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人と神様の国取り合戦  作者: きりきりきりたんぽ
称号『復讐者』
68/125

決戦の時 その8

 一人の少年(レオ)が放った威圧が場を支配した。

その場に居合わせた冒険者はもちろん、オークたちですら異変を感じ動きを止めた。

そしてそれを向けられたブラッディ・ベアとその近くにいた体格のいい少年も当然動きを止めた。


「まさか……。」


「ホゥ。ココマデノモノヲハナツカ……。

ココデカナラズシマツシナケレバ、イズレアノカタノジャマニナルヤモシレヌ。」


「……。」


「ダガ、スコシテヲウッテオコウカ。

ーーグルアァァァッ!」


 世界が夜に包まれた。先ほどまで空にあった太陽は隠され、代わりに満月が顔をのぞかせた。

 レオは最後の切り札として残していた『復讐者』の効果を上乗せさせた心身統合を使い、ブラッディ・ベアも最後まで残していたスキルを発動させた。

決着の時が近いのは誰の目に見ても明らかだろう。




 これまでにやれることは全部やった。あとは勝つだけ。

今の状態はかなり不思議な感じだ。怒りに体が支配されながらも意識は冷静だ。

ステータス面ではおそらく2.5倍ほどまで上がっているだろう。

剣も前回よりもはっきり白く輝いている。

っていうことは、スキルのレベルも一時的に上がるのかな?だとしたら魔法も使える。

でも、多分もって5分くらい。

 それには、


「アントン、下がって。」


アントンがいたら巻き込んでしまうかもしれない。

だったら一人で戦う。


「……おう。」


 よかった。

これで、全力を出せるね。

じゃあ、やるか。


ザシュッ!


 思いっきり足を踏み込んで前に飛んでそのまま袈裟に斬った。

あまりに早かったせいか、ブラッディ・ベアは反応することもできなかった。


「グルアァァァッ!?」


 でもさすがというべきか、即座に攻撃に切り替えたようで右腕をこちらに向かって振ってきた。

でもそれは今の僕からしたら遅すぎた。

それを潜り抜けて後ろに回って、逆袈裟に背中を斬った。


「グルアァァァッ!!」


 それが合図だったのか、オークが何体かこちらに向かって突進してきた。

オーク程度じゃ時間稼ぎになるかどうかじゃない?

っていうか、もう冒険者たち無力化されてるんじゃん。何やってんの。

それになんか期待を込めた目でこっちを見てるし。

 こちらに突進してきたオークの横を軽くジャンプして通り抜けながら首筋を斬りつけた。

それだけで今なら致命傷になる。

着地点を狙ってオークが3体文字通り飛んできた。

これはタイミング的にジャンプじゃ躱せないな。

なら、取れる手段は一つしかないよね。

()()()()()()()()()()()()()()()()


「……剣聖技 夢幻一閃。」


ザシュッ!


 3体も斬ったのに、斬ったときの音も感触も1体分しかなかった。

ブラッディ・ベアも僕に斬られたところを再生させながらも、こちらを見る目はわずかに見開かれていた。

……あれ?剣聖技ってなんだ?

まあいいか。あとで考えよう。


「グルアァァァッ、グルアァァァッ!!」


 冒険者たちを囲んでいたオークたちの半分くらいにあたる30体ほどがこちらに向かってきた。

それと同時にブラッディ・ベアは冒険者たちの方に移動を始めた。

時間を稼いでその間に冒険者を殺そうとしているわけか。

さっきブラッディ・ベアがレベルアップした時の感じから魔物は人間を殺したらレベルが上がるっぽいからそれを狙ってるんだろう。

冒険者たちは必死に逃げようとしてるけど、反対側にもオークがいるから逃げ切れないだろう。

でも鑑定で見てみたらもうMPが切れてるから、これを削りきったら僕の勝ちだな。

だったら、オークは無視した方がいいよね。


 一直線にブラッディ・ベアの方に向かっていく。

でも、当然だけどその前に大量のオークが立ちふさがる。


「邪魔だなぁ。

ファイヤーランス・3連。

ウインドランス・3連。」


 シズクがさっきやってたやつを少し真似してみるか。

でもシズクの時とは違って、同時に撃たなきゃいけなさそう。

まあ、今の僕なら大丈夫か。


「行け。」


 その一言で僕の後ろに浮かんでいた槍がまっすぐオークに向かって飛んでいく。

そして一番前にいたオークにあたる寸前ですべての槍が融合して、一回り大きな青く燃えている槍が出来上がった。


「ブモアァァァ……。」


 その魔法だけで20体ほど倒しきった。

後は無視しないと間に合わない。

もうブラッディ・ベアは一番近くの冒険者に追いつきそうだし。

 ……あれ?あの一番近くにいるのってアリスじゃないか?

しかも腰を抜かしてる。

だったら助けないと。エドガーさんとの約束を破るわけにはいかない。


「ブモオォォォ!」


 それなのにオークが僕の方に飛びついてきた。

少し焦ったのを見破られたか?

まあ、1体ならすぐに倒せるから間に合う。


ずぶっ。


 なんだ?この感触は?斬れていない?

そう思ってオークの方に目を向けると剣がオークの腹部に埋まっていた。

しかも動かない!?


「ファイヤーガンッ!ファイヤーガンッ!」


 アリスの必死そうな声が聞こえてきた。

まずい、多分もうかなり近いところにいる。


「ファイヤーガンッ!止まって、止まって!」


 クソッ!これはもう抜けないっ!

しかももうブラッディ・ベアが右腕を振りかぶってる。

助けられる方法はもう一つしか思いつかない。

だったら……。


ドンッ!


大きく踏み込んで、アリスの方に飛んだ。

……ギリギリ間に合ったかな。

アリスの涙をこらえた瞳と目があった。

うん間に合った。

あとはアリスを少し押してやるだけ。


ドン。


突き飛ばしちゃったかな。

でもブラッディ・ベアの攻撃は当たらないはず。

これで約束は守れた。


肉球が見えたと思った次の瞬間、とてつもない衝撃を感じた。

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