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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第87話 キーンとアービス小隊、土手のかさ上げをする。


 馬車が現場に到着し、ヒルマン大佐とキーンが降りしきる雨のなか馬車から降りて各々マントを羽織っていたら二人が乗ってきた馬車はそのまま帰っていった。


 待ち構えていた兵士のうちの一人に大佐がキーンの小隊のことを告げたらしく、その兵士は王都の市街地方面に駆けだしていった。



 キーンが土手に近寄って観察したところ、近衛の兵隊たちは雨の中カンテラの光を頼りに3メートルほどの高さのある土手の下で土嚢どのうに土を入れる者と、モッコに土を入れる者がおり、土嚢は袋が土で一杯になると、兵士はそのまま担いで土手の上まで運び、土手の上面の河側と手前側にそれぞれ50センチの高さぐらいになるよう積み重ねていた。土を盛ったモッコの方は二人がかりで担ぎ棒で担いで土手の上まで運び上げ、二列に積まれた土嚢の間に、その土を空けていた。



 土手の下には杖を持った兵士がところどころに立っていたが、彼らは魔術兵なのだろう。彼らは兵士たちが容易に土嚢やモッコに土を入れられるように固い地面を魔術で掘り起こしていた。


 だいたいの作業を確認したキーンは、作業方法自体は馬車の中で既に考えていたので、ヒルマン大佐に向かって、


「今みんなが作業している端の方から上流に向かって土を盛っていきます」


「アービス少尉、私も一緒に行こう」


 二人は邪魔じゃまにならないよう土手の下を歩いていった。歩きながらキーンは自分を強化したので暗がりの中、派手に光っている。もちろんヒルマン大佐も光の騎馬隊の話は聞いていたので、これがあの強化なのかと感心していた。


「カンテラの明かりだけだと暗いので、ライトの魔術で兵隊たちが作業している一帯を明るくしましょうか?」


「そんなことができるのならお願いしたいが、これから作業するのに魔力の方は大丈夫なのかね?」


「ええ、問題ありません。ライト!」


 キーンは兵隊たちが作業している全域にわたってライトを頭上10メートルほどの位置に作り出した。あたりが一斉にキーンの作り出したライトの明かりで煌々(こうこう)と照らし出された。もちろん作業していた兵隊たちは頭の上を見あげて驚いていたが、作業がしやすくなったことは事実なのでまた作業を再開した。


「アービス少尉。これはこれで凄いな。このライトの光はどのくらいもつんだね?」


「いちおう明日の朝まではもつと思います」


「そ、そうか。そうなんだ」


「おっしゃっていただければいつでも消せます」


「このまま朝まで照らしておいてくれて構わんよ」


 アービス少尉には何でもあるんだと、ヒルマン大佐は認識した。





 二人で土手の下をしばらく歩いていったところで、作業している兵士たちが途切れた。


「この辺りから始めます」


 一度土手の上にがったキーンが土手の下の適当な場所に向かって、


「ディッグアース」


 その言葉と一緒に、その場所が幅3メートル、深さ1メートル、底での幅が2メートル、長さ50メートルほど掘り下げられ、掘り取った形を上下ひっくり返した台形で土が穴の手前に積まれた。


「ムーブ」


 穴の脇に積まれた土がゆっくりと土手の上に向かって移動し、高さ1メートル20センチ、底面で幅3メートル半、上の部分の幅で2メートル、長さ50メートルに渡って土手に土が盛られた。


「コンプレス」


 その言葉で、膨らんで盛り上がった土がぎゅっと押し固められて元の大きさ、高さ1メートル、底辺3メートル、上部の幅2メートル、長さ50メートルに渡ってきれいに整形された土手ができ上がった。


「すごい。これがアービス少尉の力なのか。ライトだけでも驚かされたが本当に底が知れないな」


 先ほどのライトの魔術で、ヒルマン大佐はキーンには何でもあるんだと認識したつもりだったのだが、さらに先があった。



 キーンはその後、その盛り上がった部分の表面を意識して、


「強化600」と一言。


 30秒ほどで強化は完了し、盛り上がった部分の色が黒ずんだハズだが、暗い中での作業なのではっきりと変化は見て取れなかったものの、その表面は水をはじくように変化したようだ。


 でき上がりを確認したキーンは、


「よし。これなら大丈夫だ。今の一連の作業を、『盛り土(もりど)』という名まえで覚えておこう」


 キーンは今自分の作った盛り土の上に飛び乗って、河上側の端の方に歩きながら、土手の下を眺め、


「盛り土!」


 40秒ほどで次の50メートルの盛り土が完成した。新しくでき上った盛り土の上に移動しながら、


「さあ、どんどん行くぞ!」


「盛り土!」


「盛り土!」


 ……。


 6分ちょっとで、500メートルほどの盛り土が土手の上に完成してしまった。


 キーンの後からついて歩いているヒルマン大佐はただただ驚いている。


「アービス少尉、もう500メートルほどで作業の方は大丈夫だ」


「了解しました」


 ……。


 それからまた6分少々で作業が完了してしまった。


「それじゃあ、みんなの作業している方に戻ろう」



 二人で兵隊たちが作業している方向に歩きながら、


「しかし驚いた。15分もかからず1キロ余り土手がかさ上げされた。アービス少尉の噂は耳にしていたが、これほどまでとは」


「いちおう盛り土の部分の表面を少し変質させましたから、雨や河の水にもかなり強くなっていると思います」


「変質とは?」


「短時間で複数回『物』に対して強化をかけると、強化がすこし残留するようで、その結果、その『物』自体が変質するようです。それで、今かさ上げした部分の表面に対して600回ずつ強化の魔術をかけておきました」


「600回もかね。私では想像がつかないほどのものだな。噂など到底及ばない世界なのだということがよくわかった」




 近衛兵たちが作業しているところまで戻ってきたが、まだまだ続きそうだったので、


「こっちもお手伝いしましょうか?」


「河の水かさが今のところ落ち着いているようなので、こっちはこっちで間に合うから大丈夫だ。いちおう訓練にもなるしな」


「分かりました」


「アービス少尉はもう帰ってもらって構わないがどうする?」


「うちの小隊がそのうちやってくるでしょうから、待っています」


「そうか。それじゃあ私は兵士たちの作業を見回ってくるのでアービス少尉は自分の小隊の兵士たちがやってきたら、面倒を見てやってくれ」


 ヒルマン大佐はそう言って土手をのぼっていってしまった。




 キーンは小隊の面々がやってくるのを待つだけで、何もすることもなく土手の下で他の部隊の兵士たちの作業を眺めていたら、1キロほど王都の市街地に寄った方向が明るくなってきた。よく見ると、アービス小隊の面々が強化の光をまとってこっちに高速で駆けてきているところだった。


 先頭を走るのはボルタ曹長でその少し前を黒玉が浮かんで先導しているように見える。どうやら黒玉はパトロールミニオンと同じく、自分を創った者の位置が分かるようだ。


「小隊長殿、ご苦労さまです。小隊の初めての出動でしたし急いだほうが良さそうでしたので、黒玉殿に頼んで兵隊たちに強化をかけていただき、ここまで駆けてきました。いやー、この強化、すごいです。これなら、どこまでも走っていけます。これが小隊長殿の狙っていたところだと説明したらみんな納得していました。そのうち河の方が明るく見えたので、小隊長殿が活躍されてるなーと。思った通りのようです」


「ボルタ曹長もみんなもご苦労さま。みんなが納得してこれから訓練できるならそれに越したことはないけど、もっと早めに強化をかけて納得してもらえばよかった。

 それで、何をさせればいいかな?」


「そーですなー、……。

 ざっと見たところ、土嚢どのうの作業より、土嚢どのう土嚢どのうの間に土を盛る作業が遅れがちのようです。兵隊たちには兵舎の倉庫に残っていたスコップとモッコと担ぎ棒を持たせてここにきていますので、そのあたりなら手伝えるでしょう。

 そういうことだから、みんな力を入れ過ぎてスコップを壊さないよう気を付けて土手の下からモッコに土を入れて土手の上まで運ぶぞ!」


「「はい!」」



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