表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/200

【外伝】近衛彦麿 ⑬

今回『英語訛りのロシア語』の表記がありますが、適当な表現が思いつきませんでしたので大阪弁を代用しています。

1931年12月11日


大変なことが起きてしまった。


アレクセイが暗殺されかけたんだ!


今日は建国記念日で、アレクセイが記念広場まで出向いて国民の前で演説を予定していたんだけれど、僕がアレクセイに渡そうとした原稿をアレクセイが落としてしまい、彼がうずくまって拾おうとした時に遠方から銃撃されたんだ。


弾はアレクセイが立っていた場所を正確に撃ち抜いていたから、姿勢を変えていなければ大変なことになっていただろう。

僕たちでも銃撃されたら危険なのは当然だけど、アレクセイの場合は少しの出血が命取りになってしまうから本当に危険なんだ。


犯人とみられる男はすぐさま警備隊に取り押さえられたけれど、別の男がその人物を射殺した後にすぐ自殺してしまったから背後関係は分からずじまいだった。


だけど…そんなことをするのはスターリンしかいないね!


移民や難民に紛れてスターリンの暗殺部隊がやってくるかもしれない事は以前から予想されていたけれど、対象人数が多すぎて十分な対策が出来ていなかったのは失敗だった。


もっとまずい事はゴリツィン首相が引責辞任してしまったことだ。

アレクセイの命を危険にさらした責任と、万全の警備態勢を敷くことが出来なかった為というのが理由らしい。


そしてゴリツィン首相は辞任する直前に僕を呼んだ。


「コノエ侯爵。私ではもはやお役に立てないことがはっきりしましたので、首相の座を降りる事にしました。

後はよろしくお願いします。

陛下と侯爵でこの国を導いていってください」


「首相閣下…」


とてもお世話になったからね。

なんか悲しくなってしまうよ。


「いやいや。そんな顔をするものではありませんぞ。

私の年齢をご存知ですかな?

もう81歳なのですぞ!?

私に先は有りませんし、コノエ侯爵に総理の座を引き継げるのであれば安心して私も引退できますから、これで良かったのです」


「…今まで本当にありがとうございました。

何とかこの国とアレクセイ陛下をお守りして次代に繋げる事をお約束します。

また、私は決して休まずに走り続ける事も併せてお約束します」


「ほほほ。期待させていただきましょう。

では頼みましたぞ…」


大変な責任がこれから僕を圧し潰そうとするだろう。

だけど負けるわけにはいかない。

アレクセイとアナスタシア。そして可愛い子供たちの為にもね!



1932年1月


僕が27歳でロシア立憲君主国第二代首相に就任して以降、本当に忙しい日々が続いている。

最初に手掛けたのが、当然ながら共産党対策だ。

二度とアレクセイが狙われるなんて事態が発生しないように、しっかり対策をしなくてはいけないんだけれど、そもそもアレクセイが国民の前に姿を現す機会はそれほど多くない。


先日の建国記念日、年始のスピーチ、先の大戦における戦没者追悼式などがその主な公式行事だ。

そういった場所での警備体制を強化するのは当然として、やはり専門の防諜組織の必要性が高まってきたので新たに部署を立ち上げる事にした。


最近まで知らなかったのだけれど、日本には既に専門の防諜・諜報を目的とした組織が存在していて、随分以前から活動しているみたいだ。

それはどうやら対象国別に複数存在しているみたいで、ロシア人が中心となっている組織まで存在するという話だった。

まあどこまで本当なのかはよく分からないけれどね。


それはともかく、僕が新たに作った諜報組織の名称は「Komitet Gosudarstvennoy Bezopasnosti」日本語直訳で『国家安全委員会』というものだ。


略して「KGB」だね。


立派に活躍してくれることを祈ろう。



1932年2月


日本では世界恐慌に端を発する経済的な混乱も、取り敢えずは落ち着いて来た事もあって、再び政権交代と言うのだろうか?

高橋是清首相は再び父上に政権を返上して、自身は大蔵大臣の職に戻ったらしい。

高麿兄様を含めたその他の閣僚は依然として変更無しだったから、我が国も安心して取引が出来るから有り難いね。


一方、ドイツでは先月、大きな政治的変革が起きた。

それまである程度力を持っていた共産党に代わって、アドルフ・ヒトラーという人物が率いる政党、民族社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)が第一党に躍進して政権を樹立させたんだ。

そしてドイツ国大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクによって、ヒトラーはワイマール憲法下における10人目の首相に任命された。


この人物の主張をよく聞けば、それは右翼、それも極右と判断して良いような主張を繰り広げている。

簡単に言えばドイツ人最優先であり、国内に居住している共産党勢力やユダヤ人排斥を声高に主張していて、ドイツを再び偉大ならしめると宣言している。


この国はここ10年以上にわたって外国の悪影響を受け続けたから、ゲルマン民族の危機意識を刺激してナチス党躍進に繋がったのではないかと思う。

問題はこれからどうなるのかだね。

彼らがこれまでの諸外国から受け続けた仕打ちに対する復讐を考えているのではないか心配だ。


そう言えば大戦終了後に行われたヴェルサイユ講和条約締結後に高麿兄様が呟いていた事があったのを思い出した。

「結果としてドイツを追い込み過ぎた。これで新たな戦争が避けられなくなった」と。

当時は意味が分からなかったけれど、今なら分かる。

そしてスターリンと同様に、このヒトラーも要注意人物らしいからとても心配だ。



1932年3月下旬


イギリス国王ジョージ5世が日本と、続いてロシアに親善目的でやってきた。


同盟国である大英帝国の元首としては初めての訪日であり、これを受けた日本国内では国民総出で歓迎する態勢を整えたとのことだった。

現在の強固な日英同盟を象徴する出来事であり、世界中に大きく配信されていて話題になっているみたいだし、もちろんロシアの新聞でも大きく取り上げられている。


また、国際連盟の総会がちょうど開催されている時期と重なったために、国王が国連総会に出席して演説を行うという歴史的な行事にも繋がったらしい。

その国際連盟本部は先の震災で被害を受けたから耐震性を高めたうえで拡大・新築されていて、その工事が完成して移転を終えた事と重なり、これまた大きな記念となったとの話だった。


日本では2週間ほど滞在して、高麿兄様夫妻が奈良と京都を案内して回ったらしい。

季節的にも桜の時期だから、きっと景色も美しかったんだろうね。

僕が桜を最後に見てからもう随分と時間が経ったけれど、またいつか見ることが出来るだろうか?


そしてジョージ5世は4月中旬にロシアに到着した。


この際に最も気を付けなくてはいけないのが共産主義者によるテロだ。

アレクセイに続いてイギリス国王まで狙われるなんて事態は絶対に避けなくてはいけない。




Side:諜報員たちの動き


私は先日、新たな諜報組織であるKGBの一員に選ばれて活動を開始した。

主な任務は当然ながら共産主義者のあぶり出しと摘発だ。

だが、慣れない仕事で失敗ばかりしている。

そんな日々の憂さを晴らそうと酒場にやって来て一人で飲んでいたのだが、見知らぬ男に声を掛けられた。

見た感じは私と同じロシア人に見えるし、年齢もさほど変わらないのではないかな?


「よう!兄弟。仕事は順調かい?」


そう言いながら馴れ馴れしく私の隣に座って酒を飲み始めた。

…なんなんだ?

しかし男は私の疑念なんて無視するかのように一方的に話し始めた。


「俺は日本の諜報組織で活動しているんだが、あんたに貴重な情報を渡しておくよ。

実はな…アレクセイ陛下を狙った暗殺犯がまだ残っているぞ。

まずは3ブロック向こうの赤い屋根の宿だ。

そこの2階に2名が潜伏中だ。

そして連中は今度はイギリス国王も一緒に狙うらしい。

これはロシアとイギリスの離間策と見ていいだろう」


えっ??何だと!?

聞き捨てならん内容だが、はい、そうですかと応じる馬鹿はいないだろう。


「…そんな話は私には無関係なのですが」


男は手をヒラヒラさせて笑いながら言った。


「いいんだよ。隠さなくてもな。

俺たちはコノエ閣下を守りたいだけなんだ。

だからアレクセイ陛下もついでにお守りするって話さ。

これまで何人も共産党員を始末してきたからな」


そんな事を堂々と話して良いのか?

ここで男は声を低くした。


「もっとも先日の建国記念日の事件は失敗だった。

他の奴を追っていたんだが、そいつらは陽動だったらしくてな…

最近の奴らの動きは巧妙でね。

しかも数が増えてきて我々だけでは対処し切れなくなってきたから、あんた達と協力したいって話さ」


いきなり信用は出来ないが、この情報の裏付け捜査は必要だな。

こいつが指摘した宿に踏み込んでみよう。


それとよく周囲を観察すると、こちらを見ている人物が複数いる事にも気付いた。

どうやらこいつの仲間らしいな。


それにしてもコノエ首相を守りたいだと?

という事は、この連中はコノエ家に雇われているのか?

コノエ首相の実家は日本では最高位の貴族らしいから、カネはたんまりあるんだろうな。


「…とにかくその宿は今夜にでも調査してみよう」


「そうしてくれ。なに、礼には及ばんし、我々はこっちで10年以上活動しているから慣れたもんだ。

これからも頼ってくれていいぞ」


この言葉、額面通りに受け取れんな。

何より我らにも意地があるのだ。

負けずに共産主義者どもを摘発せねばならん!




Side:近衛彦麿


早速KGBが暗躍、、、もとい活躍してくれたみたいで、テロリストと思しき複数の男が摘発された。

その際に報告を受けたのだけれど、ロシアにて潜伏している日本のスパイ組織の協力と情報提供があったみたいだ。


う~ん。

結果は危機を回避出来たから良いんだけど・・・日本といえども外国のスパイ組織がロシアで暗躍しているって事実は、決して気持ちの良いものでは無いから知りたくなかったかも。

こちらも負けないようにKGBをもっと強化しなくてはいけないね。


この件は重大だからアレクセイのみならず、義父上にも報告しておいた。


「先帝陛下。

ウラジオストク市内に潜伏中の共産主義者を複数名摘発しました。

この者たちは先日の皇帝陛下暗殺未遂犯の仲間で、今回はジョージ五世陛下までテロの対象となっていましたが、無事に排除出来ましたのでご報告いたします。

同時に彼らが潜伏していた拠点も特定して関係者も逮捕できましたので、今後もKGBによる諜報活動に注力いたします」


「………」


おや?

僕はひざまずいて報告していたのだけれど、返事が無いから顔を上げて義父上のほうを見た。

不手際に対してお怒りなのだろうか?

この部屋には侍従長をはじめ、お付きの人や衛兵たちなど総勢10人以上いるけれど、全員の目が義父上に注がれている。

皆さん怪訝な表情をしているね。侍従長とも一瞬目が合ったけれど不思議そうだ。


「…陛下?」


僕がもう一度声を掛けると、義父上は何故か慌てた様子で言葉を発した。


「…おっ、ほんまでっか?

それはえろうすんまへんなあ…」


・・・態度もそうだが、言葉と声がいつもと違う。

どちらかといえば義母上の話し方、つまり英語訛りのロシア語に聴こえる。

それによく見たら先帝陛下とは何となく雰囲気が違う。


もしかして…

僕が凝視していると先帝陛下?が咳払いをして喋った。


「うおっほん!

わしや。ジョージやねん!」


やっぱり!

知らない間にお互いの服を交換していたらしいけど、ちょっと聞かれてはまずい事を外国の元首に直接喋ってしまったじゃないか!

こりゃ防諜も何もあったもんじゃ無いね。


部屋の中にいる人間はジョージ五世以外は全員ドン引きだ。

これって国王陛下以外の人間がやったら逮捕案件だよ?

思わず衛兵に向かって「逮捕しろ!」って叫びそうになった。


いやちょっと待てよ。

という事は逆に今頃は義父上もジョージ五世の格好で??

…外交問題に発展するからやめて欲しい。

それに何かあった場合の尻拭いは僕に回ってくるんだよ?


これ以降、味をしめたジョージ五世陛下は義父上と共謀して、双方のお付きの人たちに対してお互いの服を交換しあって「俺は誰だ?」と驚かす遊びに熱中しているけれど大丈夫なのかな?


見た目がそっくりだからお互いの臣下の人たちも驚いているし、僕も引っかかってしまったくらい似ているからね。


アナスタシアとタチアナ義姉上はさすがに見破ったらしいけど。


こんな出来事は当然だけど文書には残らない。だけど関係者の記憶には深く刻まれるだろうし、両国の関係性を語る上でも重要な話として語り継がれるだろう。

つまりは問題ないってことだね。


まあ、お互い平和だから良しとしますか。


本当はこんな平和な時間がずっと続けばいいんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>略して「KGB」だね。 お前がそれ設立すんのかよォォォォォ!?!?!? 爆笑したわ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ