表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第6章 キーンの冬期休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/333

第67話 ソニア、キーンの自宅で年を越す2


「僕たち二人だとこの老婆?をこのまま近衛の詰所まで連れて歩くのは難しいから何か縛る物がないかな?」


「それなら、キーンくんのこの布はダメかしら」


 ソニアがキーンの『龍のアギト』をくるんでいた布を差し出した。


「これならちょうどいいよ。老婆が目を覚ます前に縛っちゃおう」


 キーンが布を縦に細く畳みながら老婆の上半身を腕ごと縛った。その間に老婆は気が付いたようで目を開けた。


 別にキーンには老婆に聞くこともないので、そのまま引き立てて、


「まっすぐちゃんと歩け。変なことをしたら電撃を食らわせる。僕の魔術はさっきの軽い電撃とは違うからな」


 一応老婆をおどしたうえで、老婆に道を指図しながら前を歩かせ詰所に向かった。



「すみません!」


 いつもの近衛の詰所で、また襲撃に遭ったこと。襲撃者は召喚魔法使いであることを伝えただけでキーンたち二人は解放されたので、そこからキーンの自宅に向かった。老婆を縛っていた布はその場で『龍のアギト』に巻いている。



「キーンくん、襲われても全然(あわ)てないし、冷静だったよね」


あわてるという言葉は知っているけれど、さっきみたいなことを含めて感じたことがないんだ」


「そうなんだ。それもすごいことだよね。私たちも含めて軍人が訓練する大きな理由の一つは、いざって言う時にあわてないためだったと思うけど。キーンくんは軍人に向いてるんだと思うよ」


「そうかなー? 今も簡単に敵を殺すことはできたけど殺さなかった。いずれ敵を殺さなくてはならない時が来ると思うけど、自分にそれができるかと言えば、できるとはまだ言えない」


「キーンくん、それは私も考えたことがあるわ。

 敵の命と味方の命、どちらか一方をとるなら、当然味方の命の方が大切。敵をたおすことで味方の命が助かるのなら私はためらわないと決めているの。そうしないと後悔することになるから」


「なるほど、ソニアの言う通りだ。自分がためらったせいで味方がたおれるようなことがあるとそれこそ後悔じゃ済まないものね。ありがとうソニア」


 なんとなくソニアの言葉で気持ちが軽くなったキーンだった。





 キーンがソニアを連れて自宅近くまで帰ってきた。


自宅うちはもうすぐだよ」


「そこに見える塀の先は魔術大学の付属校じゃない?」


「付属校を放校になるとは思っていなかったから、なるべく付属校の近くで家を探したんだ」


「まあ。そういうこともあるわよ」


「あそこに見えるのが、僕の自宅うち


「ふーん。キーンくんのおうちは思ったほど大きくはないのね」


「アイヴィーと僕の二人だけだしね。バーロムにはじいちゃんの住んでいた大きな屋敷があるんだ」


「そうなんだ」


 キーンはソニアを連れて扉を開けて玄関に入り、


「アイヴィー、ただいま。

 うちの中だから強化は解除しておくよ。解除」


 二人の体を覆っていた6色の光が消えた。


『お帰りなさい』


 台所の方から声がして、すぐにアイヴィーが現れた。


「アイヴィー、手紙に書いた同級生のソニア・アブリルさん」


「アブリルです」


「アイヴィーです。ソニアさん、ここを自宅だと思って自由にしてね」


「ありがとうございます」


「キーン、ソニアさんにお風呂とかトイレの場所を教えたら、二階の空いている寝室に連れていって荷物を置いてもらって来て下さい。二つ空いているどちらの寝室でも構いません。荷物を置いたら居間で寛いでていてくれればいいです。それとその孔の空いた上着はあとでつくろいますから持って下りてきてください。どうしてそうなったかは後で話してください。私はお茶の準備をしてきます」


「はい。

 ソニア、家の中を説明するからついてきて」


 一階を一通り見て回った後、玄関脇の階段で2階に上がり、二つある空いた寝室のうち片方にソニアを案内した。


「ソニア、この部屋を自由に使ってくれていいからね」


「ありがとう」


「それじゃあ、僕は『龍のアギト』を片付けてから居間に下りているから」


「私は着替えてから下りていくわ」



 キーンは『龍のアギト』を部屋に置き、服を着替え、孔が空いて多少裂けてはいるが汚れてはいない今まで着ていた上着を手に持って一階の居間に下りて行った。


 すぐにソニアも居間に下りてきたので、


「ソニアも適当に座ってて」


「うん」


 居間には暖炉はあるにはあるのだが、まだ一度も火を入れたことはない。薪は台所の脇に料理用の物があるだけだ。


「ソニア、寒いようなら暖炉に薪を持ってきて火を入れるけど」


「部屋の中は寒くないから大丈夫」


 ソニアが居間に飾りでおいておいた、商業ギルドから受爵祝いにもらった置時計を見て、


「キーンくん、これって最新式の機械式置時計よね? こんなに小さなのは初めて見たわ。すごく高かったんじゃない?」


「もらいものなんだけど、相当高いものだと思うよ」


「キーンくんってお金持ちなの?」


じいちゃんがお金持ちだったのは確かだよ」


「そう言えば、あなたのお義父とうさんの大賢者アービスは名誉伯爵だったんだものね。それにキーンくんは本物の男爵さまだし」


「男爵の方はまだよくわからないけど、今年セントラムに出てくるまでは田舎に住んで贅沢ぜいたくしていなかったから」


「そうなんだ。キーンくんも着ている服は上等だけど、いたって普通・・だものね」


「そういうこと」




 ソニアとそんな話をしていたら、アイヴィーがワゴンにお茶の用意をして居間に入ってきた。


 アイヴィーは手伝おうとするソニアを制して3人分のお茶の用意をして、


「それで、キーン、その上着はどうしたんですか?」


「学校からの帰り道、また襲われたんだよ。今度は、召喚魔法使いだった」


「召喚魔法という言葉は私も知っていますが、私もまだ見たことはありません。キーンが服だけとは言え不覚ふかくをとったということは、それなりの相手だったということですね」


「召喚獣が出てきたんだけど、名まえはシャドウ・ウルフとかいう召喚獣だった。こちらから攻撃した時は実体がないのに、シャドウ・ウルフがこちらに攻撃を仕掛ける瞬間だけ実体化するみたいなんだ。そのかわり攻撃力は大したことなかったけど」


「それでどうやって相手を倒したんですか?」


「召喚魔法使いが隠れたままだったから、先にそっちをやっつけたら、召喚獣は消えちゃった」


「良い判断です。そのとき、ソニアさんは」


「キーンの後ろにいました。近くでミニヨン?が飛んでて、私を守っていてくれていたようでした」


「ソニアにもしものことがあったら大変だから、ガードミニオンを先に出しておいたんだよ」


「それも良い判断です。キーンはまだ13歳ですが周囲の状況をよく見て、良い判断を下しています」


「あれ、アイヴィーにめられちゃった」


「キーンがちゃんと成長しているので私は安心です。テンダロスも生きていれば喜んだことと思います。

 そういえば、まだ誰にも伝えていませんでしたが、この前の休日の夕方、キーンがここから寮に帰ったあと、半日かけてダレンの王都まで走っていって橋を3本落としてきました。あれは警告だったのですが、もう一度ダレンまで行く必要がありそうですね。

 その前に上着はつくろっておきましょう」


 アイヴィーに上着を手渡しながらキーンは、


「ダレンのことだけど、橋を3本も落としたんならもういいんじゃない。おそらくダレンも襲撃を止めさせようとは思ってたんだろうけれど、襲撃者に連絡が取れていないんじゃないかな。ダレンの都からここまで少なくても一週間はかかりそうだし。次にアイヴィーがダレンに行くときは相手も待ち構えているはずだから、このくらいで止めておこうよ」


「確かにキーンの言う通りですね。年が明けても襲撃がまないようなら、何か他のことを考えてみましょう」



 そばでキーンとアイヴィーの話を聞いていたソニアは、目を見開いて驚いていた。キーンを襲っていたのがダレンからの襲撃者だということもそうだが、アイヴィーが一人でダレンの都にかかる橋を3本落としたことにさらに驚いたようだ。たしかあの3本の橋はダレンが長い年月をかけてようやく完成させた石造りの大橋だったはず。それを買い物ついでくらいの感覚で走っていって、こともなげに落としたとは。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ