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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第83話 アービス小隊4、駆足と行進


 ボルタ 曹長が駐屯地の内周りを駆けている小隊の兵隊たちを眺めながら、


「小隊長殿、そういえばお昼はどうされました?」


「まだ食べてないけど、一食くらい平気だよ。ボルタ曹長は?」


「自分は軍学校にうかがう前、軽く食べてきました」


「それならよかった」


「まだ1周も終わっていないのに遅れ始めた連中が出てきました。少し気合きあいを入れてきます」


 ボルタ曹長が小隊の最後部を走る数人のところまで走っていった。


 ボルタ曹長がその連中に何か言った途端とたんに、駆けるスピードが上がったようで、何とか前を走る一団に追いついたが、100メートルも行かないうちからまた遅れ始めた。いったん見送ったボルタ曹長だが、すぐに遅れ始めた数人のところまで駆けていき、後ろ向きに伴走したりしながら大きな声で気合を入れたところ、またスピードが上がった。それからはその繰り返しだった。ボルタ曹長の方が走っている量も負担も多くなりそうな感じになってきた。



 兵隊たちが最初の1周、2キロを駆けるのに要した時間は15分程度だった。これだと1時間で8キロ。かなり遅い。


 目標の装備付きでの1日20キロの駆足ができるようになるには、相当時間がかかりそうだとキーンは覚悟した。


 結局、ボルタ曹長の叱咤と激励(きあいちゅうにゅう)で兵隊たちは脱落者を一人も出さずに5周10キロを完走はしたが、1時間30分ほどかかってしまった。ほとんどの者は途中で布製の訓練用の胴着を脱ぎ棄てている。訓練用の胴着は実戦時には革鎧の鎧下よろいしたになる。


「小隊長殿、申し訳ありません」


 あまりのふがいなさにボルタ曹長がキーンに謝った。ボルタ曹長は結局兵隊たちと一緒に最後まで走ったわけだが、こちらは息も切らせていなかった。


「小休止の後はいかがしますか?」


「夕食の時間まで、行進させてください。最初はとりあえず、みんなが揃って行進できるように。最終目標は、駆足と同じく装備を全て身に着けた状態で一糸乱れぬ行進ができるよう」


「良いですねー」


「夕方には僕は軍学校の寮に帰ります。明日からだいたい午後1時頃ここに顔を出します」


「了解しました。そろそろ小休止を終わらせ、行進を始めます。

 全隊整列!」


 ぐったりと地面に腰を下ろしていた兵隊たちが何とか立ち上がって整列した。もちろん無駄口をたたくような者はいない。無駄口をたたく余裕がなくなったともいえる。


「次は縦列行進だ。分隊ごとに縦列を作り5列縦隊で整列」


 ばらばらと兵隊たちが縦列で整列する。


「行進、始め!」


 兵隊たちが先ほど駆足をした駐屯地の内周を行進していく。ボルタ曹長は最初からこの行進についていき、兵隊たちに注意やカツを入れている。


 なんとなく揃っているような、いないような行進で、他の部隊の行進と比較すると明らかに見劣りする行進だ。それでもキーンが訓練場に最初に現れた時のようなだらけた雰囲気はすでにない。


 さすがに行進程度では遅れる者も出ず、しばらくキーンは行進の様子を見ていた。


――この人たちをこれから本当の意味で強くするためには、冒険小説の受け売りだけじゃ足りないよな。やはり本格的な訓練方法を考えないと。そもそもどういった部隊にしていくのか。漠然ばくぜんとどこにでも走っていく部隊を作ろう考えたけど、走っていった先で何をするのかは問題だ。


――前回もそうだったけれど、僕自身がまだ軍学校の生徒だから実際の戦闘に駆り出されることはあまりないかもしれない。ということは、兵隊は戦うことが仕事だけれど、戦うだけじゃなくて、どこかの守りが足りないときに駆けつけて陣地を作ることはありそうだし、物資が足りなければ、物資を持って急遽駆け付けることはあり得る。今のところは、そういった戦闘とは直接関係のない仕事を中心に考えた方が良いかもしれない。


――何も正面で殺し合うのが戦争じゃない。50人とはいえ強化した50人が大回りして敵の後方に現れたらどうだろう。戦闘を覚悟する必要があるだろうけど、敵の後方で大騒ぎを起こすだけで敵が崩れていきそうだ。

 僕が軍学校を卒業するまでの後2年とちょっと。その間に小隊の本当の意味で敵と戦う力を考えていけばいい。


 キーンが小隊の行進を遠くから眺めながら、あれこれ考えていたらだいぶ日が傾いてきた。そろそろ5時だ。この駐屯地の夕食の時間は知らないが、兵隊たちもシャワーに入るだろうから、そろそろ訓練は終わりにする必要がある。


 ボルタ曹長に手を振ると、曹長がキーンのもとに走ってきた。


「少尉殿いかがしました?」


「そろそろ、訓練を終えましょう」


「分かりました。

 おーい、アービス小隊、ここまで行進!」


 隊列が左折して、キーンの方に向かってきた。ちょうど目の前に来たところで、


「小隊! 止まれ! それでは、今日の訓練はここまでとする。小隊長殿に敬礼!」


 一応みんな揃って、キーンに敬礼をしたので、キーンも慌てて答礼した。


「それでは、解散!」


 兵隊たちが、だらだらと兵舎の方に歩いていった。見ていて何かだらしないのだが、ボルタ曹長も気付いているようなので、そこについては指摘しなかった。


「それでは、ボルタ曹長、僕は明日の13時頃ここに来ますから、よろしくお願いします」


「了解しました!」


「それと黒玉をよろしくお願いします。

 黒玉はボルタ曹長に付いてくれ」


 キーンの言葉で、黒玉はボルタ曹長の頭の上に移動していった。


「じゃあ」


「失礼します」




 キーンは馬立うまたてに繋いであったブラックビューティーにまたがって軍学校に帰っていった。黒玉をボルタ曹長のもとに置いていったのは、何かあった時のためと、黒玉をパトロールミニオンの代わりにして、訓練の様子を授業中に確認しようと思ったからである。もちろん、ボルタ曹長には、そういった説明はしていない。



 軍学校の厩舎に名残惜しそうなブラックビューティーを返して、キーンは寮に戻っていった。


 寮に戻ると、トーマスたちが待ち構えていて、また囲まれてしまった。玄関口では邪魔なので、まだ夕食の時間まで少し間があったが、みんなで食堂に移動した。


 いつも通りトーマスがみんなを代表して、


「で、どうだった?」


「うーん。まず、近衛兵団長のところに挨拶あいさつに行って辞令を貰って来た」


「うん、うん。それから?」


「辞令には、アービス小隊の小隊長を命じるとあった」


「うん、うん、うん? アービス小隊って部隊名に番号じゃなくキーンの名まえが付いてるのか?」


「うん、これがその辞令」


 キーンはポケットに突っ込んでいた辞令をみんなに見せてやった。


「すごい。今、兵団名でさえ名前付きなんてないのに、これは逆に大変かもしれないぞ」


「それは、ボルタ曹長って小隊の先任下士官の人に言われた」


「その人はどんな人?」


「そうだなー、できる兵士、軍人、そんな感じの人」


「いいなー。それでアービス小隊の兵隊たちはどうだった」


「ボルタ曹長の話だと、どうも他の部隊での問題児が僕の小隊に寄せ集められたんじゃないかって。確かに僕から見てもそんな感じだったし、兵団長からは辞令を渡される前に『最初のうちは苦労すると思う』とか言われた」


「期待されているはずのキーンの小隊が寄せ集め?」


「ボルタ曹長の考えだと、どうも近衛兵団長が新編部隊に部下を異動させる元部隊に対して意地悪をしたんじゃないかって。兵団長からは、部隊長たちに、新編の部隊を作るから人を出せとだけ指示したらしいよ」


「なるほど。それで、部隊長たちの人柄を量ったわけか。キーンはそれでどうするの?」


「兵隊たちを鍛え直して、立派な部隊にするつもりだよ」


「ほー」


 そんな話をしていたら、夕方6時の鐘が鳴り、夕食の時間となった。


「じゃあ僕は着替えてからすぐに戻ってくるよ」


 キーンはそう言っていったん食堂から出ていった。残った寮生たちはそのまま夕食のトレイを取って固まって夕食を始めた。真ん中(まんなか)の席がキーンの席として空いたままになっている。





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