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110:王国の影②

「まず、私の本当の名をお伝えします」


 立ち上がって俺に向き直ったルルイエはスカートの端を摘み、略式とは云え、貴族式の見事な挨拶を披露した。

 口調も今までに無く滑らかだ。


 こっちが日頃の喋り方なのかな?

 でも、旅の時の口調も聞き慣れると味があって良かったよなぁ。

 そんな俺のどうでも良い感想なんか知るはずもなく、ルルイエの口上は続く。


「……ルルイエ・イスタ・ミュゼーゼンベリアと申します。

 第二公女として、リョウヘイ・アスタ・リバーワイズ子爵様に対し身分を偽った事を深くお詫びいたします」


 やっぱり、ルルイエは単なる使いっ走りじゃなかった。

 貴族様だったとはねぇ。

 確かミドルネームの『アスタ』とか『イスタ』ってのは、この世界での貴族の子に対して男性、女性で使い分ける地位呼称だったっけ。


 それはともかくとして『子爵』だって? 俺が?

 いや、リバーワイズさんの代理だから貴族扱いって事は知ってたつもりだけど、爵位まで意識した事は無かったからなぁ……。


 考え込んでしまった俺の顔を見て、ピートが吹き出す。


「やっぱり、気付いて無かったか」


「どういう意味だよ?」


「リバーワイズ卿は結構な大物だ。で、君はその『養子』って事になってる。

 なら自動的に『子爵』って事になるのさ。

 勿論、国王から正式に叙爵を受けなければ王宮内部での公言はできないが、それ以外で名乗っても、別に身分を詐称している事になる訳じゃ無いんだよ」


 ピートの言葉は単に納得できる話ってだけに思えるけど、実はかなり重大な意味もある。

 王宮から叙爵を受けずに子爵、男爵の公言が許されるのは侯爵以上の家柄で、更に長子として爵位を受ける事を約束された者だけだ。

 いつの間にか、俺自身が結構な大物になってた。


 なんだ、これ?


 意識してかピートはリバーワイズさんの爵位を明らかにしない。

 侯爵やルルイエも同じだ。

 つまり、迂闊に王宮との関係性を公言できない程の大物だって事が分かる。


 そして、それだけの大物が命を狙われても、この国は一切の手助けをしてくれない。

 何かおかしい……。


 考え込む俺にルルイエがひとつ咳払いをして自分に意識を向けさせて来る。

 どうも『謝罪を受け入れるのか?』って問い掛けているみたいだ。


「あ、ああ! いや、大丈夫だよ。

 ルルイエにはルルイエなりの事情が有ったんだろうし、こうして話してくれたんだから、今までの事は無かった事にしようよ」


 そう言うと、何故かリアムの眉根が曇る。

 反面、ルルイエはにこやかに笑みを返した。

「貴族同士の間では、貸し借りは重要な意味を持ちます。

 家としてはともかく、個人としての爵位を持たない私にとっては実に有りがたいお言葉ですが、今後は軽々しく『許す』という言葉を使うべきではありません」


 彼女の言葉にリアムも大きく頷く。

 なるほど、どうやら『名ばかり貴族』の俺は、色々と学ぶべき事が多いみたいだ。


「分かった。今後は気を付ける。けど、今は本題に戻ろう。

 侯爵に不利な証言をした奴って一体、誰だ? 後、その内容も知りたいね」


「はい。侯爵が弾劾された内容は、国王に対する強迫。

 そして、告発者は……、エルマン・ミュゼーゼンベリア。

 即ち、私の父です」


「親父さん! おっと、失礼!」


「いえ、この場では結構。リョウヘイ様は、まだ貴族としての儀礼すら知らないのですから、私の方で言葉を合わせます」

 貴族としてあり得ない言葉を平気で発するルルイエ。正体が分かった後でも彼女はやっぱりミステリアスだ。


「ルルイエって、貴族にしちゃ変わってる部類って言われない?」

 ちょっとばかり失礼とも言える俺の言葉を特に気にするでも無くルルイエは笑う。


「まあ、時々は。それより、話を続けても?」


「ああ、但し『様』は止めてくれよな。俺に合わせてくれるんだろ?」


 俺の言葉に彼女は小さく頷く。

 そうして話は再開される。





ご無沙汰致しております。

急いでいましたので今日は短めですが、明日は少し長めの内容で投稿できると思います。

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