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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第6章 キーンの冬期休暇

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第74話 キーン、ソニアと連れ立ち帰寮する。


 年末、年始をアイヴィーとソニアと過ごしたキーンは、翌日の始業式のため、簡単な荷物と『龍のアギト』を持って、その日の午後早くに家を出た。


「それじゃあ、アイヴィー、行ってきまーす」


「アイヴィーさん、いろいろありがとうございました」


「ソニアさんがうちのことを手伝ってくれて助かったわ。またいつでもうちに来てね」


「はい」



 ソニアと連れだってキーンは軍学校に帰っていく。キーンの頭の上1メートルほどに真っ黒い黒玉が浮いている。となりから見るとかなり奇妙なのだがどうせキーンは強化をかけるだろうと思っているソニアは、もう外見は気にしないでおこうと決めている。


「それじゃあ、ソニア、念のため強化10。

 僕にも強化10」


 二人が6色の光のうねりに包まれた。


 こうなってしまうと、黒玉は確かに目立たない。


 10倍強化の発光のおかげで自分自身が目立ってしまい、かなり奇妙な黒玉が目立たなくなっていることを素直に喜んでいるのはキーンだけである。


 道行く人たちに注目されるのは前回と同じだが、ソニアは慣れているわけではない。


「キーンくん。強化しているから、このまま走って寮に戻りましょうよ」


 目立ってしまったのは仕方ないので、世間への露出時間を短くしようというソニアの考えだ。


「いいよ。それじゃあ、よーい。ハイ!」


 特に競争するつもりはないが、二人そろって駆けだした。二人の走る速さは相当なものだったため、また路上の人たちから注目を浴びたが、すぐに目の前から走り去っていくので、ソニアの思惑おもわく通り露出時間はかなり短くなった。


 そのまま王都の郊外まで走り続け、二人は何事もなく軍学校の正門にたどり着いた。キーンの頭の上には当然黒玉がフワフワ漂っている。門の前で強化を解除したあと、門衛の警備員に挨拶あいさつして寮に向かって歩いていった。


「あっという間に学校にたどり着いちゃったけど、全然疲れていないし、あのままどこまでも走っていけそうだった」


「うん、このまま2、3日走り続けることができるかもしれないね」


「そこまで走り続けたら、靴も壊れてしまいそう」


「それはあるかも。この前の馬術の時間にサール大尉・・に聞いたんだけど、馬だと、蹄鉄ていてつがダメになると思ってこの前のバツーに行ったとき多めに蹄鉄を持っていってたんだって。そしたら、馬のひずめが強化されていたようで、蹄鉄が少しすり減ったところでそれ以上(いた)まずに済んだって」


「ということは、もしも強化して遠距離を移動する必要がある時は、裸足はだしで走っていくということになるのかしら?」


「そうすれば、少なくとも靴は傷まないだろうし、足もおそらく傷つかないから、ほんとうにその方がいいかもしれない」


「その考えを突き詰めると、真っ裸で走り回るってことになるわよ」


「そうかも。さすがにそれはできないから、何か丈夫な着るものが必要になるな」


「そんなものあるかしら?」


「今まで衣服に強化をかけたことがないけれど、うまくすれば強化できるかもしれない。ただ、硬くなってしまうだろうから着心地は最低になるかも?」


「それでも着ている人が強化中なら問題ないかもしれないわよ」


「確かにそうだね。今度試してみるよ」


 寮の玄関に着いて女子の部屋の並ぶ2階に階段を上がったところで、


「それじゃあ、キーンくんありがとう」


「どういたしまして」


 ソニアと別れたキーンは自室のある3階に上っていった。



 部屋に入って持ってきた荷物と『龍のアギト』を整理し終わったキーンは、さっそく先ほどソニアと話していた衣服の強化を試してみることにした。


『龍のアギト』や黒玉には6種全ての強化が有効だったと思うが、衣服に「速さ」や「知覚」を強化することに意味があるかと言えばはなはだ疑問だ。とはいえ特にそれらを省く必要もないので、今まで通り6種全ての『強化』を下着のシャツに試してみることにした。


 今後、自分自身の衣服だけでなく、近衛兵たちにも強化することを考えて、今回は有効な強化回数を計ることにしてキーンはシャツに対する強化を開始した。


「まずは、強化100から、いや、500からでいいか。

 強化500」


 目の前の白い下着のシャツに対して強化が500回連続して発動する。以前は連続強化は1000回当たり1分半程度かかったが、今回の500回は25秒ほどで終わった。100回当たり5秒かかったことになる。


 ただ、シャツの見た目は何も変わっていないため、ほとんど強化の定着は起こっていないようだ。


「それじゃあ、600回でいってみるか。

 強化600」


 予想通り今回は30秒ほどで強化は終了した。


 間の前のシャツは明らかに黒ずんで灰色になっている。


「定着が起こった以上、このシャツで定着に必要な回数を計れないな。一応このシャツを強化無しの体で着てみるか」


 上半身裸になったキーンが灰色になったシャツを着てみたがごつごつしたような違和感はない。


「うん、この程度なら問題ない。次はこのシャツがどれくらい丈夫になったかだな。どうやって試せばいいかな? そうだ! ファイヤー系だとシャツが燃えるとアイヴィーに怒られるから、ウォーターアローを撃ってみよう。

 まずは威力半分だな。ウォーターアロー0.5」


 キーンの正面に水の矢が生れそれがキーンの着る灰色のシャツに当たった。今までだったらおそらくある程度の孔が空いたのだろうが、無事だったようだ。


「良いみたいだけど、ウォーターアローだと部屋の中が水浸しだな。やっぱりサンダーボルトのほうが無難だな。

 黒玉は、温風を吹かして床を乾かしてくれ」


 黒玉が床に近づいて濡れた床に向かって温風を吹き出し始めた。今のところ黒玉が魔術を発動するには一般人同様自分を起点にしかできないところが黒玉がキーンと比べ劣っている点のようだ。


 黒玉が床を乾かしているあいだ、


「サンダーボルト0.5!」


 電撃がキーンの胴体に向かって放たれた。シュッ! と音がしてキーンの着る灰色のシャツに吸収されてしまった。シャツは孔が空くことも焦げることもなく健在でキーンにも何もショックなどは伝わってこなかった。


「強化600でいいみたいだ。強化しすぎて真っ黒になるとさすがにカチカチになりそうだからこれくらいにしておこう」



 キーンはその後下着のパンツも同じく強化600をかけておいた。上下とも灰色の下着となり、何だかちょっと大人になったような気がし始めたキーンだった。





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