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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第6章 キーンの冬期休暇

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第73話 キーン、クリスのことをソニアに話す。


 黒玉をもう一つ作ることはできなかった。もし複数の黒玉ができてしまっていたら、軍隊そのものも不要になるところだったのだが、そういったことにはキーンもソニアも気付くことはなかった。


 翌朝、アイヴィーとソニアはキーンを残して年末年始用に商店街に買い出しに行った。大きな手提げ袋を二人とも二つずつ持っていったので、かなりの量の買い物になりそうだ。キーンが荷物持ちを手伝おうかと言ったら断られたので、一人お留守番とあいなった。



 何もすることがないので、キーンは裏庭で黒玉相手に大剣の訓練をすることにした。


 キーンが真面目に『龍のアギト』を振るって黒玉に斬撃を当ててしまうと、いくら丈夫な黒玉でもいつかは壊れてしまうだろうと思い、黒玉からはキーンに電撃を放ち、キーンは強化をかけた上、黒玉の電撃を『龍のアギト』で受けることにした。


 最初のうちは、全く電撃を防ぐことができず、体がビリッと何度かするうちに、黒玉が電撃を放つ特性のようなものが分かってきた。


 まず黒玉の電撃は正確にキーンの胸元に向かって飛んでくるので、コースを掴むことができる。キーンなら予備動作無しで敵の至近で電撃を発生させることもできるため回避は不可能だが、黒玉はそういったは今のところ使ってこないので、電撃が見えているわけではないがタイミングを見て『龍のアギト』を振るうことで、電撃を迎え撃つことができるようになっていった。


「普通の魔術師が相手なら、簡単に魔術の発動タイミングは分かるから問題ないし、そもそも普通の魔術師が相手なら魔術を発動される前にやっつけるのは簡単だ。それでもこういった訓練はきっと何かの役に立つ」



 キーンが裏庭で黒玉相手に『龍のアギト』を振り回していたら、玄関の方から声がした。


『こんにちはー』


「はーい。あれ? クリス?」


 キーンは『龍のアギト』を井戸端に立てかけて、黒玉を連れて急いで玄関にまわった。



 キーンが玄関の扉を開けるとクリスが立っていた。門の前には黒塗りの箱馬車が停まっていて、馬車の扉にはライオンの絵が描いてあった。クリスは侯爵家の馬車を使って今日はキーンの自宅うちに来たらしい。


「クリス、どうしたの?」


「キーンのうちの前を通りかかったから、どうしてるかなって思って立ち寄ったの」


「そうなんだ」


「ねえ、キーン、きみの横に浮かんでいるその黒い球はなに?」


「これは、黒玉って名まえを付けた僕の分身みたいなものなんだ」


「分身って?」


「ミニオンを改造していたら偶然でき上ったんだけど、黒玉は僕の使える魔術はおそらく全て使えるんだ」


「それって、ほんとなの? キーンが嘘つくはずないものほんとなのよね」


「そうみたいなんだよ。クリス、まあ、うちの中に入ってよ」


「ごめんなさい、近くを通ったので立ち寄っただけなの。これからまだ用事があるので行かなくちゃいけないの」


「そうなんだ」


「キーン、黒玉のこと手紙に書いて教えてね」


「まあ、見ての通りであまり手紙に書くようなことはないけど、手紙は書くよ」


「それじゃあ」


 クリスはそう言って、門の前に待たせてあった馬車に乗って帰っていった。



「あれ? ここにソニアがいたらクリスに説明するのが少し大変だったかもしれないな。でも、クリスは僕の友達だし、ソニアも僕の友達だから、クリスとソニアは友達ってことになるのかな?」


 などと呑気のんきなことを考えるキーンだった。一応図書館で読んだ冒険小説には男女間の機微きびに触れたような描写があったのだが、キーンはそういった場面は退屈なので読み飛ばしていた。結局キーンにはまだ思春期は始まっていなかったようである。



 クリスが帰っていったので、またキーンは裏庭に出て『龍のアギト』で黒玉と遊び始めた。黒玉も電撃の威力を抑えているようで、たまにキーンが空振って電撃を受けても少ししびれるくらいでキーンには痛くなかったし、何より着ている服が傷まないのがよかったようだ。



 キーンがそうやって遊んでいたら、アイヴィーとソニアが買い物から帰ってきた。キーンが迎えに行くと、二人とも大きな手提げ袋を左右の手に一つずつ持っている。キーンはソニアの荷物を一つ持ってやった。


「キーン、その荷物は台所の調理台の上にお願いします」


 アイヴィーの指示に従って台所の調理台の上に手提げ袋を置いた。


 アイヴィーの荷物の方は粉物や乾物などが多かったようで、彼女は台所の脇の収納庫にそのまま荷物を運んで行った。


「ソニア、キーン、ご苦労さま。焼き菓子とお茶を用意するから、二人は居間で休んでいてください」


「私も手伝います」


「一人で十分だから、ソニアは気にしないでいいのよ」


「ありがとうございます」




 キーンとソニアが居間でアイヴィーを待っていたら、しばらくしてアイヴィーがワゴンを押して居間に入ってきた。すぐにソニアが手を貸して3人分のお茶の用意が整った。


「キーンは私たちが留守の間何をしていたの?」


「黒玉と遊んでた。『龍のアギト』で黒玉のサンダーボルトを受ける練習してたんだ」


「キーンくん、サンダーボルトを受けるって、あのサンダーボルトよね?」


「あのがどれだか分からないけれど、ソニアも知ってるミニオンの電撃だよ」


「あれって普通人が受けると一撃で気絶すると思うけど」


「その辺は黒玉も考えていて、僕が着ている服が傷まないように手加減してくれたんだよ」


 どうもキーンは自分より着ている服の方が大切なのだと、ソニアはまたキーンに対する考え方を修正したが、結局『キーンだから』で納得することにした。


「そこは分かったわ。でもあれって一瞬じゃない。どうやってあれを『龍のアギト』で受けるの?」


「もちろん、撃たれた後からだと間に合わないんだけれど、黒玉が撃ちだすタイミングが何となくわかるんだよ。それと電撃のコースはいつも同じだから電撃を斬り飛ばせるんだよ」


「分かったようなわからないような。まあ、キーンくんだからそういうこともできたんでしょう」


「そういえば、クリスが訪ねてきたんだ」


「クリス?」


「クリス・ソーンといって付属校の時にできた僕の友達」


「そうなんだ。キーンくんが休みの日にデートしている人?」


「そうだね」


「その人、美人なの?」


「うーん、そういう目でクリスを見たことは今までなかったけれど、きっと美人じゃないかな」


「キーンくん、女子に対して美人とかそうじゃないかって感じたことは無いの?」


「あまりそういったことは考えたことがないかも。でもクリスはいい友達だよ」


 ソニア自身まだ13歳、恋愛などというものを経験したことなどないが、ソニアはキーンの受け答えを聞いて何か疲れるものを感じてしまった。これはアイヴィーの教育の賜物たまものか、弊害へいがいかどっちかなのかも? とか思ってしまった。



 その日の夜、キーンはクリスとの約束通り黒玉について手紙を書いて、キャリーミニオンに持たせてクリスに送っている。



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