決戦の時 アリス視点
長いです。
だいたい2話分です。(4000字くらい)
私には4人友達がいます。しかも同年代なのに結構強い。
というのも、もうDランクになっていて、討伐依頼もこなしているそうです。
私はまだ街の中の依頼をこなしたり、魔物の討伐を見学したりとかしかできていないというのに。
はじめは4人のその強さに嫉妬しました。
父の言うことを聞いて男のようにふるまわなければいけなかったのもつらかったですが、冒険者学校の授業を寝ていて聞いていないようなのに、私よりも先生に気に入られていたのにも怒りを感じていました。
だから、あえて絡みに行きました。ありえないような噂も流してやりました。
自分でもなんでこんなことをしたのかわかりませんが、とにかく嫌がらせをしました。
結局、良くか悪くかほとんど効果はありませんでしたが……。
でも、剣聖のパーティーのおかげで父の悪行が明るみになって逮捕された後、私に4人の過去を剣聖が教えてもらいました。どうして教えてくれたかはわかりませんが。
生まれ故郷を魔物の襲撃によって失ったこと。
家族が目の前で殺されていくのを見ているしかできなかったこと。
生き残りは4人しかいなかったこと。
その仇を討つためだけに生きてきたということ。
それを聞いたときようやく納得できました。
4人は別に天才ではない。ただ一つの目標に向かってひたすら突き進んでいるだけなのだと。
そしてそこには血を吐くほどの努力があるのだと。
だから先生は彼らを気に入っていたのだと。
その4人の足を引っ張ることを考えていた私にとって4人はとても眩しく映りました。
尊敬の念すら覚えました。
私にはそんな目標なんてありませんでいたし。
剣聖に冒険者になるよう言われなかったら、私はきっと何もすることができなくなっていたでしょう。
街で彼らを見た時少し嬉しかったのだと思います。
ようやく彼らに少し追いつけた気がしたんです。
街での依頼をこなしていくうちに依頼を受けるとはどういうことかを知りました。
討伐依頼の見学をすることで魔物の討伐というものを肌で感じました。
彼らができることは私もできるのだと、感じられました。
でも、彼らは私が思っているよりもはるか先にいました。
それに対し、どうして追いつけないのかと誰にも向けられない怒りを感じましたが、同時にどこか納得してる自分も確かにいました。
その時から彼らが明確に私の目標になりました。
商会で兄と話している4人は(ほとんどアントンでしたが)いい意味で年齢不相応でした。
商会で話してから私は彼らと会ったら普通に話せるようになりました。
街ではだれも目も合わせてくれなかったので、家族以外と話すのは久しぶりでした。
オリビア姉さんを変な目で見るのは許せませんが。
そして最近ようやく規定を乗り越えてDランクになることができました。
オリビア姉さんと二人で初めて魔物討伐に出た時は全く戦えませんでした。
見学で何回も見ていたはずなのに、体が動きませんでした。
私が倒せた魔物はグレイ・ラビットを一体だけ。
オリビア姉さんは慣れれば大丈夫だと言われましたがそうでしょうか。
言われた通り慣れれば普通に倒せるようになりました。
まだパーティーを組んでくれるような人はいないからオリビア姉さんとしかパーティーを組めませんでした。
でも確実に彼らに追いつけているはずです。
緊急依頼が出ました。なんでも魔物の大群がこの街に向かってきているようです。しかもこれまで見たことがないほどの大規模な。
Dランク以上は強制で参加しなければいけないようで私もオリビア姉さんも参加が必須でした。
エドガー兄さんは商会長だったので免除されましたが、もしもの時のために戦えるよう準備はしておくようです。
本当に久しぶりの大規模戦とのことで、ギルドの中の雰囲気はピリピリしていました。
ギルマスも前線に出るとかで本当に総力戦になりそうです。
それに私とオリビア姉さんは違うところに配属されました。
私は魔法使いでオリビア姉さんは剣士なので当然といえば当然ですがかなり心細いです。
戦闘が始まりました。敵はオークしかいなかった。それだけでも異例らしいです。
私はCランク冒険者のソフィアさんが指揮する魔法使いでまとめられた後方の部隊に配属されました。
私たちはソフィアさんの号令で魔法を手前から真ん中くらいの敵に向かって撃つことだけが仕事。
「今です!撃ちなさい!」
「「「「ファイヤーランス!」」」」
「「「「ファイヤーボール!」」」」
私は最近ようやく使えるようになったファイヤーランスを撃ちました。
周りの同じくらいの年齢の冒険者はまだファイヤーボールしか撃てていないようだったので、少し自分の努力が報われたような気がした。
でもやっぱりCランク冒険者というだけあってソフィアさんの撃つ魔法は威力が違った。
そして魔法を何回か撃った後、とうとうオークが前方の近接戦闘職の部隊とぶつかりました。
そうしたら私たちは味方に当たらないように後方の敵に撃つよう指示されました。
戦闘はかなり激しいものだったと思います。まあ、私はこれが初めてだったので比較対象がないんですが。
どれくらい戦っていたでしょうか?
かなり長かった気がしますが、実際は10分くらいしか経っていなかったと思います。
その時オークの大群が戦闘をやめて全員が撤退していきました。
明らかに不自然でしたが、それを追撃することになりました。
ギルマスもいたのに特に反論をすることもなく。これは罠なのではないかと私は思いましたが言い出せずに追撃することになりました。もちろん怪我人は連れていきませんでしたが。
あまりに急に決まったので、その中にオリビア姉さんがいたのにも気が付けませんでした。
逃げたオークたちを追いかけるとすぐにその姿が見えました。
その時です。オークの後ろから大きな火柱が上がったのは。しかもそれは色が最初は赤だったのに途中から青に変わりました。威力は誰が見ても十分以上あると思ったでしょう。
きっと上位ランクの冒険者がいるはずだと私の周りの冒険者たちは勝ちを確信して色めき立ちました。
オークと威勢よくぶつかりました。
でもみんなが前しか見えていなかったのか気づいたときにはもう遅すぎました。
私たちの後ろにオークが回り込んできました。
そうして取り囲まれた私たちは前衛職を外側に、魔法使いを内側に配置することで持久戦をすることにしました。いるはずの上位ランクの冒険者が助けてくれるまでの時間稼ぎですね。
しかし、それもうまくいきませんでした。
突然ありえないほどの威圧を感じたと思ったら、空がいきなり暗転しました。
その瞬間オークたちの凶暴性が増し、外側の前衛職の冒険者があっという間に倒されていきました。
魔法使いももちろん魔法を使っていましたが、まったく当たらないか、当たっても攻撃になりえませんでした。
周りの冒険者達はもう戦意を失ってしまっています。なにせ前衛職の人が倒されたのは文字通りあっという間だったのですから。時間にして10秒ほどでしょうか。
でもなぜか殺すつもりはないようです。
「グルアァァァッ!?」
そんな絶望的な状況で、魔物の叫び声が聞こえてきました。
そちらに目を向けると、そこでは一人の剣士が大きなクマみたいなのを圧倒していました。
周囲の声からそれがブラッディ・ベアであると知りました。
っていうことは……。
そう思ったら、もう足が止まりませんでした。
そこで戦っていたのは、
レオでした。
誰もが彼の姿に希望を見た中、私はもう何が何だか分からなくなってしまいました。
彼の剣は神々しいと思えるほど白く輝き、その一閃は私たちに生還の可能性を示し。
彼が彼が撃つ魔法は驚愕とともにより強い討伐という希望をもたらしました。
そんな中だったからでしょう。
私たちはだれもこちらにブラッディ・ベアが近づいていることに気づけませんでした。
それに最初に気づいた人は私の隣にいた人で、それなのに私に何も言わないで後ろの方に走っていきました。
そしてブラッディ・ベアにようやく気づいたときにはあまりにも近すぎて、私の腰は砕けてしまっていた。
必死に魔力が切れるまで魔法を撃ちましたがそんなので止まってくれるはずもなく。
私はブラッディ・ベアが右腕を振りかぶったのを見て、死を覚悟しました。
ドン。
目を開けるとそこにはレオの顔がありました。
私を突き飛ばしたようです。
もう攻撃をよけられないとわかっているはずなのに、その顔は不思議なほど穏やかで。
目にはどういうことか安心感さえ浮かんでいました。
バチンッ!
次の瞬間、レオの姿がなくなりました。
「フム、ヨクワカランガアイツヲハイジョデキタカ……。
ナゼアンナコトヲシタノカハワカランガ……。
……モシカシテコイツマモロウトシタノカ?
ダトシタラ、ムダダッタナ。」
ブチッ!
「何言ってるんですか……?
無駄?そんなはずがないでしょう?」
もしもの時自殺するために父に持たされていた短剣に手が当たった。
忌まわしいことにこの習慣を忘れることができなかった。
「ムダデアロウ。
オマエタチノヨウナザコヲタスケルタメニシンダノダカラ。
アノママタタカッテイレバ、ワレをコロセタカモシレントイウノニ。」
「だったら、ここで、私が殺してやる。」
「デキンヨ。オマエデハワレニキズをツケルコトモデキナイ。」
「やってみないとわからないでしょう?」
「デハ、ヤッテミロ。」
ブラッディ・ベアに向かって短剣を突き出した。
ズッ!
少しだけ刺さった。
「イッタトオリデアロウ?
ワカッタラシネ。」
「まだ。
―――バーニングフレア。」
短剣先から眩いほどの光が放たれた。
「グアァァァァァァッ!?!?!?」
かなり痛そうですね。当然です。
体の内側に直接魔法を撃ったのですから。
体の内側で焼肉です。
これで倒せましたかね?魔力も全部使いきりました。
「アマクミテイタ……。アトスコシデホントウニシヌトコロダッタ。」
まったく、最期もやりきれませんでしたか。
「モウユダンシナイ。アイツトオナジヨウニコノバデコロシテヤロウ。」
すいません、レオ。あなたの仇は私では討てなさそうです。
ブラッディ・ベアの右手が見えてきました。
先ほどとは違って、もう怖くありませんね。
もうやり残したことがないからでしょうか?
……いや、まだレオに、4人に伝えたいことがあります。
ありがとうございます。皆さんのおかげで……。
「それは直接教えてよ。あいつを倒した後でね。」
そこには、死んだはずのレオが立っていました。
右目は潰れ、左腕は根本からなくなっていますが、確かにそこに立っていました。
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