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24. えせ科学は命がけ

天空城がどうやって空に浮いているのだろうという、至極まっとうな疑問に頭を抱えながら、俺はその大地に降り立った。

踏みしめた地面は土ではなく、砂利と苔むした岩盤で出来ている。

草木も眠る丑三つ時などという言葉があるが、真昼間からここには生物の気配というものがない。


周囲にあるのはせいぜいが苔とシダっぽい植物ぐらいで、動物はおろか木の一本も存在しない。目の前にそびえたつ遺跡のような建物にも、端々に苔がこびりついている。


その割に乾燥している気がするので、こいつらは雲の中に入った際に水分を取ってんのかね、と俺は何とはなしに思う。


「さっさと行くぞ。どうせオロチ以外の魔物なんていないだろう。一騎打ちだ」


コリスはまだ機嫌が悪いのか、俺がアルダとソーイチにした行動確認のお返しなのか、俺が数に入らないかのようにそう言った。


俺たちは遺跡の中に入った。城と言うか建物と言うか――神殿にも似たそれは、入ってすぐのところが大きな柱廊になっていた。道はたまに曲がっていて奥が見えない。

ところどころの柱が折れたり傷ついたりしていて、オロチを追い込んだアルダ達の苦労がうかがえる。


「オロチが来たらどうするんだ?」

「キョーイチがおとりになってる間に私がぶっ放す」

「まあ、そうだわな」

「今度こそキョーイチごとな!」

「……勝手にしやがれ」


作戦会議とすら言えない会話が終わる頃には、大きな広間に出る。


「ここに人が来るのも久しいな……」


低くわだかまる、淀んだ雨水のような声が俺の耳に届いた。

そこにオロチはいた。ボスの魔物には話せる奴がいると聞いた覚えがあるが、俺は初めて見た。


柱廊の柱を三本くらいまとめたような太さの胴は、とぐろを巻いていて、もはや長さを予測する事も出来ない。

鈍色の鱗は噂通り堅そうで、チロチロと舌を出している。

……こんな舌でどうやって言葉を発音しているのだろうか?


「私は人間ではない。魔女だ」

「それを言うなら、俺は勇者かね」


いくらやられてもゲームの中の勇者みたく、『リスタート』で復活するからね。


「ならば我は……何だろう?」


オロチが自分の存在について哲学を始めた!?


「我魔王? そうなのだろうか、どうだろう?」

「知るかこのやろ、勝手にしろよ!」


ボケとツッコミで五七五七七やってる場合じゃねぇんだよ!


「いやすまん。誰も来んので暇すぎてな」


オロチはその金の瞳をひと際鋭くさせて、言った。


「それで、勇者と魔女がここに何をしに来た?」

「ちょっくら“知悉の特赦”を頂きに」

「ほう、それで我にどうしろと?」


“探査の実”は明らかにこいつを指している。つまり、こいつを倒すと“知悉の恩典”がドロップする事になっているのだろう。

つまり、先ほどから俺しか話していないのは、


「ちょっと俺と心中してくれよな!」


コリスが強力な魔法を詠唱していたからだ。

コリスの手から、今までにない程強烈で鮮烈な、紫電の輝きがほとばしる。

それは間違いなくオロチに直撃し、低い叫び声が辺りに響いた。視界を黒煙が塗りつぶす。


オロチが油断していたのは、俺が目の前にいたからだ。まさか仲間ごとコリスが魔法をぶっ放すとは思うまい。

コリス機嫌悪いしドSだし、何より『リスタート』で俺は何度でも蘇るんだよ!

……やがて第二第三の俺がどうのとか言うと、魔王みたいだな俺。


俺が一人で漫才している間にも、一撃目で起こった黒煙に向かって、二撃目三撃目を連続で放つコリス。

一撃目には劣るが、それでも今まで雑魚に放っていたものより大きい。

余りの威力に、人間では痛みを感じる前に体が木っ端みじんになって絶命するようだ。実際に食らって死んだ俺が言うんだから間違いない。

……二撃目三撃目も俺ごといきやがったからねコリス。


その後も怒涛の勢いで連打するコリスだったが、突然黒煙の向こうから紫色の液体が吹きかけられてきた。

コリスは華麗にかわし、俺は浴びて絶命する。

……猛毒だこれ。


その間にも黒煙が晴れ、中からほとんど無傷のオロチが現れた。


「なん……だと……!?」


さすがのコリスも驚きを隠せないようで、絶賛逆境ワードをつぶいていらっしゃる。


「超電導、という現象を知っているか?」


声からしてオロチは余裕の笑みを浮かべているようだ。蛇の表情なんてよくわからんが。


「電気抵抗が零になる現象なのだが、我の鱗は超電導を行う物質で出来ている」

「……つまり?」

「雷などいくら放ったところで、体の表面だけを走らせ地面に受け流す事は容易だ」


……クソ、「小説家になろう」で万能扱いされてる“古武術(笑)”みたいなえせ科学ボディしやがって!

文系の俺には何言われてんのか半分も分かんねぇよ!?


そして後日、俺が一応博士に聞いたところ、


「いや、超伝導は一般的に“金属が極低温に冷やされた際に電気抵抗が零になる”現象であって、常温では起こらないよ?」


と全否定された。

どうやら、あいつの体もダークマターで出来ているらしい。俺がそう思って呆れていると何を勘違いしたのか、博士がこう言った。


「常温で超伝導を起こす物質がそんなに欲しいなら、作ってみようか?」


……ああ、ダークマターも精製可能ですか博士。


えせ科学は命がけ。

……主に文系の作者自身がな!!


とはいえ、今回は一応ウラ取ってあります。比較的高温で超伝導を起こす“高温超電導”という現象もありますが、まだマイナス数十度の域を出ていなかったはず。


2012.11.25付記

青ピ的な何かさんより、高温超電導だけでなく、室温超電導と言う現象がある事を指摘していただきました。

常温でも超電導を起こす素材というものが仮説として存在するというご指摘でした。これは未発見ではありますが、存在しないという科学的根拠があるわけではないとの事ですので、念のため付記しておきます。

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