47. さよならは命がけ
主人公に攻撃性能がない時の戦闘の書きにくさ……予想外でした。
極低温の吹雪が、今までにない速度と威力でもってアウルに放たれた。
突然の出来事に反応が遅れるアウル。
俺はアイズの目を見た際、アウルが使った代替詠唱に対するあこがれや、それを使われた悔しさのようなものをみとめ、アイズの行動が透けて見えたので、すぐに連携がとれた。
だが、残り二人、コリスとアウルには意外だったようだ。
コリスは後ろに跳んで威力圏内からぎりぎり脱出。
しかし、アウルの方は鉄壁の防御があるため油断していたのか、自分の魔法を信じていたのか、回避ではなく黒い炎で防御した。
吹雪はアウルのまとった炎に炸裂し、あたりは真っ白な雪に包まれる。自分の足元も見えなくなるような状態だ。
「コリス!!」
俺はコリスの名前を呼んだ。
アイズでもあそこまで俺と息を合わせられるのだ。
俺がコリスの名前を呼んだだけで、彼女はすぐに俺の意図した事を理解したらしい。ああ、と不機嫌で小さな返事が聞こえた。
「戦うにしても、万全の状態で臨めばいいだろう!」
俺の声に迷うような間があった後、俺たちの方に走ってくる足音が聞こえる。
「逃げるぞ!!」
「おう!」
俺と一番遠くにいたアイズが先頭に、後を確認しながらその次を俺が、そしてコリスが最後に逃走を始めた。
俺は木々の根の這うでこぼこな地面に気を取られつつ全力で走りながらも、たびたび後を振り返る。
追撃があれば知らせ、最後尾のコリスが狙われれば最悪身をもって盾になるつもりだ。また、アウル自身がどうなっているのかも気になる。
そう思って何度も振り返ったころ、木々の間からアウルの姿が見えた。
「!!?」
アウルは氷漬けになっていた。
驚いてアイズを見ると、このバカも振り返って俺の方を見てへらへら笑いながら言った。
『永遠永久風雪波動!』
『あの男の魔法ごと!』
『氷漬けにした!!』
「どうでもいいが『』どうやって発音してるんだ!?」
なぜかノリで変な能力を発現しそうになってるバカを無視して、俺は再びアウルの方を振り返る。
どうやら魔法にぶつけても相殺されるとわかったアイズは、本当に『周りの空間ごと』アウルを凍らせたようである。
それは空気を凍らせたのかそれとも空間という概念に彼のチートが干渉したのかは分からないが、何とか足止めは出来たようだ。
ただ、この状況を見てなお、俺が足止めなどと言っているのは、氷がどういう訳だか少しずつひび割れて言っているためだった。
「馬鹿な!! あいつの周りは俺の魔法で時間凍結したはずなのに!!?」
そしてバカの一言であの魔法が予想以上にやばいものだという事が判明した。
「言ってる場合か! とにかく走れ!!」
俺は考えるのを放棄して逃走をうながした。
その声とかぶるように、背後で氷が砕け散る破砕音が響く。
「思ったより持ったな」
コリスはその時にはすでに俺の横にいた。
どうやら視界が開けてすぐにほうきに乗ったらしく、俺の横に浮かんでいる。
「コリ――!!」
俺がコリスに話しかけようとした瞬間、それは起こった。
「中遠距離はアウルの間合いだよ、キョーイチ」
幾何学模様の魔法陣。
直径十数メートル程のそれは、俺たちの三人の足元に広がっていた。
「召喚術式だ」
コリスはそう言うとほうきに乗ったまま、手に持った大鎌を地面に突き立てる。
水たまりに石を投げ入れたみたいに魔法陣が歪むも、すぐに元に戻った。
「私が阻害する速度より、奴が術式を組み立てる速度の方が早いか……」
そう言うや否や、コリスは俺たちとは違う方向へと向かう。
そして地面の魔法陣はそれを追尾するかのように俺たちから離れていった。
「クソ、アイズ、ロティたちと先に合流してくれ!!」
アイズははじめ迷うようなそぶりを見せたが、自分のMPの状態や相手の強さを考慮したのか、それとも単に怖かったのか、文句も言わずにしたがってくれた.
「待てコリス!!」
俺は無理を押してコリスを追った。
コリスが俺に気づいて飛び立つ寸前、何とかそのほうきの端っこをつかんだ。
「放せ!!」
「放すか馬鹿! まだ説教一つしてねぇんだよこっちは!!」
珍しく大声でキレる俺に驚いて二の句が継げなくなったコリスは、驚いた表情で呆然とこちらを見ていた。
「……死ぬぞ、お前」
「俺にそれを言うのか?」
精一杯余裕たっぷりに、皮肉気に笑う俺を見て、コリスは思い出したようにつぶやいた。
「そうだったな。そうだった。だから、キョーイチは、私と一緒に居れるんだよな」
感慨とも呆れともとれるその一言に、一体どんな意味が込められていたのかは俺には分からなかった。
「ありがとう」
だから、こんなセリフがどういう経緯でコリスの口から出たのか、理解できるはずない。
気がつけば俺たちはアウルの目の前に召喚されていた。
アウルはすでに攻撃用の詠唱も終わらせているようで、銀の刃が今までにない数、切っ先を俺たちに向けて滞空していた。
「さよならだ、キョーイチ」
瞬間、すべてを悟ったような幸せそうな笑顔が、黒い炎に塗りつぶされた。




