僕達の本性
村長の手紙はあまりにも衝撃的な内容だった。
まず、この手紙から本当に生存者が一人もいないことがわかってしまった。
何となくわかってはいたものの、その証拠まで出てきてしまうともう期待もできなくなってしまう。
もしかしたら、と思うことさえもできない。
そう自覚すると、自然に涙が流れてきた。
どんなに怖くても痛くても泣かなかったのに、泣いてしまった。
自分の背丈よりもはるかに大きい魔物と戦っても、死にそうになってもこの心は動いてくれなかったのに、なんで今になって……。
足腰から力が抜け、うずくまる。
ヒカリとシズクは涙を流しながら抱き合っていた。
アントンは立ちながら目元を覆っていた。
……そうか。僕達はもしかしたら知らず知らずのうちにブラッディ・ベアさえ倒せば元の生活に戻れるんじゃないかって思ってたのか。
あの毎日が楽しくて仕方なかった日々に。
惜しみない愛情をくれたお母さんとお父さんがいた村に。
説教は怖いけど、最後には頭を必ずなでてくれた村長がいた場所に。
だから、もう二度と戻れないってわかってしまった今もう立ち上がれなくなってしまっているのか。
……どうしよう。
っていうことは、僕達はただ自分達のために全部利用してきてしまった。
ブラッディ・ベアっていうあの街においても脅威になる存在を倒すためだって自分に言い聞かせて、ジークさん達を師匠にしたり、カミラさんにいろんなことを教えてもらったりした。
院長先生にも拾ってもらったり、エドガーさんにもいろんな魔道具をもらったりもした。
でもその実、僕達はほかの人の事なんてどうでもよくてただ自分達のためだった。
皆の仇を討つためでさえなかった。
あまりに浅ましい。
皆、他の誰かのために動いていたっていうのに。
僕は、こんなの、自分がこんなクズだったなんて、知りたくなかった……。
シャララーン。
「馬鹿者。さっさと起きろ。」
なにか音がしたと思ったら、見覚えのある場所にいた。あの道場だ。
そして目の前にはマサムネが立っていた。
「どうしてここに?」
「お前が死にそうだったからな。せっかくそんな強くなったっていうのにそんな無駄なことはさせん。」
……無駄、か。
「もうわからないんだ。僕は正しいことをしてると思ってた。
ブラッディ・ベアはどこにいても脅威になり得るから、それを倒せるようになるために強くなることは間違っていないって。
そうすればみんなのためになるはずだって。
だから、しょうがないよねって。
でもさ、そのためにできることをして、何とかなったけど、これって結局自分達のためだけだったんだよ。
僕達を殺そうとしたあの商会長でさえ、街のことを考えていたっていうのに。
街がどうなってもいいって、僕は心のどこかで思ってたんだと思う。
ただ、僕達は自分達がよければそれでよかったんだよ。」
「それで?」
「ほかの冒険者たちのことを僕は見下してた。
でもそんな彼らは僕達とは違って街のために戦った。自分達が死ぬかもしれないっていうのに。
僕にはそんなこと、とてもじゃないけどできないよ。
だから、見下していたと思っていた彼らは僕よりもはるかに上の人たちだったんだよ。
だから、もう消えてしまいたい。このまま。誰の目もつかない場所で。思い出の場所で。」
「そうか。
つまりお前は、自分がこれまで積み重ねてきたことが全く間違っていたもので、自分のことが許せなくなった。その上、お前よりも弱いはずのやつらどころか殺人をするようなクズでさえお前がやっていたと思っていたことを普通にできていたと。
だから恥ずかしくて生きていけない。
そういいたいのか?」
「……それだけじゃないよ。もうどうでもよくなっちゃった。
何のためにこれから生きればいいかわからないんだ。
それどころか僕達が何か目標をもつなんてしちゃいけないんだよ。
結局、全部自分のためにしか動けないんだから。」
「……お前は馬鹿か?」
これまでの少し低い声ではなく、どすの利いた声でマサムネが聞いてきた。
「いいか?だれが他人のためだけに動けるんだ?
お前が言っていたやつは報酬とかなしで街のために戦ったのか?
その街にそいつにとって大切な物やら人がいたんじゃないのか?
……だれもがみんな自分のためにしか動けない。
ここで何人もの剣を振るものを見てきたがな。
強くなれるやつらはたいてい自分のことしか考えられない。
他人のために、っていう動機ではあまりにも弱すぎる。
命などとてもじゃないがかけられない。
だから、お前がしたことは間違っているどころか当然のことだ。
気にするな。」
……そんなこと言われても。だったら強くなるのが間違ってるの?
「……って言っても多分お前が、お前たちはそう思えないだろうな。
だからもう少しだけ話そうか。
私は安心しているんだ。
強くなれるやつはさっき言った通り、自分のことしか考えられない。
だからその末路はひどいものだ。
その強さがある内はいいが、それに陰りが見え始めると大抵裏切られるからな。
考えてみれば当然だな。なにせ、それまでずっと自分勝手にしてきたんだから。
中にはここで私を襲おうとした輩もいたくらいだ。
だが、お前は止まることができた。
立ち止まって、自分のことを見ることができた。
だからもう大丈夫だ。
これからはきっと他人のためにも動ける。たとえどれだけ強くなってもな。
それでも不安が残るなら、自分のためでありながら他人にためにもなるようなことをしろ。」
「……自分のためでありながら、他人のためになること?」
「そうだ。
魔物討伐でもいい。ダンジョン攻略でもいい。
魔物だったら、食材や材料が回るだろう。ダンジョンだったら、そこにしかない魔道具が街の中で回る。
とにかく自分のために動いた結果、他人のためにもなるようなことをしろ。
それくらいならできるだろう?」
マサムネは挑発するように、でも確かな期待を込めて僕に問いかけた。
面白かったら、ブックマーク登録お願いします。
また時間があったら下の方にある星マークにチェックしていただけると嬉しいです。




