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第一四九話 シャルロッタ 一五歳 魔剣 〇九

「ディートリヒイイイッ! 出てきなさいッ!」


「ば、化け物だ……誰だインテリペリの辺境の翡翠姫(アルキオネ)はか弱い女だとか言ったやつは!」


「演劇のイメージと全然違うじゃねえか! なんだよこれ!」

 わたくしが槍を振り回すたびに、兵士の体が宙を舞う……一応手加減をしていて、大怪我レベルにはなると思うけど命に別状はないはずだ。

 一人の兵士が背後、通常であれば完全な死角から槍を突き出すが、だから遅いんだよなあ……そちらを見ずにわたくしは最小限の動きで攻撃を避けると、右手にもつ不滅(イモータル)の腹を使ってその兵士の頭に叩きつける。

 一撃で昏倒した兵士はそのまま大の字になって倒れるが、彼の兜はベッコリと凹んだ状態になっており、それを見た他の兵士が悲鳴をあげて踵を返すと逃げ出してしまう。

「やべえよ! こんなの聞いてねえよ! 助けてええッ!」


「……な、なんか化け物みたいな扱いしているけど、わたくし普通の令嬢なんですわよ?!」


「一撃で人を倒す令嬢なんかいねえよ!」

 あら、そうなんだ……わたくしが知っている令嬢は割とバイオレンスな連中が多い気がするので……プリムローズ様とかラヴィーナ様とか普通の兵士より戦闘能力が高い令嬢を見過ぎてて、これでもセーブしているつもりになっていた。

 さっきまで頭に血が上ってあまり見てなかったけど、わたくしの周りには腕をへし折られたり、足があらぬ方向に曲がってたり、打撲だらけの兵士たちが呻き声をあげてぶっ倒れている。

 ちょっとやりすぎたか? でも少なくともわたくしに襲い掛かろうとする兵士は一人もいなくなった、そのまま左手に持った槍をポイ、と投げ捨てると先ほどから動こうとしないディートリヒに向かって右手の剣を指し示す。

「さて……ディートリヒ・コルピクラーニ! 天に代わってお仕置きしてあげますわ!」


「くく……クハハハッ! そうかそうか……やはりお前は魔性の女だったと言うわけだ……シャルロッタ・インテリペリッ!」

 次の瞬間、予想以上の速度でわたくしとの距離を詰めたディートリヒが剣を振るう……その攻撃はまるで、熟練した剣士のような見事なもので、正直舐めて掛かってたわたくしの意表をついた形となり、わたくしは咄嗟に防御体制をとってその一撃を受け止めた。

 ギャアアアン! という甲高い音があたりに響き渡る……嘘だろ? ディートリヒは確かに戦士としてはそれなりの腕とは思っていたが、距離を詰めた動きは明らかに人間の限界を超えているようにも思えた。

「く、な……っ!?」


「シャルロッタァァァァ? 殿下に差し出す前にお前の隅々まで俺が楽しんでやるぞ?」


「く……このゲスがッ!」

 剣を振り上げて相手の体勢を崩すと、わたくしは空いた左拳を握り締めディートリヒの胸元へとパンチを叩き込む……ドゴッ! と言う鈍い音が響き、彼が着用している金属製の胸当て(キュイラス)へわたくしの拳の跡がくっきりと刻まれる。

 だがその攻撃をものともせずにディートリヒは再び前へと出る……黒い刃が閃光となって幾重にもわたくしに向かって伸びるが、反応できない速度じゃない! 不滅(イモータル)を使って叩き落としていく。

 剣と剣が衝突するたびに甲高い金属音と、あたりに火花が散っていく……おかしい、この速度はおかしい……明らかに彼は目で見て剣を振るっていない、と思った瞬間。

「うぎゃああっ!」


『……この肉体は脆い……脆すぎるぞ!』

 ボギャアッ! と言う鈍く嫌な音を立てたディートリヒの剣を持つ右腕が、負荷に耐えきれなかったかのように幾重にもへし折れる。

 だが剣はまるで自ら意思があるかのようにそのままの速度で、ありえない角度に腕を捩りながらわたくしへと迫ってくる。

 その攻撃をわたくしが簡単に弾き返すと、今度は彼の右脚が凄まじい音を立てて捻れて体ごと勢いを殺さずに回転切りを仕掛けてくる。

「お、俺のから……アフェええっ! ま、魔剣ディム・ボルギルウウウウッ! どうして、どうしてだ!」


「魔剣? もしかしてそれは知性を持(インテリジェンス)つ剣(ソード)ってやつかな?」


『左様、我は魔剣ディム・ボルギル……強き魂よその血を我に捧げよッ!』

 剣はすでにディートリヒの意思を超えて自ら血を求めるように、宙を舞い歴戦の戦士が振るうような力強い太刀筋で振るわれていくが、その無理な動きに彼の肉体が耐えきれなくなったのか、骨が肉体が捩れて引き裂かれ、全身から血を吹き出しながら壊れたマリオネットのようにわたくしへと迫ってくる。

 その凄まじい光景を見た兵士たちが悲鳴をあげてその場から必死に離れようと這いずっていくが、それを見たディートリヒ、いやまだかろうじて息はあるがあの体を操るのは魔剣ディム・ボルギルだが、兵士の背中にドカッ! と刀身が突き刺さる。

「いぎゃあああああっ!」


『血だ、血をよこせ!』

 剣を突き刺された兵士はまるで血を吸い取られていくように干からび、そして悲鳴をあげたまま全身の液体を抜かれてまるで枯れ枝のような外見となって崩れ落ちていく。

 血液を吸い取った魔剣ディム・ボルギルはさらに強く黒いオーラを発し、ディートリヒの肉体を破壊しながらわたくしへと迫る。

 こいつは……ディートリヒはもう助けられないだろうな、元々助ける気はなかったけど流石に悲鳴をあげて体を破壊されながら突進してくるのは完全にホラーと言ってもいいかも。

「魔剣の能力に体がついて行っていない……いや、そもそも主従が逆ってパターンなのね」


『お前の血をよこせ! 強き魂よ!』


「残念……あげられるものは何一つないのよ?」

 意志を持つ魔剣ディム・ボルギルがすでに意識はなく虫の息になっているディートリヒを引きずりながら、凄まじい勢いで刀身を振り下ろしてきたのを見て、わたくしは左拳に魔力を込める。

 まずは剣自体を仮初の肉体から引き剥がす……わたくしの脳天を直撃しようとした剣の腹を音速に近いわたくしの拳が思い切り貫く。

 グギャアアアン! という少し鈍い金属音を奏でながら、魔剣ディム・ボルギルがディートリヒの手を離れて吹き飛ぶ……美しかった黒い刀身はへし折れ、そのまま近くにあった大きな岩に突き刺さる。

『グアアアアアッ! き、貴様……我の美しい体を……』


「あ、あ……た、助け……」

 剣の方はまあこれで動けなくなるだろう、とりあえず今は……剣を虚空へとしまい直したわたくしは地面に倒れたディートリヒへと歩み寄る。

 彼の四肢はあらぬ方向へとへし折れ、曲がり……彼は全身から血を流しながら、かろうじてわたくしを見上げる両目からボロボロと涙をこぼして苦しんでいる。

 全く……わたくしは治癒が得意ではないってのに、彼の側へと近づきしゃがんでから魔力を集中させていく……流石にまだ生きているディートリヒを見殺しにするのは哀れに感じた。

 わたくしはふうっ、とため息をつくと魔力を解き放つ……もっと効果的な魔法もありそうだけど、これくらいしか覚えられないから仕方ないな。


「……痛いですわよ? 今折れたり曲がっている箇所を無理やり戻すのですから、復元(レストレーション)

 暖かな光がディートリヒをつつむが、それと同時にあらぬ方向に曲がった腕や足が強制的に元の姿に戻ろうとして、操り人形のような動きを見せる。

 だが無理やりに骨や関節が元に戻ろうとした時の激痛で、ディートリヒは声にならない悲鳴をあげると、口から泡を吹き出して悶絶したまま気を失う。

 だがディートリヒの壊れた四肢は元の姿へと戻っていく……この魔法は人体を元に戻すのに使うのではなく、破壊されたものを強制的に元に戻す時間操作系の魔法だ。

 治癒ではないため失った血液などが戻らない……だから下手をすれば痛みで死ぬこともあり得るし、死体にかけても命は元に戻らない、あくまでも肉体の欠損などを補完する為の魔法でしかない。

「エミリオさん、治癒の加護を……このままだとディートリヒ様は死んでしまうので」


「あ、は……はい!」

 その様子を見ていたエミリオさんが慌ててわたくしの元へと駆けてくる……コルピクラーニ子爵の軍勢は大半が大怪我を負って呻き声を上げており、見てられなかったのか彼は重傷者を手当てしていたのだ。

 大勢はついたかな……わたくしは立ち上がると、未だこちらへと武器を構えて威嚇している兵士たちへと視線を向けるが、彼らは完全に目の前で起きたことが理解できずにいるようだ。

 わたくしは黙って彼らから視線を外すと、岩に突き刺さったまま何やら喚いている魔剣の方へと向かう。

『き、貴様! 正々堂々戦え! 我を振るうものを返せ!』


「正々堂々って、所有者の身体を破壊した貴方がいうものではないわよ?」


『く……そ、そうだ我を所持しないか? 我の能力を見ただろう?』


「……必要ないわ、だって貴方今から鉄屑になるんだもの」

 わたくしがにっこりと笑って魔剣ディム・ボルギルを岩から引き抜く……彼は必死にわたくしを支配しようと黒いオーラを吹き出して包み込もうとするが、残念ながらわたくしが展開している防御結界を貫通するには至らない。

 何度かわたくしへと触れようとして触手のようにオーラを伸ばすが、それが叶わないとわかった瞬間、わたくしの中へと魔剣の意志……絶望感のようなものが伝わってきた。

『や、やめ……壊さないで……』


「今からわたくしが考えていることを当ててみなさい?」


『え? ……も、もしかしてこれは……我を破壊する……?』

 絶望に満ちた意志を感じたわたくしは、魔剣ディム・ボルギルをふわりと宙へと放ると両拳に魔力を込めてほんの少しだけ腰を落とすと見えているかわからないけど、彼に向かって満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔は、後でユルから「あんな幸せそうな笑顔はここ最近見なかったですね」と言われてしまうくらい、喜びに満ちたものだったそうだ。

 わたくしは宙を舞う魔剣ディム・ボルギルに向かって全力で左右の拳を叩きつけると、あたり一体に金属がへし折れ粉砕されていく鈍い音が響き渡っていく。


「ここからはお仕置きよ? わたくしの前でバカをやった連中は全部こうやってお仕置きされるの……じゃあ、オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

_(:3 」∠)_ もしかしてお仕置きですかぁ〜? yes!yes!yes! 的な


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[良い点] あ、これアヌビス神とアトム神の末路じゃんw [一言] バスタードの似た名前の人はもうちょっと粘ったのにw
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