決戦の時 その7
あー、あの首輪がなくなったからもうあの男は普通に攻撃されたのか。
でもそっちはあんまり問題じゃない。
ブラッディ・ベアが普通に動き出せるようになっていることの方がやばい。
まだその場で棒立ちになっている。いや、遠くを眺めている?
なら今のうちに鑑定しておくか。
「どういうことだ?何が起こった?」
アントン達が僕のいるところに来た。
「あの魔法の中でもあいつは生き延びたっていうことだね。
そして多分もっとやばいことになりそう。」
「どういうことですか?」
「あいつのステータスがさっきとはくらべものにならないほどになってる。」
「「「……え?」」」
名称 ブラッディ・ベア
個体情報
LV 50
HP 2096/2096
MP 2084/2084
SP 2010/2010
攻撃力 1249
魔法力 0
物防力 0
魔防力 0
回避力 609
スキル『再生 LV6』『魔物支配 LVMAX』『ステータス変換 LVMAX』『?? LV??』
称号『魔王』
「……なんだ、これ?
しかもなんでレベルが上がってるんだ?
ステータスも防御力を0にするって、『復讐者』について知ってるってことだよな。」
「これは、まずいかもしれませんね。
私たちが全員心身統合を使ったとして、何とかなると思いますか?」
「……僕は一応まだ貯めてるからギリギリ行けるかもしれない。
でも最低でもMPを切らせた状態でHPも削りきるってなると厳しいかな。」
「私は少し休んだらもう一回行けそうだよ。
MPポーションもまだ残ってるし。」
「……二人はあいつが動き始めそうだったらすぐに魔力除けを使ってくれ。
それでオークの方の警戒を頼む。」
「その前に、……オールブレッシング。」
ドンッ!ドンッ、ドンッ!
その時、オークの大群に向かって魔法が放たれた。
「ようやく追いついたぞ!」
「こいつらを倒しきれば今日は終わりだ!」
「報酬で酒飲むぞぉぉ!」
「こいつらは肴だぁぁ!」
冒険者がこちらに来てしまったようだ。
何がきた魔物だけ倒すだよ。嘘つきやがって。
動きづらくなったじゃないか。
「ヤレ!ブキダケコワセ!ワレガコロス!」
……は?
今、こいつ喋らなかったか?やたら片言だったけど。
しかもこいつが止めを刺すのか?
オークたちはブラッディ・ベアの声を合図に攻撃を開始した。
外側のオークが内側のオークよりも先行する形で走り出した。
……あれは、まさか囲もうとしてるのか?
後方にいるはずの魔法使いを狙ってるだけじゃなく、後ろに回り込んだらそれだけで囲める。
そうすれば、確かにこいつが止めをさせるな。
何も考えていなかったらこの作戦だけで皆殺しにされるな。
「サア、ハジメヨウカ。アノトキコロシソコネタニンゲンヨ。」
その言葉を聞いた瞬間目の前が真っ赤になった。
こいつ、それを覚えてるのか?
その上でここに立ってるのか?
やっぱりこいつだけは僕達が倒さないと。
……落ち着け、落ち着け。まだその時じゃない。
「……レオ、あとでヒカリに謝るって伝えてくれ。
ーーー心身統合。」
「ばっ!」
さっき解除したばかりなのにまた使いやがった。もう自力じゃ戻ってこれないぞ。
……でも、それも覚悟の上だろうね。この感じだと1.5倍じゃなくて2倍で戦うつもりみたいだし。
今のうちにポーション飲んでおこう。MPも少しやばいし。
魔力放射での消費は減ってたけど、それでもやっぱりなくなるしな。
感覚強化は、……もう使っても大丈夫そう。
アントンとブラッディ・ベアの戦いは2倍の心身統合とヒカリの支援魔法があってギリギリ均衡が保たれている。
それにしても戦いから生じる音がえげつないことになってる。
ブラッディ・ベアの攻撃力は数値通りに強いけど、アントンもそれをしっかり受け切っている。
でも、先ほどよりもアントンに傷がつく頻度が明らかに上がってる。
もちろんブラッディ・ベアにも攻撃を当てられているんだけど、HPとMPが多すぎて全然削れている実感が持てない。
……これは僕も使った方がいいな。もう少し貯めたかったけど。
「……心身統合。」
そう呟いたのと同時に体の内側からこれまで抑えてきていた感情が噴き出してきた。
前回、3人をバカにしてきたアホに対するものとは次元が違うほどの怒りが、これまでブラッディ・ベアに対して感じていたものよりもはるかに濃度の濃い憎しみが、心の底から顔をだした。
領主様が教えてくれた『復讐者』の効果。
それは感情をため込むことができるということ。
普通であれば、復讐相手と戦う時に怒りとか憎しみといった負の感情に呑まれないで冷静に戦えるってことなんだけど、僕達はほかにも使い道がある。
まあ、普段からあんまりこいつに絶対復讐してやるとかも考えなくて済んだのもこのおかげかな。
心身統合のときにため込んだそれが使えるよね。
このことを教えてもらってから1週間くらい負の感情をため続けてきた。
街を歩きながらあの時のことを思い出して憎しみを貯め。
剣を振りながら自らの無力さに対する怒りを貯め。
幸せそうな家族を見ては妬みを貯め。
普段では絶対にしないことをしてきた。
すべては、村のみんなの仇を討つために。
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