第92話 アービス増強小隊1、考課表
ボルタ曹長に手渡された考課表が綴じられた紙ばさみを落とさないようしっかり脇に挟んで、キーンはブラックビューティーに乗って訓練場を後にした。
寮に帰り、いつも通りシャワーを浴びて食事をとり、さっそく自室の机に座って考課表を開いてみると、最初にボルタ曹長のメモが挟んであり、考課表の点数の付け方が書いてあった。最高点は100点で、兵隊たちの平均は70点、分隊長以上の平均点は75点になるよう採点するようにとのことだった。
メモの下の最初のページにはボルタ曹長と5人の分隊長たちの名まえが載っていた。そのページにはもちろんそれ以外の記入はされていない。
次のページには兵隊たちの名まえが並んでおり、名まえの横に点数がふられていた。さらに点数の横には備考欄があり、全員の備考欄にきっちりした文字で本人の長所が書かれていた。読んでみると『そういえば』というふうにキーンも納得できる内容だった。しかも本人に不利になるようなことは、どこの誰にも書かれていなかった。
キーンから見てボルタ曹長は兵隊たちに対してかなり厳しい人物だと勝手に思っていたのだが、実際はそんなことはなく、兵隊たちの長所を見つける立派な下士官だったのだと納得した。
ボルタ曹長の兵隊たちに対する考課を参考にキーンも効果を記入していくことにした。
「最初はボルタ曹長か。考課表の点数の上限は100点なら、当然100点だよな。備考は『小隊の要として兵の指導に当たっており非常に助けられている』こんなものかな」
「つぎはケイジ兵曹か、ボルタ曹長がかなり買っているようだから、5点差をつけて95点、備考は『責任感も強く下士官兵に慕われている』。これでいいな」
そんな感じで記入していたら、平均点が90点近くになってしまった。
「平均点を75点しろということだったけれど、ならない事だってあるし、15点くらいなら大した差じゃないよね」
とか言って自分で納得してしまった。最後にページの一番上の小隊長のサイン欄にサインして、考課表の入った紙ばさみを閉じた。なんだかすごい仕事をしたような気持になったキーンはそのままベッドに入り消灯前にぐっすり眠ってしまった。
翌日、いつものように午後から訓練場に行ったキーンが、ボルタ曹長に考課表ができ上ったと告げて紙ばさみを見せたところ、
「訓練はケイジ兵曹に任せますから、考課表を人事に届けに参りましょう」
そういうことなので、キーンは昨夜書き込んだアービス小隊の考課表を持ってボルタ曹長の案内で近衛兵団本営の事務部門の入る大部屋に入っていった。宮殿内には人事関連と総務部門が入っており、兵団の資材・武器調達を受け持つ経理部門は宮殿から少し離れた別棟に入っている。
人事担当者にキーンが人事表の入った紙ばさみを渡して部屋から出ていこうとしたら、セカール近衛兵団長が部屋の中に入ってくるところにちょうど出くわした。
「アービス少尉、頑張っているようだな」
「はい」
「来月になると新人兵士が近衛兵団にもやってくる」
「はい」
「そこでだ、いま50名のアービス小隊にも新人を配属しようと思っている」
「それでは、今の兵士が転出するわけですか?」
「いや、今の連中はそのままでアービス小隊は純増だな」
「純増?」
「新人兵士20名ほど面倒を見てくれ。アービス小隊は都合70名の増強小隊となるわけだ。しっかり鍛えてやってくれ。よろしく頼む」
アービス小隊は増強小隊となるようだ。軍自体も軍学校もこの4月からかなりの増強が行われるという話だったのでその一環なのだろうと思うと、自分の小隊もサルダナ軍の中での役割をしっかり果たさなければとキーンは決意を新たにした。
訓練場に帰る道すがら、ボルタ曹長がキーンに向かって、
「通常、新人兵士はひとところに集められて訓練するのですが、それが直接うちに配属されるということは新人訓練をわれわれに任せたということです。各部隊が押し付けた問題児がアービス小隊で今ではいっぱし以上の兵士に育っている。それが認められたということでしょう。それと、今でも他部隊とはかなり異なった訓練をしていますがそれも兵団長に認められているということです。
小隊長殿、わがアービス小隊は近衛兵団の中で特殊な位置でしたが、さらに特殊な部隊になるようですな。兵団長の小隊への期待がうかがえます」
ボルタ曹長に言わせればどんなことでもよい方に取るのだが、キーンもボルタ曹長からそう言われればそんな気持ちになってしまう。二人はいいコンビではある。
「小隊長殿、まだ先の話ですが、第1分隊と第2分隊から各1名出して新兵の第6と第7分隊長にしますか?」
「新兵が慣れるまでは20人纏めておきましょう」
「でしたら、新兵の面倒は自分が見て、古参兵たちはケイジ兵曹に任せておけば大丈夫と思います」
「そうですね。新兵たちが他の兵たちと同じ訓練についてこられるようになれば、今の5つの分隊を一度バラバラにして、新人を含んで新しく2人分隊長に昇格させて、7つ分隊を作るか、分隊数は今のままで、分隊の人数を今の10人から14人にするか。様子を見て決めましょう」
「了解しました」
キーンたちが訓練場に戻ると、小隊は槍の訓練を始めたところだった。もちろん昨日と比べ見違えるほど進歩しているということはないが、雰囲気が昨日と違う。
「ボルタ曹長、今日はいつもと違うような気がするんだけど?」
「小隊長、お分かりでしたか。昨日の小隊長の大剣と魔術を見た兵隊たちのやる気が一気に増したようです。この小隊長のもとで恥ずかしいことはできないと言っている者もおりました」
そこまで言ってくれる兵隊がいてくれたことを知ったキーンはかなり嬉しくなってしまった。同時に小隊長として兵隊たちにできることはやっていこう、と決意を新たにした。




