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【コミカライズ化決定 現在準備中】明治に転生した令和の歴史学者は専門知識を活かして歴史を作り直します  作者: 織田雪村


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109/200

【外伝】近衛篤麿 ㉔震災からの復興

1923年(大正12年)10月末


彦麿たちはロシアに帰ってしまった。

また少し寂しくなるな…

だが、私はそんな感傷に浸る贅沢は許されていない。

何といっても先の地震、最近では関東震災と呼ばれるようになってきた災害からの復興という重い課題があり、今も閣議で協議中だ。


犬養(いぬかい)内相。震災の被害状況はまとまりましたか?」


「近衛首相。幸いにして東京中心部の被害は大きなものでは無かったのですが、やはり東部の住宅密集地の被害は大きく、住宅の損害は東京・神奈川をはじめ全体で11万棟に上ります。

また東京湾一帯の港湾設備や臨海部における工業地帯の被害もかなり甚大で、被害額は合計しますと15億円ほどに上るものとなりそうです」


一同から大きなため息が漏れた。

東京東部はその昔は未開の湿地帯であり、人が住むどころか通行するような場所ですら無かったのだと聞いた事がある。

その証拠に上総(かずさ)の国と下総(しもうさ)の国の関係が挙げられよう。

現代の感覚だと奈良の都に近いのは現在の下総地域であり、上総はその奥に位置するのだから上下の命名は逆であったはずなのに、都との行き来は三浦半島から船によって行っていた為にそう呼ばれたのだ。

そのような土地だったが為に住宅被害を拡大させたのであろう。

被害が15億円とは途方もない金額だが…10年前ならいざ知らず、現在ではどうにもならないという金額でもないだろう。

ここで高橋蔵相から発言があった。


「15億円となりますと、今年度の政府予算が25億円弱ですので、概ね6割に当たります。

幸いにしてこれまでの好況に支えられた税収増や、先の大戦による特需などの経済効果による増収が大きく、復興そのものには大きな障害とはならないでしょう。

また、大戦時に英仏に貸し付けている戦時債権からの利息も受け取れますので、これも大きな追い風です。

ただし、これらは社会資本に対する復興策ですので、民間の金融機関に対しても何らかの支援策が必要と考えております。

今後は貸付金の増大、及び貸し倒れの頻発といった事態が予想されますので、銀行への資本注入なり、引当金の増強なりの支援をしないと震災を契機とした不況に陥りかねません」


確かに銀行の経営が行き詰まると景気の足を引っ張るからな。

うん?高麿が何か言いたそうだな。


「高橋蔵相。それに関してなのですが、私が東パレスチナを訪れた際に、あちらの蔵相に融資のお願いをしてありますので活用なさってはいかがですか?」


東パレスチナの蔵相というと…ロスチャイルドか!

これは心強い味方だな。


「近衛国防相。それは大変ありがたいお話ですが、どれほどの金額をどのような条件で融資いただけそうでしょうか?」


「先日も改めて確認したのですが、10億円を無利子で融資してもらえるという話でしたし、必要ならばいくらでも追加するから、遠慮なく金額を申し出て欲しいとの事でした」


みなが驚嘆の声を発しておるが私も同様だろう。

10億円だと!?そんな巨額を無利子で貸し付けてくれるというのか!?

全員驚愕しておるのも無理はないな。


「これは…とんでもない金額ですが、何故そこまでの大金を、しかも無利子で融通して下さるのでしょうか?

それに…申し上げにくいのですが、これをきっかけに日本がユダヤによって経済的な支配を受けたりはしませんでしょうか?」


「先方の話ではこれまでの恩返しのつもりのようですから、その恐れは小さいでしょう。

ですが、仰るようにユダヤに対して大きな借りが出来てしまいますから、いずれ何らかの形で恩義に報いねばならないでしょう。

…例えばですが……ユダヤ人の移住に協力するとかですね」


なるほど…ヨーロッパ方面にはいまだに多くのユダヤ人が住んでいるからな。

日本が率先して移住の手伝いをせねばならぬ状態かどうかは疑問だが。


そしてユダヤからカネを借り、市中銀行の体力強化を図る方針が決定されたのだが、閣議が終わった後で高橋蔵相が高麿に質問していたのが耳に入った。


「近衛さん。貴方の提案でアメリカの短期債や有力株の保有を進めておりますが、それらは現時点でも相当な金額に膨れ上がっておりますので、わざわざユダヤ人からの融資を受けなくても、手持ちの株を売却すれば済む話なのではないでしょうか?」


「実はですね高橋さん。まだその時期ではないのですよ」


「ほう??時期ではない……つまり時期尚早というお話ですか?

まだまだ株は上がるから持っておいた方が良いと?」


「まあそういう話ですね。売却するのは…そうですね…

5年ほど先となりましょうか。

ただし、その時も一気に売っては相手に”迷惑″をかけますので、悟られぬよう徐々に売却しなくてはいけませんけれど」


「なるほど、なるほど。"迷惑“をかけてはいけませんなぁ…では"迷惑“を掛けない範囲で引き続き買い増しを進めておきましょう」


…禅問答では無いにしても謎かけのような、何とも妙な会話をしておるな。

まるでアメリカの株式が、ある日を境に一気に暴落することを前提としておるみたいではないか。

高橋蔵相は平然と対応しているが、内心ではどう思っているのであろうか?



震災からの復興だが、以前と同じ状態に戻す「復旧」では意味が無い。

丁度良い機会だから区画整理からやり直しだな。

災害に強い街づくりをせねばならぬだろう。


国際連盟本部も建て直しが決定した。

まあ元があの鹿鳴館という国辱的建造物だったのだし、惜しいとも勿体無いとも思わぬがな。

世界の国々が参集するに相応しい建物を建てなくてはならんな。


その復興に際してはカムチャツカ半島の森林資源は本当に有益なものとなっている。

何より日本から近いというのは大きな利点だ。

もしも樺太島やカムチャツカ半島の森林資源が使用できなければ、遠く北欧辺りからの輸入に頼らざるを得ず、距離が長い分それだけで高くついてしまうのだ。


おかげで民間住宅に関しては輸送費などの経費を除けば資材がほぼタダで手に入るから、利益無視の格安料金で建設業者に払い下げしておるし、ユダヤからの無利子融資を利用して建て替え希望者に対しても極低金利にて政府から貸し付けておるから、新規住宅建設によって関東のみならず日本中が好景気に湧いている。


むろん金融機関への資本注入は最優先課題だったから積極的に行っており、相当数の貸し倒れが発生したものの銀行の経営に悪影響は出ていない。

この辺りの事は高橋蔵相にお任せしているが、さすがにこの人はやる事に無駄が無く、見事と言うしかない金融手腕を発揮しておる。


一方で最も厄介だったのが港湾設備と工業地帯の被害だった。


犬養(いぬかい)内相。東京湾一帯の工業地帯における復興の進捗(しんちょく)状況はどうなっていますかな?」


「首相閣下。土地が軟弱であったためか、あちこちで海水混じりの砂が噴出して建物が傾く被害が出ております。

こうなりますと、例え建物自体が無事であっても全壊の判定となってしまい、地盤の改良を行ったうえで工場そのものを建て替える必要が出てまいります。

これは港湾設備においても同様で、新規で造るよりも時間がかかってしまいます。

従いまして国内の主要な工業地帯のうち、最大の京浜工業地帯の操業が実質的に止まってしまっている影響は大変大きく、阪神や北九州といった他の工業地帯への分散を進めておりますが、京浜工業地帯の生産能力を全て代替できるほどの規模ではありませんので頭が痛いです」


ふむ。これは厄介だな。

新しく設置した商工大臣の意見も聞いてみよう。

初代商工大臣は山本達雄という日銀総裁を務めた事もある政治家だ。


「これは非常事態と考えますが、山本さんは有効な対策としてはどのようなものを考えておられるでしょうか?」


「近衛さん。私が考えるのは"災い転じて福となす“という言葉です。

つまり、確かに京浜工業地帯が大損害を受けたのは災いですが、時間をかけて福とする好機であるとも言えます」


ほう?それは興味深いな。


「なかなか斬新なお考えだが、具体的にはどのようなものなのですかな?」


「はい。裏日本側の活用です」


「裏日本というと…日本海側の事ですな?」


「そうです。最近のロシアとの交易と今後の見通しを考えますに、地下資源の豊富なロシアから鉄鉱石や石炭といった原材料を太平洋側の工業地帯ではなく、より距離の近い裏日本側で活用するのです。

つまり、日本海を大きな工業地帯に見立てて、ここで完結してしまうという考えです」


なるほど!これは彦麿が私に進言していた内容と同じだな。


「確かにそれは先々を考えると有力な提案ですな。

そうなりますと有力な候補地としてはやはり新潟ですかな?」


「そうですね。数年前に行われた第一回国勢調査では、新潟県の人口は全道府県の中で8位まで落ちてきてはいますが、20年ほど前までは全国で1位であり、東京府や大阪府よりも人口が多かったのです。

従いまして潜在的な能力はいまだに高いものと考えますし、地理的にも北海道各地や秋田、庄内、金沢、富山といった地域との連携も可能となるでしょう。

これによって国土の均一な発展を促し、東京への一極集中という弊害を是正するきっかけにもなると考えます」


一石二鳥どころでは無い、なかなか魅力的な提案ではないか!?

これが実現すれば、さっきこの人が言った「裏日本」などという悪い言葉は消えるだろうし、もしかすれば「表」と「裏」がひっくり返るかもしれんな。

これは江戸時代は日本海航路が主流だったのだし、荒唐無稽な話でも無いだろう。


「もっともこれは首相閣下の御子息であられるロシア侯爵閣下からの提案でありまして、私なりに改良を加えた考え方でありますが」


そういうことか。既に根回しをしていたとは中々やるではないか。


犬養(いぬかい)内相や高橋蔵相のご意見はいかがですかな?」


二人は声を揃えていった。


「近衛首相。それは大変素晴らしい発想だと思います。この機会にやってしまいましょう」


よし!少し光明が見えてきたな。

そうであれば新潟において候補地を選定して実行しよう。

これでロシアとの交易はますます盛んになりそうだが、高麿がいつも言っているように近隣諸国で助け合う事にも繋がるし、有力な景気対策でもあるな。


上手くいけば、未だに後進地から完全に脱却出来ておらぬ東北地方の貧農対策としても使えるだろう。


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― 新着の感想 ―
>これでロシアとの交易はますます盛んになりそうだが、高麿がいつも言っているように近隣諸国で助け合う事にも繋がるし、有力な景気対策でもあるな。 やはりwin-win!win-winこそが世界を救うのだ…
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