やりすぎちゃった…?
最初はイーサン視点です。
「なんだ、アレは…?」
どのタイミングで出ていこうか考えていたが、その思考は目の前で起こった異常な現象によって吹っ飛ばされた。
説得している側の少女が小さく何かを呟いた瞬間、小さな少女の体からⅮランクの冒険者とは思えないほどまで魔力が膨れていくのを感じた。俺のパーティーメンバーでCランクのミラとも同じくらいの魔力を感じる。
でも何をするつもりなんだ?殺意は感じないから、あいつらのとどめを刺すつもりじゃないだろうが。
「…光属性魔法 エリアヒール。」
少女を中心に10メートル程に回復魔法が放たれた。
「なっ!?」
エリアヒールは文字通り、回復魔法を10メートル程の範囲に広げてかけるってことだ。だから絶対に普通のヒールよりも効果が落ちる。だというのに、その回復魔法は普通のヒールと同程度、ともすればそれ以上の効果をもたらしているように見える。
実際、ボロボロだったあの4人も全快に近い状態まで治っている。
……いやそこまではまだ理解ができる。あれほど魔力を使ったエリアヒールならヒールと同程度の効果を持つだろう。だが、その回復魔法はそれだけじゃなかった。
回復魔法が放たれた瞬間、それまで張りつめていた空気が急に弛緩していくのを感じた。
二人の少年少女が放っていた殺意やら敵意も消えていった。
Eランクの子供達に目を向けると、気絶をしているのもしていないのも顔色が治っている。
そう、その回復魔法は物理的な傷だけでなく、精神的にも効果を持っているようだった。
「まったく、末恐ろしいやつらだな…。」
「ふう、ありがとう、ヒカリ。」
「ほんとにありがとう。途中から私の体が私のものとは思えないほどになっちゃってさ。
怖かったんだ。」
「…ほんとに気を付けてくださいね。村で教えてもらった通り、心身統合はほんとに最後の切り札なんですからね。」
心身統合を解除したヒカリがかなり疲れた様子で答える。気が付いたら、ヒカリの周りに咲いていた花もなくなっていた。
「ああ、これしまっといてくれ。」
アントンが両手で抱えていた大量のグレイ・ラビットを渡してきた。
おお、これはまたたくさん倒したな。
アイテム袋に全部入れた。……これの重さって変わらないんだな。
「それで、お前たち、立てるか?」
「え?うん。…なんか体が重いけど。」
「私立てないよ?どうして?」
「どうしてって、村でじいさんたちが言ってただろ?心身統合は一時的なもので反動があるって。
使ってる間はステータスが全部強化されるけど、使った後はステータスが全部弱化されるって。」
「……それってどれくらい?」
「心身統合を使った時間分だな。っていうか、お前たちほんとになんも聞いてなかったんだな。
帰ったら修行じゃなく説教だな。」
「えー、せっかく試したいことができたのに。」
「だめだ。また簡単に心身統合を使われたらどっかで倒れてる、なんてことになりかねないからな。
今回は相手の態度が悪かったんだろうからしょうがないが。」
「そうだよ。村から外に出るときにいつも村長に約束させられていたことだからね。」
毎日のように、村の外で遊んでいたからな。最初のころはよく止められてたっけ。
外に出る条件がその約束を守ることだったからね。
「あー、すまないが少しいいか?」
そんなことを考えていたら、誰かが声をかけてきた。
あ、さっき声をかけてきた人だ。確か、イーサンさん、だっけ?
「なんですか?」
やっぱり、対人戦(会話)はアントンが適任だな。僕は敬語?とか使えないし。
「何となく流れは読めるが一応聞いておこうと思ってな。」
「あー、なるほど。レオ、頼んだ。」
は?
「……そんな顔するなよ。俺は途中からしかいなかったんだからわからないし。」
「……分かったよ。口調とかは気にしないならいいよ。」
「かまわないさ。冒険者同士だったら気にする必要はない。
でも自分よりも上のランクで強い人にはたいてい敬語で話したほうがいいぞ。
あとほとんどないとは思うが、領主様と話すときもな。」
僕は事の一部始終を話した。
こいつらがアントン達のことをバカにしていたこと。
こいつらが先に武器を向けてきたから反撃したこと。
それをヒカリの魔法で治してもらったこと。
すべてを説明し終わった後、イーサンさんは大きくため息をつくと僕達の後ろに声をかけた。
「今のは本当のことか?」
誰に話しかけてるんだ?と思って振り返るとそこには例の4人組がいた。
全快の。
おかしいな。結構な傷を負わせたはずなんだけど。
まさか、ヒカリのエリアヒールであいつらも治っちゃったのか?
なら、もう一回やっちゃおかっな。
でも、今やったらただの違反行為になるな。
どうしたもんか…。
「はい、全部ほんとのことです。
ほんとにふざけたことして、すんませんっした!」
「「「すんませんっした!!!」」」
……は?どしたのこいつら。
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