069 勇者の盾
王宮の庭で眉間に軽くしわを寄せてタダシがただ一人ぼんやりと空を眺めていると、レインが話しかけてくる。
「勇者様、何を悩んでいらっしゃるのですか?」
「…ああ、レインか。これから先の事…魔王を倒すためにはどうしたらいいのか考えていたんだ」
「そうですね、それは難しい問題です」
レインはそう受け答えしながらも(ちょっとニュアンスが違う様な気がしますが)と勇者の頭上を見ながら思う。
そこには〔なんかここ最近のところ、シンエイの出番多くない?このままでいったらあいつがこの魔王討伐のメインになりそうなんだけど。…このまま旅立ってもいいのかなあ。悪い奴ではないんだろうけど、いかんせんイケメンだからなあ〕とまるでシンエイがイケメンであることが問題であるようになっている。
〔それに俺の知らないところでもなんかいろいろと進めてるみたいなんだよなあ。いや、わかるよ?ちゃんと全体の事を考えてしてくれてるって事は。でもちょっと俺の事をないがしろにしてないかなあ〕
ミーシャに「最近勇者様の様子が変な気がするから様子を伺ってきなさい」と頼まれたレインとしては見過ごせないあれを出し始めているタダシに、ミーシャの予感が当たっていたと思う。
(確かにこれはヤバそうですですね…)
タダシの様子をそう分析したレインは(こうなっているとわかっているなら姫様が自分で話をすればいいのに)と思うが「わたくしは最近は勇者様に緊張しますからうまく話せないのです」と付け加えてきたミーシャの事をズルいと感じるが立場上そんなことは言えないレインだ。
(でも、私だって緊張しないわけではないんですけど)とレインは思うのだ。
もっともレインの緊張はミーシャのように恋によるものではなくて、それは崇拝に近い感情だ。実際タダシほど素晴らしい勇者はいないと本心から思っている。
そんな素晴らしい勇者のタダシに対して自分程度が何かを言うなどおこがましいと思ってしまうのだ。
(どう声をかけようかしら。『私だって最近はミーシャ様にかなり出番をとられてますよ』…これは違うか)
タダシを励まそうと色々考えるレインだが、もともと処世術に長けている方ではないのであまりうまい言葉が出てこない。
そうこうしているうちにタダシの頭上のあれは更に暴走している。
〔そもそも勇者の俺はなんだかみんなから避けられてるのにシンエイは賢者なのにきやー、きゃー言われてるんだよなあ。あれもあいつの仕業なんじゃないの〕
一見ただの言いがかりに見えるがこれに関しては『ミーシャの怨念』を広めたシンエイにも責任があるのであながち間違ってはいなかったりする。
〔こうなったらシンエイに「お前はこの勇者パーティでやっていくには実力不足!」とか「魔族であるから気に入らない!」とか難クセつけて追放しちゃおうかな…そういうのよくあるみたいだし〕
(勇者様!?え?そんなのダメですよ!?)
無視できないあれを上げ始めているタダシにレインは焦るが、
〔って、できーん!そんな事できーん!実力ある罪もないやつを追放してどうする。…ううっ、こんな事考える俺は最低だ。〕
すぐに考え直すタダシにホッと胸をなでおろす。
(おいたわしや勇者様…。あなたは悪人にはなれませんよね。それにしても…すごい方です)
ちゃんと自分で間違いに気づいて反省するタダシにレインは改めて尊敬の念を抱く。
なによりスゴイのは内心ではこんなアホな事を考えているのに勇者の顔はさきほどからずっと『魔王を倒すために悩んでいる』顔をキープしているところだろう。あれさえ出ていなければ真剣に魔王討伐の事を考えているようにしか見えないのだ。
そんなタダシにレインは自分のかける言葉はとにかくタダシを信じていると伝えるしかないと思う。タダシのように頭上から出ないので口に出すしかないのだ。
「勇者様。確かに魔王討伐は大変な事ですが、私は勇者様の決断に従います。あなたの決断なら間違っていないと思いますから」
「そうか。ありがとう」
レインにタダシはお礼を言いながら、
〔…よし、決めた!〕
タダシの頭上に急に決意の言葉が出たことでレインは一抹の不安を覚えるが、次のタダシのあれに安心することになる。
〔シンエイを素直に認めてこれからの事を相談しよう!俺が心を開いて相談すればきっといいアイデアを出してくれるよね…〕
(心を開くって言うか勇者様の場合は常に丸出しですが)
と身も蓋もない事を思うレインなのだった。
*
「やっぱり勇者様にはこの鎧が一番似合いますね」
獣人の村に修理に出していた『勇者の鎧』が戻ってきたのでさっそくタダシは装備している。魔王の攻撃によってかなりの損傷を受けていたのだが、獣人たちに見せると「なんとかやってみましょう」と二つ返事で修理を引き受けてくれたのだ。
同じく魔王の攻撃を防いだことによりその90%以上が失われていた『勇者の剣』は自己再生能力があるので今ではすっかり元の大きさに戻っている。
もっともその元に戻っている途中の姿はうねうねと蠢いていて少し気持ち悪かったが。
「剣と鎧、これで問題なく出発できますね」
ミーシャは自分の代わりの留守番ができたのでウキウキでタダシの鎧の装着を手伝っている。
タダシは自分でするからいいと断ったのだがミーシャは強引に手伝っている。緊張すると言いながらタダシに関わっていたいという複雑な乙女心があるようだ。
「カノンとジュウベイも本当にいいんだな?」
「ええ。お祖父様の事は残念だったけど、あなたたちについて行く事にするわ。お祖父様は魔族穏健派はあくまで中立と言っていたけど、実際には間違いなくあなたたちに肩入れしてたもの。私はお祖父様の意志を継ごうと思います」
「俺はちょっと違うなあ。じいちゃんは多分生きてると思うんだよねえ。タダシ達にくっついていればじいちゃんに会える気がするんだ」
タダシの確認に二人ともうなずいている。
このカノンとジュウベイの認識のずれはタダシのあれによってエイサイが語った事実を知っているカノンと、人間の文字が読めないジュウベイという教養の差からでている。
「…あんたはいつになったらちゃんと人間文字を勉強するのよ」
「だって俺、勉強嫌いだもん。だいたい文字なんて勉強しなくても言葉は通じるんだから別にいいじゃん。人間文字なんて勉強しても役に立たないよ」
「勉強したら役に立つと後々わかるわよ」
ジュウベイを叱っているカノンに〔なんか学校の先生みたいなこと言ってるなあ〕とタダシは思うが口には出さない。
これからタダシは勇者パーティの新参者である賢者にその知恵を借りるために話しかけないといけないので余計な茶々をいれる余裕がないのだ。
タダシはシンエイに向き直って唾を飲むと、きいた。
「俺たちはこれからどうするべきだと思う?シンエイの考えを聞かせて欲しいんだ」
「まずは『勇者の盾』を手に入れるためにパフィン遺跡に行こうと思う」
タダシの問いを想定していたのかシンエイの返事に迷いはないが、ミーシャが口を挟んでくる。
「『勇者の盾』を手に入れてどうするんですか?」
『勇者の剣』を棒として使っているタダシには『勇者の盾』は必要のない代物だ。実際にそういう理由でヒョウゴがタダシには必要ないだろうと言っていた事をミーシャもきいている。そんな物を手に入れに行っても無駄だと思ったのだ。
「もちろん俺が使うのさ。俺は剣と盾で戦う戦闘スタイルを得意としているからな」
「『勇者の盾』をあなたが使うんですか?」
「そうだよ」
非難するように問うミーシャにあっさり答えるシンエイをかばうように、
「いや、いいんじゃないかな。俺は賛成するよ。強力な防具を有効に使うのは正しいよ」
当の勇者であるタダシは物分かりの良い事を言っているが、その頭上には輪郭が強調された大きな文字で〔『勇者の盾』なのに?〕〔まさか勇者交代!?〕〔乗っ取り?〕と次々に不安げなあれが出るのだった。
超巨大偽次回は 0999 パーティから追放された元勇者の頭からなんか出てるけど特に無双とかしない です。
…。
本当の次回は 070 魔剣 です。




