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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第96話 キーン進級す。軍学校2号生徒

誤字報告ありがとうございます。


 キーン自身は、トーマ軍総長がキーンのことをいろいろ考えていることとはつゆ知らず、新兵たちのことで頭を抱えていた。


 結局ボルタ曹長が付きっきりで新兵たちの面倒をここ数日見たのだが、号令に対する動きも依然緩慢(かんまん)で、行進もまだまだだ。試しに一度駆足させたところ、1周2キロの駐屯地の内側コースを完走できないものが続出した。それと正反対に、ケイジ兵曹に訓練を任せた古参兵たちははたから見ても見事な隊列を組んで行進し、駆足し、そして長槍の横列を作って力強く押していく。



 期末休暇最後の日の訓練が終わり、キーンはボルタ曹長と帰り際の雑談をしていた。明日は軍学校で入学式があるので、キーンは自宅に帰りそれから寮に戻ることになる。


「明日は軍学校の入学式があるので、こっちに来られるのは昼からになります」


「小隊長殿、これまで隊に配属されてきた新兵は新兵の教育用駐屯地で基本をたたき込まれてきていましたから、苦労なく隊になじませることができましたが、新兵の教育がこれほど大変なことだとは思いもよりませんでした」


 とうとうボルタ曹長も弱音をき始めた。


「こうなったら、古参兵たちには申し訳ないけど、新兵たちを各分隊に突っ込んでみますか? 古参兵の間に入っていれば新兵も少しは緊張するし、やる気を出すかもしれませんし。当面は今のままの5分隊で各分隊に4名ずつ割り振りましょう」


「明日の訓練からそのようにします。訓練内容は古参兵の訓練内容でいきますか?」


「さすがにそれは厳しいので、行進のときだけかな。あとは古参兵と新兵を分けて今まで通りで」


「了解しました」


「それじゃあ、また明日」


「失礼します」



 自宅に帰ったキーンはシャワーを浴びた後、すぐに夕食を食べ終えて、


「アイヴィー、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 寮に向かって駆けていった。




 キーンが寮に戻ると、ちょうどソニアが玄関口にいた。


「あら、キーンくん、お帰りなさい」


「ソニア、ただいま」


「私はこれからシャワーだから30分くらいしたら食堂にきてよ。休みの間のことを聞かせて」


「大した話はないけれど、いいよ」



 部屋に戻ったキーンは普段着に着替えたあと、荷物を片付けて早めに食堂に下りていった。食堂には誰もいなかったので、椅子に座ってソニアを待っていたら、間もなくソニアが食堂に現れた。


 キーンの向かいにいつものように座ったソニアが、


「それで、キーンくんは休みの間何してたの?」


「休みの間は、朝から訓練場に行って小隊をみてた」


「えーと、それだけ?」


「うん。朝からいつものように4時くらいまでみてた」


「お友達とはデートしなかったの?」


「クリスにはことわって、訓練を見てたから遊びにはいかなかった」


「キーンくん、お友達は大事にしなくちゃだめなのよ。兵隊の訓練はキーンくんがいなくてもできるんじゃないの?」


「そう言われればその通りなんだけどね。やっぱり気になるから」


「キーンくんは、真面目よね」


 そんな話をしていたら、寮生たちが少しずつ食堂に集まってきた。


「よう、キーン。久しぶり」


 トーマスもやってきた。


「休みの間どうだった?」


 トーマスもソニアと同じようなことを聞いてきたので、今度は小隊に新兵が20人ほど配属されて純増になり総員70名の増強小隊になったことと、配属されてきた新兵が大変なことを話しておいた。



「キーンも苦労してるんだなー。しかし、右と左の区別がつかないようじゃ、号令も何もできないものな」


「その辺りうまい方法がないか考えてるんだけど、あまりに初歩的なところはかえって教えるのが難しいってよくわかったよ」


「確かに、そういうこともあるんだろうな」


「本当は新兵教育用の駐屯地があるらしいんだけど、こんどの新兵たちはそこに行かず直接うちの小隊に来てるんだ」


「小隊ができた時は問題兵だとか言っていたけど、今度は問題新兵か。なにか上の方で考えがあるのかもな」


「とてもそうは思えないけれど、例えばどんなことが考えられる?」


「そーだなー。キーンはとんでもない魔術を使うし大剣もいわば達人だ。新兵たちには今までの常識にとらわれない兵隊になってもらおうと上層部が考えてるかもな」


 トーマスの言葉に3人を囲んだ他の寮生たちも頷いているのだが、


「なるほど。常識にとらわれない新兵か。でも、常識にとらわれないことはいいことかもしれないけれど、常識がないのは問題じゃないかい?」


「そりゃ、キーンの言う通りだ、アハハハ」


「トーマス、あなたも真面目に考えてあげなさいよ」


「ソニア、そうは言っても、実際配属された兵隊が文字通り右も左も分からない新兵だと、俺たちじゃあどうしようもないと思うぞ」


「確かに、そうね。キーンくんなら何とかできるかも知れないけれど、普通の小隊長だと小隊そのものがガタガタになっちゃいそうだものね」


「新兵も古参兵と一緒ならある程度緊張していい影響もあるんじゃないかと思って、明日から行進だけは新兵と古参兵で一緒に訓練することにしたんだよ。やってみてダメならまた何か考えるけどね」


「なるほど。うまくいくといいな。

 それはそうと明日の入学式。今度の新入生は2クラスで80人、どんな連中が入ってくるのかなー?」


「私たちもそうだったけれど前の1号生徒の使っていた寮に今日から入寮してたわよ。荷物を持った保護者と一緒だったからすぐわかったわ。

 当たり前だけど見た感じは普通。一応試験を合格して入学してくるわけだから私たちとそんなに変わらないと思うわよ。キーンくんのような生徒はいないでしょうけど」


「それはそうだ。キーンがもう一人いたら、俺たちが将官になるころにはサルダナは超大国になっている。

 話は戻るけど増強小隊(・・)とは珍しいな。普通は中隊を何個か増やした増強連隊や増強大隊だものな。まあ、キーンの小隊は中隊に属さないそうだから、そのうちもっと人員が増えて2個小隊相当くらいにはなりそうだな」


「そうね、いまの新兵たちの訓練がうまくいくようだと、結局4個小隊並みの小隊・・になってしまうかもよ」


「小隊長でも実質中隊長か。いきなり知らない部下ばかりの中隊長じゃあ難しいかもしれないけれど、キーンの場合、自分の育てた兵隊たちが中心になるなら何とかなりそうだものな。だとすると来年あたりそうなりそうだ」


「僕としてはそんなことより、ちゃんと新兵教育を終えた新兵が欲しいんだけど」





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