第71話 キーン、弟分を得る。
「それで、『黒玉』は他にどんなことができるの?」
ソニアから質問されたキーンだったが、キーンにもそれは分からない。
「今のところ物を運ぶことくらいしかできないかもしれないけれど、いちおう『黒玉』は僕の記憶だか知識を持っているみたいだから、教えていないことも知ってるみたいだよ」
「そうなんだ」
「黒玉、ソニアに挨拶してみてくれ」
黒玉はソニアの前にフワフワ飛んでいき、真正面で上下に揺れてみせた。
「ほんとだ! すごい!」
「キーン、その子をいつも連れ歩いていればどんどん賢くなるかも知れませんね」
「それはあるかもしれないから、これからはいつも黒玉を連れていよう」
「寮の中はいいかもしれないけれど、教室の中でも黒玉を連れてるの?」
「やっぱり教官に聞いてからだよね。ダメなら教室の前で待たせておけばいいだけだから」
そういうことで、黒玉はいつもキーンの頭の上あたりを漂っていることになった。
「そろそろ、良い時間ですからお茶にしましょう」
「私も手伝います」
「ソニアさん、ありがとう。
キーンは、……、手伝わなくてもいいです」
台所仕事についてはアイヴィーはキーンを当てにしていないようだ。
お茶の用意が整って3人でお茶を飲んでしばらくしたら、アイヴィーとソニアは連れだって台所にいき、夕食の支度を始めてしまった。
これさいわいという訳ではないが、居間に一人残ったキーンは黒玉に何ができるか考えていた。
「僕の記憶と知識を持っているみたいだから、もしかしたら、ある程度の魔術が使えるかもしれない。アタックミニオンやガードミニオンは電撃を撃てるから黒玉も電撃が撃てる可能性は十分ある。これは試してみるしかないな」
これまで、玩具といったものを買い与えられたことがなかったキーンだが黒玉が結構気に入っているようだ。他人から見ると新しい玩具を買い与えられた子供のようでもある。
アイヴィーたちが食事の支度をしている台所を通って、黒玉を引き連れて裏庭に出たキーンは、
「電撃を放つには的がいるけれど、この庭はアイヴィーが大切にしている草花が生えているから難しいな。うーん。
あっ! そうだ、空ミニオンを出してそれを攻撃させてやろう。何も『龍のアギト』の練習だけに使う必要はないものな。それじゃあ、ミニオン10」
キーンは的用に空ミニオンを10個重ねたものを少し離れたところに作り出してみた。
「黒玉、あのミニオンに向かって電撃を1発撃ってみてくれ」
黒玉は上下に体を動かす代わりに、その場で的ミニオンに向かって電撃を放った。
ビシッ! いい音がして電撃は的ミニオンの真ん中に命中したが、的ミニオンは今の電撃では壊れなかった。
「思った通り、電撃は放てた。それじゃあ、次はファイヤーアローでいってみるか。黒玉、ファイヤーアローだ」
黒玉からすぐにファイヤーアローが的ミニオンに向かって撃たれやはりその中心に命中した。
「ウォーターアローだ」
「アイスニードルだ」
……。
いろいろな魔術を試したがどれも問題なく黒玉は撃つことができた。
最後のアイスボールを受けたところで、的ミニオンは壊れて消えてしまったが、黒玉は特に消耗したような様子もなくキーンの近くに浮いていた。
「今のでだいぶ魔力を使ったはずだけど、黒玉は大丈夫なのかな?」
見た感じは何ともない。黒玉は魔素を取り込んで魔力に変換している可能性がある。そうなると黒玉の魔力の最大値は不明だが、いくらでも魔力を使って魔術を行使できるようになる。魔力が無尽蔵に見えるところはキーンと同じだ。
「あっ! 僕は無意識のうちに必要なだけ魔素を魔力に変換していたから魔力を気にすることなく魔術が使えてたのか」
黒玉のことを考えていたら、奇しくも己の他人とは異なる部分の理由が分かったような気がしたキーンだった。
「これなら黒玉は少なくとも簡単な魔術は全部使えると考えていいな。ということは、強化をかけることができるかも?
黒玉、今度は自分に強化をかけてみろ」
すぐに黒玉が、6色の光に包まれた。黒玉が強化されて何がどうなるのかはわからないが悪いことではないだろう。
「それじゃあ、今度は僕に強化を掛けてくれ」
すぐにキーンの体が6色に輝き始めた。体を軽く動かしてみたが、強化の強度はいつのキーンが自分にかけている強化の強度とほぼ同じだった。
「それじゃあ、強化10はどうだ?」
すぐにキーンの体を覆っていた6色の光が明るく輝き始めた。
強化については標準的な強化も強度10倍も簡単にかけることができる黒玉だ。さっきの一連の攻撃魔術についてはキーンの普段の魔術強度と比べ明らかに弱かったため黒玉自身の判断で強さを抑えたのかもしれない。思った以上に黒玉は高性能だった。
黒玉はキーンと同じく無尽蔵に魔力を使えるようだし強化も他者に対してかけることができる。キーンが軍に強化で協力を頼まれた場合、キーンの都合の悪い時でも、キーンの代わりが務まる。
裏庭で一連の検証を終えたキーンは、黒玉のことを子分と思っていたが、どうも自分の弟分のような気がしてきた。
「あと、黒玉は丸いだけで物を運ぶとき体に取り込んでからだけど、手の代わりになるものがあれば便利なんだがなー。手そのものは形が複雑だし、そんなものが黒丸から生えてきたらあまり見た目は良くないから、触手みたいなものがあれば手の代わりになりそうだ。
黒玉、触手みたいなものを生やせるか?」
できるできないは別として、キーンは黒玉に聞いてみることにした。
そうしたところ、黒玉の左右の真ん中からニョキリと黒い円錐形の突起のようなものが生えてきた。今のところ太いし動いていないのでどうということはないが、これが長くなってニョロニョロ動くとそれなりに怖いものがある。とはいえ、今の状態だと何の用も足しそうにないので、
「もう少し細長くしてくれ」
そうリクエストしたところ、それなりの触手ができ上ってしまった。
「それじゃあ、その触手で、井戸の横に置いてあるバケツにポンプから水を入れてみてくれ」
黒玉がポンプのところまで飛んでいき、器用にバケツをポンプの水の出口の下に動かして、手押しポンプの持ち手を動かして水を汲みあげ始めた。水が一杯になったところで黒玉は触手を引っ込めキーンの元に戻っていった。
「すごいぞ! 黒玉」




