081 次の一手
ところかわってパフィン遺跡からポーラ王国に戻ってきていた勇者タダシ一行も対魔王軍の作戦会議を開いていた。
先の遺跡探索メンバーに加えて、ポーラ王国の重臣が二人と元賢者のソフィーもいる。そしてもう一人、
「ところで…なんであなたが当たり前のようにここにいるのでしょうか?」
「そんな言い方はないだろう?せっかくいい情報を持ってきてやったのに」
ミーシャが指摘しているように、勇者一行の作戦会議というこの場にそぐわない人物、そう、魔王軍元八大将のエイサイがいる。
タダシ達の仲間にはならないと言っておきながら何食わぬ顔をしてポーラ王国の作戦会議に参加しているのだから突っ込まれても仕方ないだろう。
「まあ、いいじゃないか。それでどんな情報なんだ?」
シンエイはエイサイが意味もなくここに来たわけではない事がわかっているので情報を得るためにとりなしている。
まあ、その姿は弟(血はつながっていないが)に甘い兄にも見えなくもない。
シンエイに促されてエイサイが話を続ける。
「欠員が出ていた八大将に新たに5人の八大将が任命されたんだよ。もちろん数合わせじゃなくて5人ともそれなりに強いよ」
「なんですって。八大将が…」
「それも5人もか」
全員がそれなりに驚いている中で一人、ピントの外れた事を考えている者がいる。表面上は皆と同じように驚いているリアクションをしているが、その考えは今の状況とかなりずれている。
〔マジか~。せっかく半分以上倒した思ったのに…。これって『終盤になってきたら、なんの脈絡もないのに敵キャラクター増やして無駄にだらだらとストーリーが引き延ばされるやつ』じゃん!〕
…本当に良くない。
そういう事は考えていても表に出さないで欲しい。ちゃんと脈絡はあるんですぅ。
まあタダシの場合はみずからの意志で表に出しているわけではなくてあれで強制的に出ているので本人には全く悪気がないのだから文句のつけようもない。
(勇者様ってときどき訳の分からない事を考えますよね)
とレインが思っているように訳の分からない勇者は放って話をすすめよう。
「その新八大将が顔合わせをしたんだけど、元々いた八大将はそいつらが気にくわなかったみたいだね。まあ5人とも異世界から召喚された人間だったから気にくわないのも無理ないけどね」
「まるで見て来たかのように言うのですね」
「見て来たのさ。その場にいた新八大将の一人は僕だったからね」
「新八大将も何もあなたは八大将でしょう?」
カノンが指摘すると、
「僕はもう八大将から離脱してるんだよ。ていうか追い出された。裏切ったのがバレたから。だから新八大将として顔を出していたのさ」
エイサイの説明はいちいち回りくどい。こういうもったいぶった話し方をする悪い癖がエイサイにはある。
「わかるように説明しろよ」
シンエイに言われてエイサイは肩をすくめる。
「僕は新八大将の一人に化けてやつらの顔合わせに参加していたのさ。僕の特殊能力である『完全擬態』はそこら辺のしょぼい変身魔法と違ってちゃんとしていれば絶対に見抜かれる事はないんだよ。何しろ変身対象の姿や声だけでなく、臭いや動きの癖まで完全にコピーできる。しかもその対象がその状況で言いそうな言葉までわかるようになるからね。まっ、その人物が言わないような不自然な事をわざと言って情報を引き出す事もあるけど」
〔『完全擬態』かあ…。こういう直接戦闘に関わらない特殊能力も結構いいよなあ…。むしろゴリゴリに戦闘に役立つより特殊能力感があるよな〕
特殊能力が欲しいタダシ(実際にはしっかり特殊能力があるのだが)はエイサイの『完全擬態』を羨ましがっている。
最近ではあまりに特殊能力が欲しすぎて犬を飼おうとしてミーシャたちに「飼うならちゃんと愛情をもってから!」と止められていたくらいだ。
タダシが羨ましがっているのを無視してエイサイは話を続ける。
「ちなみにセイジュウロウ、ゴンパチ、リキマル…この3人の名前に聞き覚えはないかな?」
エイサイの言葉にポーラ王国の面々は一様に顔色を変える。特にミーシャに至っては美少女がそんな顔をしていいのかと思うほど顔をゆがめて不快感をあらわにしている。はたから見るにはちょっと面白い顔でもあるが。
そんな顔面崩壊しているミーシャに代わって、レインが恐る恐るたずねる。
「知っていますけど…まさか…」
「そのまさかだよ。その3人も新八大将になっているんだ」
新たに八大将のなった5人のうちの3人がポーラ王国で召喚された者たちだと知って大きなため息をつく。
「死んだと思ったのに…。死んだと思ったのに…。せめて消息がわかなかったらそれだけでも良かったのに…」
ミーシャに至っては頭を抱えて死んだ魚の様な目をして口の中でもごもご言っている。もっともそのつぶやきは小さすぎて誰にも聞こえていないが、負のオーラが身体全体から立ち昇っている。
「それにしてもあの方々をよく魔王軍は引き入れる事ができましたね」
3人の事をよく知っているレインは疑問に思う。あの3人が素直に魔王軍の味方になるだろか。自分の都合だけ言い立てて、思い通りにならない事は一切しない3人だったのだ。
「それは八大将の一人、たぶんフゲンの能力『劇団』によるものだよ」
「『劇団』?」
「あいつの特殊能力の『劇団』は簡単に言うと『劇団員』という自動で動く人形を作成してシチュエーションにあった『劇』をするのさ。召喚されたやつが望んでいるような『劇』をして仲間に引き入れたんだよ。考えてみればあり得る話だよな。今思えば僕の時だって恐らくフゲンのやつが『劇団』を使って僕を魔族だと思わせたんだろう。そうやって野良召喚勇者たちを囲い込んで仲間にしたんだろうな」
〔今度は『劇団』!なにそれ!めっちゃ特殊能力っぽい!いいなあ…。俺もそういうのじゃないかなあ…。ただ強いだけじゃなくて工夫次第では役立つって言うのがいいよねえ…〕
いちいち特殊能力を羨ましがっているタダシのあれを見て、ミーシャは何とか立ち直る。
(勇者様はあんな大変な能力を背負って頑張っておられるのですから、この程度でわたくしがくじけてしまうわけには!)という事らしい。
「しかし、新しい八大将が異世界から召喚された者たちなら殺すわけにはいきません。なんとか捕まえて元の世界に帰すようにしましょう」
「ずいぶんお優しいんだな」
エイサイの皮肉にミーシャは毅然として答える。
「どんな相手であれこちらが無理に呼びよせた者です。それが召喚した者として最低限のつとめです」
あれだけ3人に死んでいて欲しいと願っていたミーシャだが、それとこれとは別らしい。身勝手に出て行って死ぬのは仕方ないがこちらから傷つけるわけにはいかないと思っているのだ。
元々ポーラ王国では召喚した勇者は丁重に扱っていたし、かなり素行が悪い者でも穏便に元の世界に送り返していた。
ごく一部の者たちが元の世界に帰される事を嫌がって脱走した場合でも捜索隊を出して探している。もっとも、召喚勇者が本気で逃げたら捕まえる事などできないのでそのほとんどは見つかっていないのが現状だが。
このようにポーラ王国では召喚した者としての最低限の責任を果たそうとしている。その理由は、
「エスケレスならそうするはずです」
ミーシャのこの言葉に全てが現れている。
エスケレスは一見、異世界から召喚した者の命などこの世界のためなら使い捨ててもいいような態度や発言をしていた。しかし、エスケレス自身も気づいていなかったのかも知れないがそれこそ自分の命よりも大事にしているのだ。それが行動として出ていたからポーラ王国は召喚勇者を大事にするという考えが根付いているのだろう。
レインもエスケレスの「タダシを元の世界に帰してやれ」という言葉を思い出していた。
エスケレスの召喚勇者に対するそれは自らが召喚して元の世界に戻すことができなかったエイサイに対する負い目からくるものだったのかもしれない。
「エスケレスのやつがね…。お前らの考えはよくわかった。でもそれは殺すよりもずっと難しいぞ」
自分も召喚された人間と知ったエイサイも今までの様に召喚勇者たちを倒すのは気が引けていた。自分と同じ立場だと思っているからだ。
「覚悟の上です」
しっかりとエイサイを見てうなずくミーシャ。
「…それならあいつに会わせてもいいかな」
「あいつとは?」
「元ポーラ王国の召喚勇者のセイジュウロウだよ。僕はこいつに化けていたんだよ。下手に教えたらお前らが殺しても困るから隠してたんだよ」
「あなたが、あのデ…体格のいいセイジュウロウに化けていたのですか?」
小柄で可愛い顔をしているエイサイが超重量級のセイジュウロウに化けていたと知って、『完全擬態』のすごさに改めて驚くミーシャなのだった。
*
エイサイに案内されて城の倉庫を開けるとそこには巨体の男が一人横たわっていた。
縄でグルグル巻きにされているセイジュウロウはミーシャの姿を見ると嬉しそうに話しかけてくる。
「ミーシャたん、久しぶり❤」
そう言いながらミーシャの身体を頭から足の先まで舐め回すように眺めている。
「…お久しぶりです」
(相変わらず視線が気持ち悪い…)
口をヒクつかせながら答えるミーシャは今すぐにこの場から逃げ出したい嫌悪感を覚えるがなんとか踏みとどまっている。
「そんなに怯えなくてもこいつは何もできやしないよ」
ミーシャの震えを勘違いしているのかエイサイは腕を組んで余裕の構えだ。
「ぶひひっ、僕がただ黙って捕まっていたと思っているのか?」
「強がりを言うな。その魔導縄で縛られている以上魔法は使えないし、身動きもとれないだろう」
エイサイがひとにらみするが、それを意に介さないでセイジュウロウはにちゃあと笑う。
「魔法は使えなくても、これだけ接近できたら僕の特殊能力の範囲内なんだよぉ~。発動!『人形師』‼」
「なにっ!?」
セイジュウロウの身体から発せられた緑色の光が全員の姿を包んでいくのを誰も止める事ができなかったのだった。
次回は 082 人形師 です。




