僕達が生まれた村
「……ついたな。何年ぶりだ……?」
「分かんない。2年ぶりくらい?本当に久しぶりだね。」
「そうですね。だいだい1年半ほどでしょうか。
体感ではもっと長く感じましたが。」
「そうかー。あれからもうそんなに経ったのか……。
私も必死になって魔法の練習をしたのもそれくらいだったんだ。」
村の感じもかなり変わってしまっている。
村の中の畑も魔物に食いつくされたのか、まったく何も残っていなかった。ここの手伝いを何回もさぼったんだもんな。
家も残っているものはほとんどなかった。僕の家もアントンの家もシズクの家もなくなっていた。
残っていたのはヒカリの家である、村長の家だけだった。ここで何回も説教されたね。
あ、ヒカリは一応村長の一人娘だよ。
どうしてかな?大きい家だから真っ先に狙われると思ったんだけど。
「……まず、ヒカリの家が残ってるからそこに行ってみるか。」
「そうだね。」
……あー、この感じだともう骨とかも残ってないだろうな。
家の残骸も腐ってきちゃってるし。魔物が住み着いていないのが幸運だな。
……いや、なんか毛が落ちてるし、途中でここに住み着いていた魔物がいたっていう方が正しそうだな。
で、ブラッディ・ベアに追い出されたか、支配下に置かれたかって感じか。
もっと早く来れてたらな。
あっという間にヒカリの家についた。
村が狭いというよりは、街が広すぎるという感じなのかな。
なんかそうだとすると、少し寂しいな。
村長の家は家を1年以上放置したらそうなるだろうな、という感じの状態だった。
魔物の襲撃があったのにその影響がほとんど残っていないようだった。
強いて言えば家の前が少し荒れてるくらいかな。
「開けるぞ。」
ギィィィー。
家の中はとても静かだった。
まあ、当然か。1年以上誰も住んでいないんだから。音がした方が怖いね。魔物もいないっぽいし。
入ってすぐにある部屋が客間。村の外から商人が来た時に通す部屋なんだけど、ほとんど来ないから普段はほかの用事のために使われた。
まあ、説教をされた部屋なんだけども。本当に怖かったね。
でも不思議なことに今にして思えば、あの地獄みたいな説教ももう一回くらいなら受けていいと思える。
……いや、思えんな。やっぱり。
そのまままっすぐ行けば、村長一家が生活をしていた居間につく。
大き目なテーブルと椅子が3脚あった。それ以外にもひざ下あたりの高さの机があったり、カーペットが敷かれていたりした。
ここに入ったことはあんまりないけど、ここが一番部屋として広いから荷物を置くのはここになりそうだな。
で、客間の側に2階に上がるための階段がある。
2階には村長の執務室みたいな部屋と寝室があるって、ヒカリが言ってた。
だからもし何かが残ってるとしたらここが一番確率が高いってさ。
となったら行くしかないよね。居間に荷物を置いて2階に向かう。
2階上がってすぐに2つの扉が見えた。
ヒカリが右の部屋に入っていく。そっちが執務室かな。
じゃあ、もう片方は行かない方がいいだろうね。いくら幼馴染でも寝室は見られてくないだろうし。
執務室の中には一人用にしては大きい机が一つと、たくさんの本が入った本棚があった。
……ギルマスの部屋に似てるな。
そしてその机の上になにか置いてあった。
これは……、
「手紙……?」
「そう、みたいですね。でもそんな時間があったんでしょうか?」
「それについても書いてあるかもしれない。とりあえ読んでみるぞ。」
そこには村長の字で遺書のようなものが書いてあった。
『私はこのアコタル村の村長を務めていた男だ。これが読まれている時が来るのかさえ私にはわからないが、最期に私の後悔と少し先に起こるだろうことをここに残しておこうと思う。
私は大切な民であり、仲間であった彼らを見殺しにしてしまった。
そしてこの世界にとっても重要なこの村を壊滅させてしまった。魔物の襲撃を許してしまった。
この村の中には魔物が入ってくることはないはずだったのに。
どうしてかはわからないがこの家に魔物が襲撃を仕掛けてこなかったから、まだ壊れてはいないはずなんだが。
次にこれから起こるであろうことを記す。
まず先ほど重要といったが、この村にはほかの村とは違うことがいくつもある。
一つ目は、この村には長い間引き継がれてきた奥義が存在するということだ。
それは心身統合というもので、この村でしか使えるようになることができないというものだ。
これは誰にも教えることがなかったが、この心身統合はとても重要なものらしい。
ただの強さだけではなく、何かがあるらしい。
私も詳しくは知らされていなかったが、強くなると突然これの重要さがわかるようになるようだ。
予想では、神話のものを倒すための条件なのだろうと思うがどうなんだろうか。
二つ目は、この村を拓いたお方がいるということだ。
この村は人の手で拓かれたわけではない。
精霊様が拓いたのだ。
これは村長である私しか知らないことだが、この村は太古の昔から存在する村であるようだ。
言い換えれば、いわゆる神話の時代から存在する数少ない村であるということだ。
その村民も神話の時代を生きた人間の末裔ということになる。
つまり、私はこの村を作ってもらった恩を仇で返してしまった。
三つ目は、この村がある場所だ。
なぜここを精霊様が拓いてくれたのか?つまり、この村が特別なのは村民に流れる血だけではない。
この村の地下に厄災が埋まっているということだ。それが何かはわからないが、神話の時代のものであることは想像に難くない。
それがこの世界にとっていいものであればいいが、まあそれはあり得ないだろう。
一番わかりやすいのが魔物の凶暴化だな。
だが、今にして思えば不思議だな。ブラッディ・ベア程度の魔物がこの村に入ってこれるはずがないんだが。もう言っても遅いし、実際に入ってきたから何も言えないが。
この村がこうなった以上、そう遠くない内に魔物が凶暴化してしまうだろう。
この家がある以上はまだ大丈夫だが、人が住まなくなると家は壊れやすくなるらしい。
そしてすまない。
私は娘も妻も村の皆も失ってしまった。
だから、この状態のまま皆の元に向かわせてもらう。
この無責任な私をいくらでも責めてくれ。』
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