だって、『勇者』だから
……そんなこと言われたらやるしかないよね。
じゃあ、もう立ち直らなきゃいけないね。ダンジョン攻略を目標に進まなきゃ。
「分かったよ。やってみせる。僕は、いや僕達はきっとダンジョンを攻略してみせる。」
「そうか。頑張れよ。
……あと、そこに埋まってる厄災には手を出すなよ。あれに手を出すのはまだ早い。」
「分かったよ。でも大丈夫?あの書いてある感じだとそう遠くない内に崩壊しそうなんだけど。」
「あれは私がまだ普通の人間だった時からある代物だぞ。
10年程度なら大丈夫だ。」
「そうなんだ。ならしばらくはダンジョン攻略なり、魔物討伐なりに時間が使えるね。
……本当にありがとう。ここに連れてきてくれなかったら僕はもう死ぬつもりだった。
その前に、自分のことがちゃんと見ることができたよ。」
「気にするな。ここに誰か来たのは久しぶりだったからな。
誰かと話すのが存外に面白かっただけだ。」
そうなんだ。なら今度はもう少し頻繁に来ようかな。
「ではな。死ぬんじゃないぞ、勇者。」
シャララーン。
その音と共に景色が揺れた。
そして怪我空いたときには目の前には剣が見えた。
僕が持ってる剣だ。どうしてだ?
……ああ、そうか。もう死んでしまおうと思って自分に突き立てようとしたんだ。
アントン達もそれを眺めている。その目には失望が映っていた。
もう生きることそのものに希望を持てていないようだった。
多分僕が自分のことを刺したら、それをきっかけにみんなも自殺してしまうだろうな。
「……ごめん。もう、大丈夫。」
剣を腰の剣鞘しまう。
目からはまだとめどなく涙が流れるが、それとは対照的に心は晴れていた。
マサムネと約束したもんね。
「……みんなも多分、僕と同じことを考えたと思う。
僕達はみんなの仇を討つとか、街を守るとか言ってたけど、実際は自分のことしか考えていなかったって。」
「……そう、ですね。
もし本当にみんなの仇を討つことを考えるならば、仇を討てたと泣いたとしても顔は笑って報告できるはずですからね。」
「……私たちを攫おうとしたやつらだって街のことを考えてた。
なのに、私たちは街を守るどころか家族の仇を討つっていうことでさえ、本心から望めていなかった。
強くなるための手段にしてしまった。」
「……俺たちは皆の仇を討ちたいからってウォロさん達に修行をつけてもらってたもんな。
それなのに俺たちは、結局は自分のことしか考えていなかった。
実際ブラッディ・ベアを倒した時だって、俺はレベルがどれだけ上がったかを考えていた。
ウォロさんに対する感謝なんてまったく感じられなかった。
村の皆に対して、やったぞ、っとも思えなかった。
……俺は人間として終わってる。」
泣いているからか、くぐもった声で答えてくれる。
思った通り、皆同じ事を考えてたんだな。
よかった。みんなが同じことを考えていて。
だったら説得しやすい。
「僕も、結局自分のことしか考えられてなかったって思った。
もうどうしようもないやつだと、死んでしまえと思った。
……でも、だからこそ、これからは他の人のためにもなる行動を起こそう。
考えてみれば冒険者っていうだけで、報酬をもらってるわけだから他人のためだけに動いてるってわけじゃなかったんだよね。
だから、僕達も当然のように生きてみよう。
これまでよりも少しだけ他人のためを考えていこう。
ダンジョン攻略でも、魔物討伐でもいいからやってみよう。」
「「「……。」」」
3人とも考え込んでしまった。
でもそれでいい。もしかしたら考えないで死んじゃうかもしれないとか思ってたし。
「……まず、お前の言うことはよくわかった。
そうすれば、きっと今度こそ胸を張って村に帰ってこれる。」
「でも……それでも私たちがしてしまった事は消えないのでは?」
「そうだよ。私はもう無理だよ。
自分でもうこんな自分のことを好きになれない。」
二人はこれじゃダメか……。
なにか、ないか?
この際だったら、なんでもいい。
二人が立ち上がれるようなもの。
「そもそも、なんでいきなりそんなこと言ったの?
自分を剣で突き刺そうとしてたくせに。」
……どうこたえるか。
マサムネにあったって言っても信じてもらえなさそう。
……そういえば、称号が増えてたな。
たしか『勇者』だったっけ?
こんなの聞いたことないけど。
鑑定で見たものとはずれることになっちゃうけどいいか。
まだ見えないはずだし。
だから、そのまま文字通りだったら『勇気がある者』あるいは―――。
「―――だって、『勇者』だから。
僕の称号にあるでしょ?」
「ありますが。」「それがどうしたの?」
アントンにも伝わっていないか。まあいきなりだし当然か。
「この称号があるから僕はやらなきゃいけない。
これは『勇気を与える者』の称号だから。
でも、僕には一人ではできない。
……だから手伝ってくれないか?
僕がみんなに勇気を与えられるようになれるように。」




