第69話 キーン、ミニオンを重ね合わせる。
『……、キーン、昼食の準備ができましたよ』
アイヴィーに何度か呼ばれて、ミニオンについてじっと考えを巡らせていたキーンがやっとわれに返った。
「はーい。今行きまーす」
台所の隣の食堂に入り、先に席についていたアイヴィーたちに、
「遅くなってごめん」
と謝って、空いていたソニアの隣の席に座って食事を始めた。
「呼んでもすぐにキーンが食堂に来なかったということは、何か考え事をしていたということですか?」
「ちょっとね。風呂掃除と床掃除をするお掃除ミニオンって作ってみたんだけど、風呂掃除と床掃除しかできないミニオンなんだ。それでどうせならもっとなんでもできるミニオンが作れないか考えていたんだ」
「キーンくん。お掃除するミニオンというだけでも凄いと思うけど」
「見てる分にはそれなりに面白いんだけどね。それで思いついたのが、何か適当な物にミニオンを定着させて、そのミニオンを少しずつ改良していこうと思いついたところ」
「キーンくん、なんだか凄いということだけは分かったわ」
「キーンの魔術はテンダロスでさえ理解できないものでしたから、私にも到底理解できませんが、キーンならきっとその新ミニオンを完成させることができると思います」
「頑張ってみるよ」
食事の片付けもアイヴィーとソニアがやってくれたので、キーンは居間のソファーに腰を掛け、ミニオンの定着について考えていた。
今まで何も考えずテンダロスが見せてくれた時の大きさのままキーンはミニオンを作っていたが、よく考えれば、何かの動作をするのでなければ大きさはどうでもいいことに気づいた。
「ミニオンをどこまでも小さくしていくと一体どうなるんだろう?」
まず中身のない空ミニオンを一つ目の前に浮かべる。すぐにそのミニオンを消して半分の大きさのミニオンを作る。大きさは15センチほど。これを繰り返し、7.5センチ、4センチ、2センチ、1センチ。確かに小さくはなったが、何か不都合があるわけでもなさそうだ。5ミリ、2.5ミリ、1.2ミリ、0.6ミリ、0.3ミリ、11回目で髪の毛の太さほどのミニオンができ上った。
「これだと際限ないな。感じとして小さくなればなるほど少ない魔力でミニオンができる。逆に言えば同じ魔力で小さなミニオンを作ると、やや非効率になるもののより長い寿命を持ちそうだ。だいたい直径で半分になれば体積で8分の1、寿命にすれば5倍だな。10回直径を半分にしたミニオンは最初のミニオンの、えーと、……、書かないと分かんないな。……、5×5=25、4回だと25×25=625、8回だと、625×625=390625。面倒だから40万として、これにあと2回5をかけると、1千万! 最初のミニオンは最低でも1日は生きてるから、1年を簡単に400日として1千万日÷400日=2万5千年、2万5千年も生きるミニオンか。十分以上だった」
「ミニオンの寿命は長ければ長いほどいいけれど、これ以上小さくすると小さすぎてどこに行ったか分かんなくなりそうだから、これくらいにしておくか」
この大きさのミニオンを新しいミニオンの標準形としてキーンは記憶した。
「それじゃあ、ミニオン自身の上にミニオンを作ったらどうなる? 今までは2個目以降は勝手に前のミニオンの隣にできていたけれど、はっきりと同じ場所に作ったら重なるんじゃないか?」
キーンは小ミニオンでは見づらいので、元の大きさの空ミニオンで試してみることにした。
はっきりと意識して、2個目のミニオンを1個目のミニオンの位置に作りだしたら完全にミニオンが重なってしまった。少し押して見たが、分かれることもなくピッタリくっついてしまったようだ。
「これなら場所をとらない。じゃあ、次はどれくらいミニオンを重ねることができるかだな」
取りあえず、キーンは同じ場所にミニオンを作る、空ミニオン×数字なる魔術を作り出した。
「まずは10個から。ミニオン10!」
目の前にミニオンが現れゆっくり回っている。どう見ても一つにしか見えない。
そのミニオンを消して、
「ミニオン100」
特に問題はない。
同じようにミニオンを消して、
「ミニオン1000!」
1000個ミニオンを作ってみたところ、やはり問題ないようだ。
「なるほど、魔術には実体的な大きさがないということだな。おそらく際限なく重ねることができる。よく考えたら、他の魔術も重ねがけできるから当たり前だったかな」
「数は必要に応じて後から増やしてもいいしな。
あれ? いけない、いけない。なんだかいろいろ試してみていたけれど、ミニオンを定着させるってことが目的だったことを忘れてた。それじゃあいったんこのミニオンを消して」
これまでミニオンを消したい場合は、消えろと意識するだけで消えたのだが、目の前のミニオンは消えることなくゆっくりと回転している。
「あれ? 消えないな。もしかして、ミニオンが自分自身に定着しちゃった?」
意図したわけではないが、期せずしてミニオンの定着ができてしまったらしい。定着が起こった以上、ミニオンを小さくして寿命を延ばす必要もなくなってしまった。将来何かに使えることもあるだろうと、あれはあれでキーンは記憶にとどめておいた。
「これを消すのはどうすればいいんだ? ここに浮かべていたら邪魔だし壊すしかないのかな?」
仕方ないので、キーンは自室に戻って片付けていた『龍のアギト』を持ちだして、先ほどのミニオンを裏庭まで運んで、そこで『龍のアギト』で切りつけた。
弾力性のある妙な手ごたえを感じたが、一撃ではミニオンは壊れなかった。
「思った以上にこのミニオン丈夫だな。『龍のアギト』で簡単に壊れないとなるとそれはそれで使いでがある」
その後、10回くらい『龍のアギト』で斬りつけたら、やっとミニオンが消えてなくなった。
キーンがミニオンを押しながら『龍のアギト』を持って台所を通って裏庭に出て行ったものだから、ソニアとアイヴィーが台所の手を止めてその様子を眺めていたのだが、新しいミニオンを作ると言っていたキーンが大剣を振り回し始めたことに半ば呆れていた。ただ、アイヴィーから見て、キーンの大剣の一撃を10回も耐えたミニオンには素直に驚いていた。




