出発!
「おい、起きろ。あと少ししたら出発だぞ。」
ん?まだ太陽が昇ってないんだけど?どうして?
……そうだった。今日出発だった。しかも事前に子供達には何も言わないで行くんだっけ。
ジークさんがしていたのと同じように。
一応アリスと院長先生とトワ達には今日出るって言っておいたからね。
それ以外の人には特に言ってないよ。
「……うん。起きるよ。」
のそのそと布団から出て裏庭に行った。そしてそこにある井戸から水を引っ張り上げて、顔にそれをたたきつけた。
……冷たっ。ひー、でも目が覚めてきた。
「うん、行けるね。」
部屋に戻ると、もうアントンは装備を全部つけて準備を終えていた。
早いな。僕も急がないと。
とりあえず着替えて、胸当てをつけて剣を腰に下げれば準備終了。
……僕もなんか早いな。
ちなみにアイテム袋はアントンが持ってるよ。
二人で食堂に向かうとヒカリとシズクはもう準備を終えて待っていた。
「忘れ物はありませんか?アイテム袋は持ちましたね?」
「ああ、持った。」
「なら、もう行く?早く出た方がいいんでしょ?」
「そうですね。出発しましょうか。」
4人で孤児院の外に出た。
……ここでも結構長い期間過ごしたな。
この街に来てからずっとここで過ごしてきたわけだし。
だったら最後くらいちゃんとしないとね。
「「「「……ありがとうございました!」」」」
まだ周りが暗いなか、僕達は孤児院に向かって頭を下げた。
そして、僕達は第二の家を後にした。
街の様子も昼間とは全く違って閑散としてる。ちょうど、ブラッディ・ベアがこの街に攻撃を仕掛けてきた時と似てるね。あの時も人通りがほとんどなかった。
そういえば、アラ・デレチャって全滅したってことになったのかな?
まあ、どうでもいいか。
3人も特に話すことなく長い間過ごした街を眺めている。
なにか思うところでもあるのかな?僕はそうでもないんだけど。
ああでも、思い出はないわけでは無いか。
「身分証の提示を。」
「はい。お願いします。」
「どうぞ。」
いつ通り西側の門から出てきたわけだけど、今日の人は普段の人とは違ったな。
まあ、いつも同じ人がやってるわけでは無いから当然か。
街の外もただ暗いだけで特に違いもないかな。
魔物も目に見える範囲にはいなさそうだし。
「じゃあ、行くぞ。確かまっすぐ行けばいいんだよな。」
「はい、前にギルドに行った時に許可証をもらうのと一緒に、道も聞いてきました。
アコタル村への道とは違って、このまっすぐ西に向かって走っている道を行けば着くそうです。」
そして、僕達は身体強化を使って太陽が昇ってくる西に向かって全力で駆け出した。
その途中でいろんなことを経験した。
まず、ヒナに教えてもらった剣聖技ってやつ。
結論から言うと10回やって1回成功するくらいだから、あんまり使えない。
それに毎晩特剣天でヒナに教えてもらってる剣の振り方ですら、こっちじゃ全然できないし。
これは、ちゃんとやらないとできるようにならないな。
まあ、最初に剣を振ったときと同じくらいだと思えばいいか。
そして次に神聖魔法。『勇者』にくっついてきたやつね。
これも相変わらず使い方がわからない。
まず普通に魔法を使おうと思ってもそれだけじゃできないみたい。
例えば、ファイヤーボールを撃つ感じで使おうとしてみても、何も出てこないんだよね。
ただ魔力が抜けていくだけで。
こっちは剣聖技と違って、手掛かりさえないからどうしようもないね。
アントン達も結構試せたみたいだし。
アントンの盾捌きは前試合した時も思ったけど達人の域に言ってる気がするし。だってこっちに何も抵抗なく盾だけで攻撃をそらすんだよ?やばすぎない?
ヒカリとシズクも魔法の発動までにかかる時間が減っているうえに威力が上がってるし。
いやー、すごいね。僕は全然できるようにならなかったのに。
もちろんこんないいことだけじゃない。
ヒカリの光属性魔法、ウォッシングのおかげで汚れとかはないけど、風呂に入らないっていうことに慣れていないからなんか変な気分がする。
なんか、こう汚いものを靴の裏で踏んだら、足も汚く見えるみたいな。
……いや、なんか違うな。
それ以外にも途中で倒した魔物を解体して焼いて食べようと思っても、うまく解体できなかったり味自体が薄かったり。とりあえずシズクには料理させちゃだめだな。全部真っ黒になるし。
夜寝ないで起きているのが想像よりもきつかったとか。
テントが思ったよりも低くて居心地が悪かったとか。
これまでに体験したことがなかったことを体験できた。
……よかったかどうかわからないのもあるけどね。
そしてイースターを出発して1週間後、僕達はイーストエンドにたどり着いた。




