表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大凶神社  作者: わら けんたろう
2/3

第2話 祀られたモノの視点

 ワタシは、エイベルムといいます。遥か遠い昔、この神域に祀られました。


 思い出したくもないことなので、経緯は省略いたします。

 気がつけば、ワタシはこの世界で神のように扱われておりました。


 始めのうちは、御利益とやらを求めて訪れるニンゲンもおられましたねぇ。

 今では、うち捨てられ忘れられたようですが。


 ニンゲンなど、ずいぶん勝手なものです。


 しかし、誰も訪れないというのも退屈です。

 もう、ヒマでヒマで……。

 たまに、あの小賢しい黒ネコを呼び出してみますが、所詮、野良猫ですしね……。


 おや?


「あれ、ねぇ、こんなところに神社があるよ」


「あ~、ホント意味不明だわ。なんで迷った?」


「ホントだね。でも、これでなんとかなるんじゃない?」


 ……クフッ、クククク。

 楽しめそうなカップルがやって来ました。

 少しだけ、お付き合いいただきましょう。


 この二人、どうやら道に迷ってこの場所にたどり着いたようですね。

 「銀浪洞神社」と彫られた石標を見て、少しほっとしています。


「ああ、もうガチで疲れた」


 男性の方は、慣れない山道を歩いたからでしょうか。

 お疲れのようですね。

 境内に6つ置かれた長方形の石に、腰を下ろしました。


 女性の方は、石の形や置かれた方角が気になるようです。


 クフッ、良いところに気がついてくださいました。


「ユウジ、そこに座らない方が良くない?なんか、この石キモいよ」


 ククク、えぇ、その石は、かつて近くの村で疫病が流行したさいに設置されたものです。

 その石に遺体を安置し、荼毘に付しました。

 あのときは、たくさんのニンゲンがお亡くなりになりましてね。

 ひとつではとても足りないので、そのような石をたくさん置いたのです。


 ……という、設定です。

 よくできているでしょう?

 実は、ワタシが並べました。


 ククッ、この辺りのニンゲンは、北枕でしたか?

 嫌がるようですから。

 長方形の石の向きが南北を指すように置いて、北側の端を枕の形にしてみました。


 ククク……。

 気味が悪いですか?

 怖いですか?

 いいですね。

 伝わってきますよ。


「あ? 別に良くね? 疲れたんだって」


 この男はダメですね。

 まるで警戒心がありません。

 このような者ほど、考えられないようなバカをやって、ワタシを楽しませてくれます。


 楽しみです。


 ほら、お相手の女性は、不満そうですよ?

 嫌そうに、視線を向けていますよ。

 気づかないのでしょうか?


 女性の方は、良い顔していますね。

 そうです、あのバカな男にもっとその表情を見せてあげなさい。


 まぁ、愚鈍な彼は、気がつかないでしょうね。


 そうそう、あの野良猫にも手伝っていただきましょう。


 ワタシは、あの小賢しい黒ネコを転移させ、女性の前に放り出しました。


「ひ、ひゃあああ!」


「うおっ!? あせったぁ。なに?」


 クククク、フッ……、ヒャハハハ。

 ビックリしましたか?

 しましたよね。

 クッ。


 小賢しい黒ネコも、突然の召喚に眼をまるくしています。

 いつも減らず口を叩く、忌々しい野良猫です。

 たまには、こうして溜飲を下げましょう。


「あ、でも、なんか、このコかわいい」


 はい?


 女性が、あの野良猫を撫でています。

 野良猫の方も、女性に抱っこされ撫でられて嬉しそうにしています。


 ふむ。

 面白くないですね。

 あなたのそのような顔は、見たくありません。


「かわいいなぁ。オマエ、この神社に住んでるのか?」


 ……鋭いですね。

 今は、住んでいませんが。


「首輪もしてないし、多分、捨てネコだよ」


 ほう、ほう。

 御明察。


 なんと、まぁ。

 こんな野良猫を憐れんでいるのですか?

 それほどの価値は、ありませんよ。


 ですが、良い顔です。

 クフッ。


 おや?

 男性が、祠の方へ近づいていきますね。

 何かやってくれそうです。


「黒猫に飼い主が、現れますように!」


 男性は、祠に向かって手を組んで祈りました。

 アホの子ですね。

 この世界の神社の祈り方は、そうではないでしょう。


 すると、今度は女性が、


「ユウジ、ちがうよ。二礼二拍手一礼だって」


 と言ってから、正しい参拝のやり方で「黒ネコちゃんに、素敵な飼い主が現れますように」と祈りました。


 おお!


 べつに、正しい参拝をした女性に感心したのではありません。

 ですが、やってくれました。


 さあ、賽銭箱に注目してください!


 コロロロと硬貨が転がる音がしました。


 ほら、ほら、賽銭箱から硬貨が出てきましたよ?

 10円玉投げ入れたら、5円玉出てきましたよ。

 どうします?

 どうします?


 二人は、顔を見合わせて固まっています。

 何が起きたのか、理解できないという顔です。

 実に、イイ顔をしてくださいました。


 そして、つぎに男性が放った言葉は、ワタシを十分満足させるものでした。


「は? 釣り銭出てきた?」


 ククッフフ、ヒャハハハハハハッ。

 素晴らしい!

 やはり、あなたはワタシの期待を裏切らない。


 女性の方は、未だに理解できず、戸惑っているようです。


 さあ、もっとです。

 もっと見せてもらいますよ。

 神社といえば、アレでしょう。

 目に入りませんか?


「お? おみくじ。やってみね?」


 おお。

 その切り替えの早さは、得難い美点と言えましょう。


 さあ、早く、早くおみくじを引いてください。


 男性が律儀に賽銭箱へ100円玉を投げ入れ、六角形の金属の筒を振りました。


 クフッ、残念でした。大凶です。


「のおぉぉ、ひでぇ!」


 おみくじを引いて、男性は天を仰ぎ頭をかかえて悶えました。


 そして「納得出来ん。もう、一回!」と言うと、また100円玉を賽銭箱に投げ入れました。


 ククッ、さあ、どうぞ。


「なっ!? また、大凶? ありえなくね?」


 クククッ。さあ、もう一度どうぞ。


 熱くなった男性は、今度は100円払わずに、おみくじの筒をがしゃがしゃとシェイクしてから引きました。


 はい、大凶。


「はぁ? このおみくじオカシイって。大凶しかなくね?」


 ククククッ。

 ええ、正解です。

 どうです?

 腹が立ちますか?

 悔しいですか?

 惨めですか?


 伝わってきますよ。


 男性はムキになって、もうお金も払わずおみくじを引きまくっています。

 何度引いても、大凶です。


 そろそろ、怒りが頂点に達しそうですね。

 頭の中が、煮えたぎってきましたね。

 周りが目に入っていないようです。


 ほら、お相手の女性が引いてますよ。

 クククク。


 そして、そのときがやってきました。

 ついに男性は完全にぶちギレて、六角形をした金属の筒を地面に叩きつけたのです。


「ああ、もう、行こうぜ」


 クッククククフフフッヒ、ヒャハハハハハハッ……ヒィーッ、ヒィーッ。


 も、もう、可笑しくて可笑しくて、笑いが止まりません、クッククククフフフッ……。

 っと、いけません。

 お、落ち着きましょう。

 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……。


 素晴らしい!

 なんて、愚かで激しい怒り、悔恨、悲哀!

 あの男、ワタシの期待を上回るモノを見せてくださいました。

 女性は、お相手の男性に幻滅しているようです。


 ああ、あぁ……。もう、なんて素敵な表情でしょうか。

 あなたは、あの男にはもったいない女性です。


 野良猫が、女性の足下に駆け寄っていくのが見えました。

 帰りの道案内を買って出たようです。


 おっふぅ……。おかげさまで堪能いたしました。

 もう、よろしいですよ。

 お帰りください。


 ふたりは、少しだけ先に進んでは振り返って道案内をする野良猫の後について行きました。


 今度は道に迷わず、無事に帰ることができると、いいですね。



 銀浪洞神社(ぎんろうどうじんじゃ)。その神社、またの名を大凶神社。


 ヒトに捨てられ忘れられたモノの神域。


 縁は切れ、大願かなわず、

 財を失う。


 厄除け、家内安全、安産祈願、無病息災、商売繁盛……祈願は数多あれど、御利益なし。


 賽銭投げれば、つり銭返り

 おみくじは、大凶だけ


 ヒトの苦しみ、悲しみ、怒り、焦燥、傲慢、怠惰、屈辱、色欲、暴食、強欲、嫉妬、嫌悪、悔恨、絶望、愚劣……は、ここに祀られたモノの娯楽あるいは糧となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ