによって威力が倍増しているのです。


かなりな大威力ですから、一般的な戦艦であっても、連続して被雷すると、耐えられるのは二発か三発が限界ではないかと言われています。


雷速も上がって、射程距離も駆逐艦用の酸素魚雷と遜色がなくなったのも特筆すべきでしょうが、最大の特徴は最終段階での駆動を、電池にて行うという点でしょう。


酸素魚雷とは、燃料を燃やす際に圧縮空気ではなく、酸素を用いるのが特徴ですが、燃焼した際に水中に排出した排気ガスは、炭酸ガスと水蒸気のみで海水に溶けやすく、その効果として泡を発生させないために、水上からの認知が極めて難しいのが強みです。


それでも万能というわけではなく、雷速が大きいということは、引き換えに大きめの機関音を発しますから、近年性能向上の著しい水中聴音機によって捕捉されやすいのですが、それが最終段階で電池式に切り替わることによって静粛性が増すのです。

もちろん、目標が近距離であれば最初から電池駆動で発射されます。


長射程であることと併せると、敵にしてみれば潜水艦も探知できず、魚雷攻撃を受けたという認識が得られない可能性が高いでしょう。


もっとも、長射程であるが故に、命中率が極めて悪いのが欠点ですが。


なぜなら、遠距離から狙いをつけて発射する場合の絶対的条件は、「目標は等速直進運動をする」ことであり、僅かでも目標が変針したり、速度変更をされただけで命中は期待出来なくなってしまうのです。

これを補うためには、ある程度の誤差を見越して扇型に展開発射するのが一般的ですが、これだと無駄弾となる魚雷も増えてしまいますね。


しかも航続距離が長いですから、流れ弾が味方に当たっては大変です。

つまり、使用可能な戦場が限定されてしまう事態が予想されるのです。


そこで更に研究を進めているのが、敵艦の機関音や推進器(プロペラ)が回転することで発する音源を感知して、自ら方向を変えつつ、敵艦を追尾する魚雷、『音響追尾魚雷』の開発です。


これもある程度は目処が付きましたね。


ただし連続発射すると、二発目の魚雷は一発目の魚雷を追いかけてしまうという短所があり、対策がまだまだ必要ですので、制式採用は少し先になるでしょう。

一定の周波数や音源を遮断するか、特定の音源だけを追尾させる技術が必要ですね。


そこで先行して制式採用されそうなのが、「零式短魚雷」と呼ばれることになるであろう対潜目的の魚雷です。

この兵器は哨戒機搭載を前提に開発が進行しており、敵潜水艦を探知したら音響追尾装置付きの「短魚雷」を投下して潜水艦を排除するのです。

これは名前の通り射程も短く、何発も同時に使用することを前提にしていませんので、音響追尾魚雷の試験用として最適なものと考えます。


水上艦艇においては、水上と上空の目標を探知する電波探信儀、そして敵電波を検知する逆探技術も完成したのですが、現在ではそれらを小型化・一体化するべく開発が進行中です。


現在特に力を入れて進めているのが、水上艦艇の機能を単純化して任務を絞る為の様々な兵器開発です。

巡洋艦・駆逐艦共に、対空防御任務と対潜防御任務の二つに分けた用途での建造が主となっています。


そうです。一昔前まで主流であった水雷戦隊という存在は、既に役割を終えていると思ってください。


電探の発達によって、夜間水雷襲撃、いわゆる夜戦は過去のものとなったのです。


そして、対潜兵器では従来の爆雷に磁器検知装置を付けて、敵艦を感知したら一定の範囲内で爆発するようにしましたから、直撃の必要性が無くなり効率が上がりました。


更には『ヘッジホッグ』という名の対潜用爆雷投射機を、イギリスより供与してもらい、日本周辺の海域での使用にも耐えられるような仕様に改良し、水上艦艇搭載の「九七式対潜迫撃砲」として昨年度に制式採用しました。


これは小型の爆雷を、網を被せるように投射して命中率を高めようとする一種の公算兵器で、散弾銃のような物と思って頂いてよろしいかと思います。


机上の計算ですと、従来型の爆雷を順番に投下していく方法に比べて、命中率は5倍から10倍の確率となりそうで効果は絶大でしょう。


防空用途としての装備も凄いです。


まず、八木研究所という日本企業が作った高性能対空電探を用いた、「九七式対空指揮装置」が完成して、巡洋艦と駆逐艦への搭載が行われています。

これは大型で重量も相当なものなので、ロンドン条約の制限のある駆逐艦なら2基、軽巡洋艦なら4基搭載するのが限界ですが、1基当たり一つの目標を捕捉可能で、2基搭載すれば、同時に二つの目標を設定可能ですから防空能力が飛躍的に向上します。


火砲も進化しました。


特に九八式70口径10センチ砲、俗に「長10cm砲」と呼ばれる、優秀な対水上・対空両用砲が制式採用されました。


70口径という、かつて無い長砲身両用砲で、砲身長は実に7mに達します。

長砲身・高初速ですから、射程距離は最大2万1000メートル、最大射高も1万6000メートルに達します。


これが連装砲ですと、毎分20発の速度で発射されるのですが、運用は半自動装填ですから、省力化も果たしています。

いい事づくめなのですが、欠点は砲身の寿命が短いことらしいです。

まあ交換してしまえばいいのですから、致命的な欠点ではありませんね。


この両用砲に使用する、「近接信管」と呼ばれる装置付きの対空砲弾も開発しました。


これは砲弾内部に、日本の軍需産業として躍進著しい宇田電波工業製の真空管式小型電探を装備しており、目標の直前で炸裂する仕様ですので、直撃しなくても敵機の撃墜が可能となりました。

従来であれば、発射直前に砲弾に対して炸裂時間を設定する必要があったのですが、そんな無駄なことはもう行う必要が無くなったのです。


とても凄い兵器ですが、逆に言えば、敵国がこの技術を盗んで採用したら敵艦に肉薄しての雷爆撃は自殺行為と同義になってしまいますから、遠距離からロケット推進で攻撃できる対艦魚雷の開発が急務となっています。


この兵器は軍からの要求仕様としては、射程10km以上、弾頭炸薬量350kg以上となっています。

つまり敵艦の遥か前方から発射して空中を飛行し、最後は着水して魚雷となる兵器です。


これも誘導式、あるいは自動追尾式が望ましいですね。


船体構造も改善しました。


従来の巡洋艦以上の艦艇においては、缶室及び機械室の船体中心線に「中央縦隔壁」と呼ばれる水密隔壁を持っていたのですが、これを廃止したのです。

これに際しては、ひと悶着がありました。


この決定会議の席上において、艦艇設計の神様とも呼ばれていた平賀譲(ひらが ゆずる)造船中将が、隔壁撤去に反対し、兄上と平賀中将の間で激しいやり取りがあったのです。


まず、兄上が平賀中将に要求しました。


「英米の艦艇と同じく、現在設計を行っている艦艇から、中央縦隔壁を撤去していただきたいのです」


これに対して、平賀中将は表情を変えず、目だけ光らせて反対意見を述べました。


「…何故でしょうか?

縦隔壁は必要性があるからこそ、施しているのですが?

国防大臣閣下は現場と現実をご存じないでしょうが、これは被害極限の観点から必要と考えます。

横隔壁に加えて、この縦隔壁があることによって、ボイラー1基に対して1室で運用できますから、敵砲弾を被弾したとしても、最小限の被害で済むのです。

もしも、これを無くせば左右の罐室が同時に損害を受け、推進力を左右同時に減じることになってしまいますぞ?」


「私が危惧しているのは、砲弾はともかく、片舷に魚雷を複数被弾した場合、中央縦隔壁があるがために、短時間で片舷のみに浸水して、転覆に至る危険性が高いからです。

事実として、英米の艦艇にはそのようなものは設置されていません。

平賀中将が縦隔壁が必要とおっしゃる根拠は、被害極限という観点だけですか?」


「いいえ。それ以外にも利点があります。

太平洋は、穏やかな海ではありません。

時として荒れ狂いますし、台風に遭遇した際には、なおさら船体は揺さぶられます。

この際に縦隔壁があれば、船体強度の向上に役立つのです。

よって縦隔壁を廃止することは非現実的であり、実行出来ません」


これに対して兄上は、用意していた紙製の船体モデルを手に取って、出席者全員に分かりやすく説明しました。


「平賀さんは、『ねじり剛性』のことをおっしゃっているのでしょうね。

あなたは中央縦隔壁を、いわゆる強度部材として縦強度計算に計上されているようですが、 実際にはねじり剛性の向上には役立ちませんし、同じ重量を注ぎ込むのであれば、船底の板厚を増したほうが、より効果的ですし、重心が下がって復元力を高める副次効果も期待できます。

つまり船体強度を上げるのでしたら、縦隔壁に頼るのは理にかないません。

このように艦底部を強化したほうが効果が高いですし、艦底を強化すれば、将来登場するであろう磁気感知魚雷に対しても一定の強度を担保できます」


そう言いながら、紙で出来た船体モデルを手にして、実際にねじりながら説明したのですが、平賀中将の顔色がどんどん悪くなっていくのが分かりました。


「……造船に関しては、小官は、小官の信念を貫くだけであります」


頑固な人ですね。

名前は平賀譲でも、実際は「平賀不譲(ひらが ゆずらず)」と言われるだけの事はあります。


兄上も説得を諦めたらしく、造艦責任者交代となりましたが、これは仕方ありませんね。


ともかく最新理論を用いた艦船設計を行っており、駆逐艦に関しては機関配置の変更を行いました。


駆逐艦は2軸推進が基本で、要するに推進プロペラが左右に2基ついているのですが、これを駆動させるためのボイラーと、タービンや減速機といった機械室がまとまって配置されていたのを、分散させて推進力を一気に失う危険性を減じる配置としたのです。

これも英米の駆逐艦配置を参考にしたそうです。


そして、これらの新機軸を採用した対潜、対空任務に特化した新型駆逐艦が続々と就役してきています。

更には現在計画している新型駆逐艦は、ロンドン条約失効を念頭にしたもので、2000トンという条約の枠にとらわれない大型駆逐艦です。


もっと大型の防空駆逐艦も計画されていますが、そこまでの大きさになると、見た目で巡洋艦との区別がつきにくいでしょう。

この防空駆逐艦の特徴ともいえるのが、優秀な対空レーダー連動の射撃指揮装置で、合計6基の指揮装置を搭載している点です。

つまり、同時に6個の目標(航空機)を捕捉可能となっているのです。



更には超大型空母が2クラス、設計を終えており、最初のクラスは既に起工されました。


そのような状況下でこの度、兄上が父上の後を継いで内閣総理大臣に就任しました。

これまで勤めてきた国防大臣は兼任されるらしいです。


そして私は兄上によって大将への昇進辞令を受け、同時に統合作戦本部長へと昇格いたしました。


これからの日本軍、或いは日英露仏の四カ国同盟の軍事作戦は、私が立案するのです。

頑張りますよ!


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