惨劇
「じゃあ、やるよ。レオ。」
「うん、いいよ。シズク。」
「「心身統合。」」
呟いた瞬間、二人のまだ小さい体からありえないほど暴力的な威圧が発せられた。
それは、これまでたくさんの魔物の討伐を経験してきたはずのⅮランクの冒険者が、無意識のうちに剣や杖を構えてしまうほどに圧倒的なものだった。
その時、子供の一人が飛び出していくのが見えた。
「あ。構えたね?無防備な私たちに向けて武器を向けたね?」
「じゃあ、何されてもしょうがないよね?先に仕掛けてきたのはお前たちだもんね?」
底冷えするほどの殺意がこもった、それでいてどこか楽し気な声で話しかけられた4人の男はようやく二人の異常性に気が付いたが、もう遅すぎた。
放たれる威圧や殺気は時間が経つにつれ、強く、鋭くなっていく。
Eランクの子供達はもちろん、Ⅾランクの4人も二人の後ろに異形のものが立っていると錯覚してしまうほどだ。
「なっ、なに言ってやがる!?俺たちはEランクのガキの育成依頼の最中だぞ!?
手を出していいと思ってんのか!?」
「そ、そうだ!それに俺たちはただパーティーの勧誘をしただけじゃねぇか!」
「あははっ!…何言ってんの?そんな言い訳が通じるとでも思ってるの?」
「あと、Eランクの子供達くらいなら僕一人でも街まで傷一つなく送れるから。」
「そうじゃねぇよ!俺たちは今依頼の最中だって言ってんだよ!
お前たちはそれを妨害しようとしてるっつってんだよ!」
「…そんなの気にすると思う?見通しが甘いね。それにだったら、依頼の最中に他の冒険者に殺し合いを仕掛けるのはアリなんだ?」
「もう、いいよ。さっさと終わらせないと。アントン達もこっちに来ちゃう。」
「そうだね。
火属性魔法 ファイヤーポンド。」
シズクの後ろに火の池が出来上がる。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
唯一何かを言う余裕がなかった一人が殺気に耐えられなくなったのか、シズクに切りかかる。
「おいっ!?バカヤロウっ!?」
その様子を楽し気に見つめながらシズクは魔法を発動させる。
「火属性魔法 ファイヤーバインド。」
火の池から、何本もの火でできた糸が飛び出していく。
「こっ、こんなのっ!」
男は糸に向かって剣を振り下ろした、ーーーはずだった。
「なっ、なんでだよっ!?なんで糸が剣で斬れないんだよっ!?」
糸は剣を受け止めきっていた。それだけではなく、剣にも巻き付いていた。
「当然でしょ。この糸は私が流した魔力に応じて強さが変わるんだから。
強化もしていない普通の剣に切られるほど弱いはずがないでしょ。
それと、…はい、一人はおしまいだね。」
池からまた大量の糸が飛び出して、男の体に巻き付いた。
関節部分も極められた状態で糸が巻き付いたため、もう男は身動きができなくなってしまった。
糸は火でできてるため、男の体には文字通り全身を刺すような激痛が走っているのだろう。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!?熱いっ、熱い!?痛いっ、助けてっ!?」
「うるさい。」
口の部分に何重にも重なった糸が巻き付き、男は声が出せなくなった。
「さて、静かになったね。
あと残りは、…一人どこ行ったの?」
シズクの目に映ったのは、杖をこちらに向けて魔法を撃とうとしている二人の男だけだった。
もう一人いたはずの剣を持ったリーダー格の男の姿がない。
「後ろだよ!このクソガキが!」
仲間の一人がやられている間にその男はシズクの後ろに回っていたのか、シズクが剣を振り下ろそうとする。
「いや遅いから。」
ガキンっ!
レオの振った剣がその剣を切り落とした。
その剣は魔力が大量に込められているせいか、少し白く輝いていた。
「なんだと!?この剣にはミスリルも少し入ってるんだぞ!?
なんで、ただの鉄の剣に切られるんだよ!?」
「修行不足の自分が悪い。
死ぬまで反省してろ。」
レオの剣が男の四肢の筋肉を切り裂いた。
男はかなり高価な回復魔法使わない限り、剣を振ることはできないだろう。
「っ、あぁぁぁぁー!?」
「「ファイヤーランス!」」
リーダー格の男がやられて焦ったのか、二人が同じ魔法をこちらに向かって放ってきた。
「水属性魔法 ウォーターランス。」
シズクが火属性魔法で男を捕えながら、水属性の魔法で迎撃する。
撃ち落とせなかったもう片方をレオの剣が切り裂いた。
「どういうことだよ!?なんで火属性の魔法を使いながら、水属性の魔法が使える!?
二つの同じ属性の魔法を同時に使うのでもできるやつは少ないのにおかしいだろっ!?」
「それだけじゃねぇよ!剣で魔法を斬られたぞ!?
そっちの方がおかしいだろ!?」
戦意を喪失したのか、男達の手から杖が落ちる。
よく見なくても、男達の体は震えているのがわかる。
「はーい、おしまい。」
池からこれまた大量の糸が飛び出して二人を拘束していく。
二人の悲鳴が大きく響いたが、それも数秒後には消えた。
それは戦闘が始まって、5分も経たない内に起こった惨劇だった。
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