VSラットクイーン その2
普通に後ろから攻撃された。しまったな。
ラットクイーンが手だししてこないとは限らないのに、それを想定してなかった。
いや、まだアントン達があの10体を倒しきれていないのも想定外か。
まだ3体ずつくらい残ってる。
魔法使いの5匹と近接の5匹の連携が思ったよりも取れているみたいだ。
背中についた炎を自分の水属性魔法で消火しながらそんなことを考えていたら、ヒカリの回復魔法が飛んできた。
って、HP思ったよりも削られてたな。
しかも、ラットクイーンがこちらにゆっくりと向かってくるのが見えた。
ラットキングも消火を終えたみたいで、僕の方を鋭い目で見ている。
あー、これはまずいね。だったら最善手は
「ヒカリ!二人に協力して残りを倒して!時間は僕が稼ぐ!」
これしかないよね。
だって、僕とヒカリが二人でラットキングとラットクイーンの相手をするとアントン達はヒカリの援護なしで戦わないといけなくなる。
そうなれば、勝てるだろうけど時間が結構かかるだろう。
だったら一番レベルが高い僕が時間稼ぎをするべきだよね。
その間に残りを倒してもらえばいい。その方が早い段階で最大戦力を集めることができる。
ヒカリもその辺のことは経験上わかってるいるのだろう、僕の言葉に黙ってうなずいて二人の方に向かっていった。
ふう、ここからは出し惜しみなしで行きますか。
感覚強化を発動させて、魔力放射で出す魔力の量を増やした。
これまで僕を中心に半径2メートル程しか細かい動きは分からなかったけど、今はその倍の範囲が感知で把握できる。
あ、もちろんおおざっぱな位置とかであればもっと広い範囲でわかるよ。どこになにがいるとかはね。
でも、この位置はまずいな。
ちょうど、ラットキングとラットクイーンに囲まれてるし。
後ろを確実にどちらかに取られる状況は避けなきゃ。
だから、ラットキングの方の後ろに回り込もうか。
「ふっ!」
「キシャッ!?」
ラットキングの頭上をジャンプで飛び超えて後ろに回り込んだ。
よし、これで挟み撃ちされる心配はないな。
不利な状況に変わりはないから、時間稼ぎじゃなくて全力で倒しに行くとしますか。
いや、気持ちの問題ね。
まだラットクイーンは追いついてないから仕掛けるなら今のうちだね。
トン。
ヒナがやってるのと同じような感じで足を静かに踏み込んでラットキングと距離を詰めると、
「はあっ!!」
火属性魔法で炎をつけている剣で袈裟に斬りつけた。
「キシャッ!?」
熱気を感じ取ったのか咄嗟にラットキングが身を引いてしまったから直接当たることはなかったけど、それでも何とかうまく発動させることができた。
ラットキングはラットクイーンと合流してしまっていたけど、
「よし、これならいけるかな。」
炎をまとっている剣を両手で握りながら、そう呟いた。
これが僕がエドガーさんからもらったスキル、魔法付与。
アリスがブラッディ・ベアと戦ってる時に使ってたのとは少し違うけど、これは魔法と剣を合わせて攻撃できる技なんだよね。
ダンジョンに入って初めてできるようになった技でもあるんだ。
剣を杖代わりにして魔法を撃てないかなー、とか考えてる時に偶然できたんだ。
「「キシャアァァァッ!!」」
ラットキングとラットクイーンの両方が同時に吼えて、魔法を発動させた。
ラットキングの体がさっきよりも強い炎に包まれ、ラットクイーンの頭上に20個ほどのファイヤーボールが浮かび上がった。
そしてファイヤーボールが複雑な軌道を描きながら僕の方に殺到してきた。
それを後ろから追うようにラットキングが突進してきていた。
マジかよ……。
水魔法使えるようになっておけばよかった。
まあ後悔してももう遅いし、今できることを全力でやってみようか。
意識を集中させて。剣の軌道を想像して。ファイヤーボールを全部切斬り落とすことを想像して。
「剣聖技 夢幻一閃。」
シュッ!
20個のファイヤーボールのうちほとんどを斬り落とした。
でも3個ほど残してしまって、それが僕の方に向かってきた。
「くそっ!」
それを咄嗟にファイヤーボールを撃って相殺しきる。
でも、それだけでいいわけじゃない。火だるまキングがこっちに飛んできている。
「ああー、もう!剣聖技 夢閃十文字!」
剣を振った先に斬撃が出てきたもののガリガリオークと戦った時のに比べるとあまりにも弱かった。
集中力が足りなかったか……。
「キシャッ!!」
火だるまキングが僕にぶつかってきた。
何とか剣で受けることができたけど、そもそもが燃えてるから普通に大ダメージ受けた。
両腕共に火傷しちゃったし。
回復魔法は使えないから、腰に下げているポーションを素早く飲んで応急処置をした。
「ふう、どうしよっか。」
剣聖技を使えるほど集中できないし。
神聖魔法は使い方がわからない。裁定スキルもまた同じく。
心身統合は論外だから。
まあ、そろそろ感覚強化は時間的に解かないとまずいね。
そうなると、さっきの夢幻一閃で魔法を斬り落とすことも難しいんだけど。
さあ、どうする。
「だったら、取り合えず距離を詰めて乱戦にしちゃうか。」




