第95話 幕間(まくあい)、鎧装デクスフェロ2、ロス男爵
今から8年ほど前。ダレン王国の王都ゴラブールの新市街に屋敷を構えるロス男爵家において双子の姉弟が生れ、姉をジェーン、弟はジョンと名付けられた。ロス男爵夫妻にとっての最初の子どもである。
ロス家は男爵位は賜っていたが、公職に就いているわけでもそのほかの生業もなく、年金のみで生活していたため、決して裕福ではなかった。ロス男爵夫人は双子を生んだ後肥立ちが悪く、1年間療養したが、結局帰らぬ人となった。ロス男爵は夫人の看病中は人を雇っていたが、夫人の亡き後は男手一つで二人の子を育て今に至っている。
そんな中で、ロス家の主筋に当たる侯爵家より、双子の姉弟の身長、体重などについて問い合わせがあった。何の説明もない問い合わせを不審に思いながらもそれに答えたところ、数日後、二人を連れて王宮へ赴くよう指示された。
どういった用件かは侯爵家から一言も告げられなかったが、断るわけにもいかずロス男爵は二人の子を連れて指定された日時に王宮を訪れた。昨年新市街と王宮のある旧市街をつなぐ橋が3本とも崩落しているため、やや不安定な仮設橋を渡ってのことだ。
王宮を訪れ門衛に来意を告げたところ、王宮の敷地内に建てられた禁軍の事務棟に案内された。
案内された事務棟の玄関に入ると、そこからは係の者に控室のような部屋に案内された。
ジェーンとジョンの姉弟と背格好の似た子供を連れた父親らしき者が10名ほどその部屋にいた。
ロス男爵は二人の子どもと部屋の隅でしばらく待っていたところ、係の者に名まえを呼ばれた者が子どもと一緒に出ていき、そのまま部屋には帰ってこなかった。その後も何組かの親子が呼び出され誰もその部屋に帰ってこなかった。用件が済めばそのまま退出できるようだ。
ロス男爵は、しばらく誰とも会話することなく自分の名まえが呼ばれるのを待っていたところ、ようやく係の者に名前を呼ばれ、その者に姉弟と一緒に別室に案内された。
部屋に入ると、子どもたちを下の下着だけにするよう言われた。訝しくもあるが、言われるまま二人を下着姿にしたところ、二人の体重と身長を計られた。その後医官と思われる壮年の男性が二人の目や舌を確認した後、体の各所を触って診ていた。医官の検診?が終わったところで着衣が許され、その後は担当官の簡単な質問に子ども二人が答えてその日は終了した。
3日後、禁軍将軍名でロス男爵宛てに王宮に隣接する禁軍駐屯地内の禁軍本営にジェーンとジョンの姉弟を連れてくるよう手紙が送られてきた。その際下着を含め姉弟の一週間分の着替えを持参するように指示された。
禁軍本営にわが子二人とともに訪れたロス男爵に対し、禁軍の武官らしき人物から、二人の子は王国として預かるので心配はいらない。『子どもと荷物だけおいてお帰り願う。悪いようにはしない』と言われ追い返されてしまった。
ロス男爵はその日以来二人に会うことはできなかった。
何度か禁軍本営を訪れ子どもを返してくれと訴えたが、『国王陛下の命令で二人は国のために励んでいる』と言われ追い返された。主筋の侯爵からも悪いようにはしないから二人のことは諦めるように諭された。
後日、ロス男爵は子爵に陞爵したが恒例の陞爵式は開かれてはいない。
昨年の9月危機後、サルダナ軍本営に設けられた対外部にダレンの王都ゴラブールに派遣していた現地活動員からの情報が連絡員経由で届けられた。
内容は『ダレン軍禁軍駐屯地内で非常に大きな幔幕が張られそこで特別なことを行っているらしい。詳細は不明』という情報だった。
コネリー対外部部長から軍総長トーマ大将に届けられた報告書には、ゴラブールからの原情報と一緒に、
『ダレンのアーティファクト、デクスフェロを禁軍構内で動かしているのではないか』と注意事項として書き加えられていた。
――デクスフェロか。私は戦場でまみえたことはないがダレンを大国ならしめている軍事アーティファクトと聞く。噂では巨大なゴーレム戦士だとか。
「無理をしない範囲で、さらに詳しく活動員に探らせてくれ」と、トーマ大将はコネリー対外部部長に指示を出した。
――ダレンから軍事アーティファクトが戦場に出てくるとなると、アービス少尉の強化による光の騎兵隊でも太刀打ちはできまい。となるとこちらはアイヴィー殿頼みか。大賢者アービス殿が亡くなった今、アイヴィー殿をこの国に繋ぎとめているのはアービス少尉。彼のこの国での比重がますます重くなる。これが彼にとっていいことなのか悪いことなのかは分からないが、少なくとも子どもを戦場には出したくはないな。
――セカール近衛兵団長によると、アービス小隊には今月から2分隊相当20名増員して増強小隊としたと聞いている。小隊などと子どもの遊びのようなことをさせなくても、連隊長ぐらいにしてしまえばいいものを。まあ、今年で14歳?になる子どもが連隊長では下の者がやりにくくはあるか。いずれにせよキーン少尉はセカール中将に任せているのだから、外からとやかくは言うまい。
――昨年はダレンの刺客がアービス少尉を何度か襲撃したが簡単に撃退している。ダレンがアービス少尉のことを注目するのはあたりまえか。一時は護衛をつけようかと考えたが、聞けばアービス少尉は魔術の天才ではあるが大剣の達人でもあるという。へたな護衛は逆に足手まといだしな。
――ダレンに派遣中の活動員の報告だと、昨年ダレンの都で大橋が3本全て崩落したが、自らをキーン・アービスの従者アイヴィーと名乗る者がアービス少尉への襲撃の報復だと言って橋を破壊したのだそうだ。アイヴィー殿を気安く使うなどと考えない方が良さそうだ。これも、対外部を作っていた賜物だな。
登場人物にいろいろ名まえが付いていますが、一番多い名前が、作者がなんとなくつけたもので特に意味がないもの。
この作品が完結したら、完結部のあとがきにジョン・ロス、ジェーン・ロスなど由来のある名前の一覧表のような物を付けておこうと思っています。




