043 元魔王軍
「もう少しで着くよ?疲れた?」
「そうか。いや、大丈夫だ」
〔はー。疲れた。ほとんど道なき道だったから正直しんどい。モンスターがでなかったからまだいいけど舗装されてない道ってこんなに歩きにくいんだな。これだけで修行だよ。あー修業したなあ、これは俺かなり強くなったんじゃない?〕
などと安易な事を考えているタダシの頭上に出るなにかを見ながら(おっ出た出た)とジュウベイはウキウキしている。タダシに質問をした時にこのなにかはよくでるので面白がってタダシに色んな事を話しかけているのだ。
そんなふたりの様子を見ながら、そのあとに続くレインとエスケレスはひそひそを話している。
「エスケレスさん、本当にあれ、隠さなくてよかったんですか?」
「出発前にいちいち隠しても仕方ねえって話しただろ。どうせ魔族には勇者の背後になにかが出る事は知られちまってるんだ。いずれはバレる事だ。いちいち隠してられねえよ。これからは勇者のあれはバレている前提で動いた方がいいだろう」
「それはそうかもしれませんけど・・・」
タダシが単独で、しかも無傷で八大将を倒した事はエスケレスの思考を大胆にしていた。わざわざあれの存在を隠さなくても今のタダシなら十分戦えると判断している。
レインもタダシの実力を疑っているわけではないが、心配なのはタダシの思考が頭上に出て筒抜けになっていることを指摘されてそれが本人に伝わることだ。
つまり、タダシがその事実を知ってショックを受ける事を危惧しているのだ。
(勇者様は基本的にカッコつけだから表面上は理想の勇者を演じながらも、本心では少しだらしないところもある所に私は親しみを感じているんですけど、本人はそれをいたって真面目に隠しているつもりですからね)
この点においても、エスケレスは楽天的で、人間ならいざ知らず魔王軍がタダシにばらすことはないと確信している。相手の思考が読めるならそれを相手に伝えない方が有利だからだ。
だから仮に人間の文字を読める魔族がいたとしても、タダシの考えが頭上に出ていることをわざわざ本人に教えるようなバカな魔族はいないだろうとエスケレスは言っていたのだが・・・。
(結局人間の文字は読めなかったものの、魔族の子供に指摘されてるじゃないですか。エスケレスさんはワキが甘いんだから)
最近のレインはエスケレスに対してかなり辛口だ。
まあ獣人の血といい、ビ・キニ・グラヴィーアの件といいエスケレスはレインに恨まれても仕方ないことをしてきているので同情できない。
そうこうしているうちにジュウベイの住んでいる家にたどり着いていた。完全に森の中の一軒家でまわりには何もない。
こんなところで三人で暮らしているというジュウベイたちには隠れ住む事情があるように思えるが、当のジュウベイは気楽な様子でドアを開けると「だだいまー!」と入って行くが、入ったとたんにすぐに雷が落ちる。
「ジュウベイ!あんた一人でどこに行ってたの!あれほど一人で出たらダメって言ってたのに!」
透き通るような白い肌をした魔族の少女がジュウベイを叱りつけるが、すぐにジュウベイの後ろにいたタダシ達に気付く。
「…この方たちは?」
「ああ。俺がグレイトドラゴンに襲われてる時に助けてくれた人間たちだよ」
少女はタダシ達を警戒した目で見ながらも頭を下げる。
「弟を助けて頂きありがとうございます。私はカノン。ご承知でしょうが魔族です」
カノンがこういう名乗りをするのは余計なトラブルを避けるためだ。素性を隠ない事が魔族なりの人間に対する礼儀の様なものだ。特にジュウベイやカノンのようにほとんど人間と見分けがつかない魔族ならなおさらだろう。
「それにしても助けてもらったてどういうことなの?たいていの魔物ならあんた一人でも逃げるくらいならなんとかなるでしょ」
子供とはいえジュウベイは上位魔族だ。魔物相手にそうそう引けはとらないはずなのだ。
「いやー、おかしいんだよね。いつもと違って魔物がたくさん出てきたんだよ。それで魔力が尽きちゃって」
「あんたね、いつもはあたしが一緒でしょうが。あんただけだったらそりゃ魔物もたくさんでるわよ」
カノンはいつものようにやんちゃな弟の頭をはたいている。
魔物は明らかに自分よりも強い相手がいると危険を察知して近づいてこないのだが、ジュウベイだけではこの森の魔物たちもたいして脅威を感じなかったらしい。
「そっかー。じゃあタダシはよっぽど強いんだね。帰ってくるまで一匹も出なかったもん」
カノンに叩かれてもジュウベイはしょげることなくのんきな言い方をしている。
「この森の魔物が一匹も出なかったの?人間なのに?」
(ここではあたしでもそれなりに魔物がでるのに…一匹もでないなんてお祖父様じゃあるまいし)
カノンも上位魔族として相当の実力を持っているが、それでも大型の魔物はでてくる。そもそも祖父が余計な人目を避けるために来たこの森は普通の人間では足を踏み入れる事すらできないレベルの魔物たちがあふれているのだ。
カノンはあらためて弟の連れて来た三人の人間たちを見る。
自分と同じくらいの少年と少女、そしておじさん。
(たぶんあの男の子がタダシよね。そんなに強いのかしら)
タダシをじっと見つめると、その少年はこちらを値踏みするような厳しい顔になる。(警戒されている?)とカノンは思うが、
〔魔族の女の子か。すごい美形だなあ。ミーシャ姫やレインとはまた違ったキレイさだよ。こう、なんていうかミステリアスな感じ?いやあポーラ王国5人衆にはガッカリさせられたけどやっぱり新キャラといえば美少女だよね!〕
という人間の文字がタダシの頭上に現れているのを見て(なにこの人間?)と冷淡な視線をタダシに浴びせる。
カノンはジュウベイと違って人間の文字が読めるのでタダシのあれの意味がわかっている。
その冷たい態度を〔うわっ、なんかめっちゃ警戒されてる?!〕とタダシは勘違いするが、どちらかといえばカノンは真面目な顔をしながら頭の中では浮ついたことを考えているタダシに対して警戒するよりも呆れているだけだった。
「あっ姉ちゃんも見えてるんだね。面白いよね~。魔族と獣人にだけタダシの背後のなんかが見えるんだって」
「そうなの。それで私にも見えるのね」
(弟は人間の文字を知らないから『なんか』と言ってるけど私はわかるんだけどな)と思うが、タダシの後ろの二人が『それ以上は言わないでくれ~』という必死な顔をしているので黙っていることにする。人間との揉め事を起こすのは本意ではないのだ。
「ああ、それで険しい顔をしていたのですね」
タダシがホッとしたように言う。自分をにらんでいた理由がわかって安心したらしい。
正確に言えば頭上に変なものが出ていたからにらんでいたわけではないのだが、カノンは気持ちを切り替えて奥の部屋に声をかける。この変な客人をこの家の主人に紹介しなくてはいけないのだ。
「お祖父様。ジュウベイが戻りました」
カノンが呼びかけると、白髪の老人が出てくる。一見人間に見えるが、少し青白い程度の肌をしているジュウベイやカノンと違って真っ青の肌をしているのが印象的だ。
「お祖父様、この方たちは・・・」
「きこえておったわい。孫が世話になったようじゃな。一人で出歩かないように言っていたのじゃが、わしが少し目を離した隙に出ていたようじゃ。まったくやんちゃで困るわい」
そう言いながらもわんぱくな孫を愛おしそうにみる老魔族を見てエスケレスは顔をこわばらせる。
(こいつは・・・。これほどの大物がこんなところにいるとは・・・ありえねえだろ)
エスケレスの表情を見て老魔族はニヤリと笑って自己紹介をする。
「わしはヒョウゴ。元魔王軍の魔族じゃ。元副魔王と言った方がわかりやすいかのう」
そう、現れた老魔族は魔王軍の元№2。元副魔王ヒョウゴその人なのだった。
次回は 044 元副魔王ヒョウゴ です。




