第52話:混乱混乱大混乱
「……」
「……」
ひたすら無言のときが続く。
それを僕はじっと耐えていた。
詩遠が答えを出すまで、僕に出来るのはただじっと待つことだけだとおもうから。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………」
……ちょっと、長すぎやしませんか?
さっきから詩遠ピクリとも動かないし。
「し、詩遠?」
「……夢」
「はい?」
「きっとこれは夢、こんな都合のいい展開、夢でしか有り得ない……、ああ、でももうすこしこの幸せな時間に浸っていたいかも……」
「もしもーし、詩遠さーん?」
どうやら詩遠はかなり混乱してるみたい。
まあ、いきなりお隣さんから求婚されたらそれで混乱しないって言うのも無理は無い……のかな?
「詩遠、これは夢じゃないよ」
「え、え、でも……」
「夢かどうかって、痛覚があるかないかで判別できるんじゃなかったっけ? ほら、よくほっぺたつねったりしてるじゃない」
「それだ!」
良かった、これで詩遠もこれが夢じゃないって気が付いてくれるはず――――というのは、ちょっと甘い考えだった。
次の瞬間、いきなり僕の目の前にいた詩遠の姿が消えた。
「え?」
次の瞬間、僕は理解した。
詩遠の姿が消えたのは、詩遠が一瞬で僕の懐にもぐりこんだからで。
何故詩遠が僕の懐にもぐりこんだかといえば、強烈なアッパーカットを叩き込むためであり。
気が付いたときには既に僕はアスファルトの上に倒れこんでいた。
ああ、目の中に星が見える……。
「ってなんで……、アッパー……」
「ああ、やっぱり痛くない! これは夢なんだー!」
「……」
詩遠……痛みを与えるなら自分にしないと意味が無い……。
「あれ、ちょっと誠一? せーいちー!」
……がくり。




