表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/126

99:黒い商人、白い商人②

 宿に戻ると、カウンターの向こうの親父さんに呼び止められた。

「よう、若い商人さん。あんたにお客さんだぜ」

 顎をしゃくって奥のテーブルを指す。


 振り返ると俺と同じ位の年の男が立ち上がって一礼する。


 誰だろう?

 とにかく、礼儀正しく挨拶されたんだから、こっちも同じ様に頭を軽く下げる。

 近寄ってきた男、って言うか少年は、そこでようやく俺をはっきり見た様だ。

 ずいぶん驚いた、って表情を隠し切れていない。


 身長は俺より五センチは低いけど、この世界の平民では長身の部類にはいるんだろうね。

 ダークブルーの瞳は角度次第で黒くも見え、高すぎない鼻も合わさって、ちょっとばかり日本人っぽい。

 俺の何に驚いて呆けてるのかは知らないけど、それを除けば、年に似合わない責任感のある顔立ちに感じる。

 この世界では立派な大人の年齢だからだろうか?


 そんな事を考えながら、声を掛けた。

「何か?」


 俺の声にようやく顔を引き締めたけど、それでも慌て気味に返事を返して来た。

「あ、い、いえ。失礼しました。話に聞いていたより随分とお若いので、ちょっと驚きまして。

 あの、リョウヘイさんで間違いありませんよね?」


「うん、そうだけど。あんたは?」


「失礼しました。私、商業ギルドから派遣されたマーニーと申します」


 “ギルド!”

 何ってこったい。精霊がギルドって言った時、俺はてっきり冒険者ギルドだとばかり思い込んでた。

 でも、同業者組合(ギルド)ってのは、文字通りの存在だ。

 別に冒険者に限って設立されてる訳じゃ無い。

 こりゃ、マズイ。

 街のギルドを通さずに商売をした事に抗議があるってなら、こいつは厄介だ。


 下手すりゃ、街から追い出されかねないぞ!


「あ~、マーニーさん」


「はい」


「もしかして、塩、の件ですか、ね」


「はい、その通りです」


 話が早い、とばかりにマーニーは笑顔で頷く。

 反面、こっちは冷や汗タラタラって感じだ。

 慌てて取り繕った。

「いや、すいません。言い訳になりますけど、少量だったもんで『ギルドを通すほどの事では無い……』って相手に言われたんですよ」


 これは嘘じゃない。

 だからローラも取引の危険性を指摘はしなかったんだ。


 けど、マーニーの返事は拍子抜けするほど物わかりが良い。

「いや、それは相手の方の言う通りです。報告は受けてますよ。

 あの程度の量なら見本扱いですから、問題ないです」


 何だ、問題無かったのか。ホッと息を吐く。

 後ではローラまでへたり込んだみたいになって、椅子の背もたれに突っ伏してしまう。


「あれ? それじゃあ?」

 ようやく落ち着いて尋ねる。

 けど、マーニーの話は妙な方向に向かって行った。


「今、言った通りです。見本、として我々本部の方にも流れて来まして、ギルド全体で一口乗せてもらえないか、と話が進んでおります」


「はぁ」


「それで私が使いとして、お邪魔した訳です」


「はぁ……、なるほど……」

 いや、今は、それどころじゃ無いんですけどねぇ。


 と言っても、俺たちは『商人』だ。

 儲け話を突っぱねるのは、どう考えてもおかしい。

 何より、こいつが今朝の視線の原因だって言うなら、断った場合、話はあっという間に広まっちまう。


 どうやら、嫌でも仕事を進めるしか無くなったみたいだ。


 何やってんだろうねぇ。俺たち……。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 驚いた事に商業ギルドは侯爵の城に近い中央区画にあった。

 ほとんど家臣団の居住区の隣だ。


「こんなに城が近いんですね」

 見上げると、ダニクス候の居城である『イブリアッツ城』の城門まで続く階段までもがはっきりと見える。

 幅、四十メートル以上はある堂々とした階段が正面門まで二百メートル程は続く。

 そこを抜けても、更に階段は続いて、幾つかの関門を抜けないと最初の小館(ヴィラ)にすらたどり着けないんだろうって分かる。


 本当にデカイ!


「おおっ! おっきなお城なのです!」

 見事な内部城壁と壮麗な大尖塔(ミナレット)にメリッサちゃんは大興奮だけど、そのメリッサちゃんを守るように周りに目を配るローラは浮かない表情だ。


「どうしたの?」


「ねえ、奴隷がこんなとこまで近付いて大丈夫かしら?」


 なるほど、そりゃそうだ。

 マーニーさんに尋ねようとすると、とっくにローラの声が届いていたのか、振り向いて笑う。

「大丈夫ですよ。荷物の搬入に奴隷を使うことは幾らでもあります。

 反抗しない様に盟約がなされている分、平民より安全だと思われてますよ」


「あ、そういう考え方もあるのね」

 頷いて、ホッと息を吐いたローラもやっと城の美しさを鑑賞する余裕が出来たようだ。

 表情が柔らかくなった。


 でも、リアムだけは警戒を崩さない。

 平民の俺たちでは剣こそ持ち込めない区画だけど、それでも彼女が俺を守る体勢を崩す事はない。

 それぞれが違った表情で商業ギルドの門を潜る中で、俺はレヴァに呼び掛ける。


「悪意や敵意は?」


【特には無いな。だが、】


「何だよ?」


【見知った奴の視線を感じるな】



 ありゃ、これって、どうやら普通の取引じゃ無いみたいだぞ。


【ま、大丈夫だろう、て】


 ホントかよ……。



 そう言って大きく息を吐く俺。

 その俺を見つめる視線が建物の真上からあった、と知るのは、ずっと後の事になる。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「信用してくれた相手を裏切るのは、どんな気分?」


 若い。いや少女と言っても良い声質。

 廊下の真下の中庭を通って玄関に向かう一団を見て、柱の影で囁く。

 また、それに応える男の声も潜むように低い。


「いや! それは人聞きが悪う御座いますな。

 彼に危害を加える気は毛頭ありません」


「あなたは“そう”だろう。だが、彼は分からない」


「私は、あの御方も信用していますよ」


「身分だけで彼を押さえる事は出来ない。

 いや、その身分の正当性も怪しい、となれば、名分すら立たないと言うのに本当に甘い事だ……」


「仰せの通りではありますが、万一の場合は命に替えても彼らを脱出させましょう」


「考え無しは、これだから……」


 その言葉に返事は返らず、踵を返して先へと進む男の靴音だけが響いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ