91:反乱の裏側(後編)
「でも、そうなると、なんで男爵はスーザを囮にしようとしたんだい?」
だって、侯爵が反乱を起こしたってのも、伯爵領に攻め込んできてるてのも、全て嘘なんだろ?
だったら、スーザを攻める意味なんて何処にも無いじゃないか!」
そんな俺の疑問にピートは短く答える。
「囮、じゃなかったんだろうな」
「?」
「恐らくは町ごと人質にするつもりだったんだろう」
「はぁ?」
「まあ、仮の話として聞いてくれ」
「何?」
「さて、ここにリバーワイズ卿とは盟友と言っても良い間柄の人物が居たとしよう」
「うん」
「そこでだ。リバーワイズ卿の娘さんが捕らえられたって話をその人物が聞いたら、どうなると思う?」
「そりゃ、助けに行くんじゃないの?」
俺だってそうするよ、と付け加えたくなる。
「そう、そこが男爵の狙いだろう。では、リバーワイズ卿の盟友とは誰か分かるかな?」
えっ! 仮の話じゃ無くて、実在する人物の話なの?
さて、誰だ? 俺はしばらく考える。
……あれっ? いや、まさか! でもなぁ……。
う~ん。そうなると結構な辻褄が合っちゃうんだけど……。
「あのさ、ピート……」
「答を、」
急かされるように促されて、ようやく俺は考えを声にする。
「もしかして、その人物ってのが、ダニクス侯爵なのかい?」
「正解だ」
ピートは満足気に頷いた。
そう言われたって疑問は残る。
「でも、男爵軍が最初にスーザを襲撃した時。ローラもメリッサちゃんも町には居なかったんだぜ」
「確かに、その襲撃の理由までは分からん。
まあ、男爵が実戦部隊に明確な目的を話してなかっただけかもしれんな。
或いは町を襲ったとなれば、自然と娘さんたちも捕まってると勘違いさせられると考えたのかもしれん」
「下手すりゃ、ローラ達が死んでたってのに?」
「奴隷を取るって名目だから、既に奴隷になってる亜人を兵が殺す事は無いだろうって考えたんじゃないのか?」
「あ、なぁるほど……。そう言えば、最初は生け捕りにこだわってたね」
だから俺たちも、狙いは竜甲兵造りだって思い込んでた。
二重の狙いもあったのかも知れないから、断言は出来ないけどさ。
そう考えながら小さく頷く俺に、ピートは事実を裏付ける様な言葉を付け加える。
「山小屋でもそうだ。ギルタブリルからは“彼女達を絶対に殺すな!”と命令されていたよ」
こりゃ、思った以上に話はややこしい。
どうやら、ダニクス侯爵に直接会う必要が出てきたみたいだ。
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話を変えて俺は別の疑問をピートに投げかける。
「処で、ルルイエが仕えてる公爵家だけど、え~っと、確か?」
「ミュゼーゼンベリア公爵家だな」
「そう、そのミュゼーゼンベリアって貴族は、この偽反乱の事を知ってるんだよね?」
「勿論! そうでなければ、ルルイエが使者として赴く訳は無い」
「目的は、侯爵との協調?」
「それは、未だ言えないが、まあ、悪い話を持ち込む訳では無いんだろう。
内容を知って居るのは、あくまでルルイエだ」
そのルルイエと云えば、瞼を閉じて俺と目を合わせる事を避ける。
全ては秘密のままに、って事か……。
なら、別の質問をして見よう。
「ふ~ん。じゃあさ、他の貴族は、どうなの?」
「そこだ……」
「そこ、って?」
「どうやら、ほとんどの貴族はこの反乱が濡れ衣だと知って居て、ダニクス候を追い詰めようとしている様だ」
「なんで?!」
これにはビックリだ!
国境を守る人物をわざわざ追い詰めるなんて、馬鹿な話じゃ無いか!
「……」
と、ピートが黙り込む。
何だろう?
彼の顔を覗き込むけど、どうにも口ごもって、何やら答を捜している感じだ。
その時、ピートの背中越しに瞑目していた筈のルルイエから声が発せられる。
『天降四魔竜』
彼女がいきなり発した言葉を聞いて俺は、ハッとする。
けど、ピートまでもが驚いた顔をして彼女を見つめて互いに固まっちまったんで、二人して俺の表情には気付いて無かったみたいだ。
ふ~、良かった……。
あっけに取られた表情のピートを尻目に、先に気を取り直したルルイエの方が話を続けて来る。
「構わない、でしょう? この国を含め、周辺諸国の人間も誰でも知っている名前。
どうやらリョウヘイは、それすら知らない遠い所から来た様……、です。
基礎情報の不足は不公平だと思う、ます」
「確かに仰る……、いや、ルルイエの言う通りだな」
あれ、気のせいかな? ピートまで今、何か妙な言葉遣いにならなかった?
まあ、それより問題はルルイエの今の台詞にあった『魔竜』って言葉だ。
なんの名前だって? 天降?
俺は久々にあの『天使の声』を思い出す。
あいつが俺に言った、転生に関わる最後の条件の事だ。
そう、『魔竜を滅する事』
それこそが奴が俺に示した最後の条件だったんだ。




