第67話 ソニア、キーンの自宅で年を越す2
「僕たち二人だとこの老婆?をこのまま近衛の詰所まで連れて歩くのは難しいから何か縛る物がないかな?」
「それなら、キーンくんのこの布はダメかしら」
ソニアがキーンの『龍のアギト』をくるんでいた布を差し出した。
「これならちょうどいいよ。老婆が目を覚ます前に縛っちゃおう」
キーンが布を縦に細く畳みながら老婆の上半身を腕ごと縛った。その間に老婆は気が付いたようで目を開けた。
別にキーンには老婆に聞くこともないので、そのまま引き立てて、
「まっすぐちゃんと歩け。変なことをしたら電撃を食らわせる。僕の魔術はさっきの軽い電撃とは違うからな」
一応老婆を脅したうえで、老婆に道を指図しながら前を歩かせ詰所に向かった。
「すみません!」
いつもの近衛の詰所で、また襲撃に遭ったこと。襲撃者は召喚魔法使いであることを伝えただけでキーンたち二人は解放されたので、そこからキーンの自宅に向かった。老婆を縛っていた布はその場で『龍のアギト』に巻いている。
「キーンくん、襲われても全然慌てないし、冷静だったよね」
「慌てるという言葉は知っているけれど、さっきみたいなことを含めて感じたことがないんだ」
「そうなんだ。それも凄いことだよね。私たちも含めて軍人が訓練する大きな理由の一つは、いざって言う時に慌てないためだったと思うけど。キーンくんは軍人に向いてるんだと思うよ」
「そうかなー? 今も簡単に敵を殺すことはできたけど殺さなかった。いずれ敵を殺さなくてはならない時が来ると思うけど、自分にそれができるかと言えば、できるとはまだ言えない」
「キーンくん、それは私も考えたことがあるわ。
敵の命と味方の命、どちらか一方をとるなら、当然味方の命の方が大切。敵を斃すことで味方の命が助かるのなら私はためらわないと決めているの。そうしないと後悔することになるから」
「なるほど、ソニアの言う通りだ。自分がためらったせいで味方が斃れるようなことがあるとそれこそ後悔じゃ済まないものね。ありがとうソニア」
なんとなくソニアの言葉で気持ちが軽くなったキーンだった。
キーンがソニアを連れて自宅近くまで帰ってきた。
「自宅はもうすぐだよ」
「そこに見える塀の先は魔術大学の付属校じゃない?」
「付属校を放校になるとは思っていなかったから、なるべく付属校の近くで家を探したんだ」
「まあ。そういうこともあるわよ」
「あそこに見えるのが、僕の自宅」
「ふーん。キーンくんのおうちは思ったほど大きくはないのね」
「アイヴィーと僕の二人だけだしね。バーロムには爺ちゃんの住んでいた大きな屋敷があるんだ」
「そうなんだ」
キーンはソニアを連れて扉を開けて玄関に入り、
「アイヴィー、ただいま。
うちの中だから強化は解除しておくよ。解除」
二人の体を覆っていた6色の光が消えた。
『お帰りなさい』
台所の方から声がして、すぐにアイヴィーが現れた。
「アイヴィー、手紙に書いた同級生のソニア・アブリルさん」
「アブリルです」
「アイヴィーです。ソニアさん、ここを自宅だと思って自由にしてね」
「ありがとうございます」
「キーン、ソニアさんにお風呂とかトイレの場所を教えたら、二階の空いている寝室に連れていって荷物を置いてもらって来て下さい。二つ空いているどちらの寝室でも構いません。荷物を置いたら居間で寛いでていてくれればいいです。それとその孔の空いた上着はあとで繕いますから持って下りてきてください。どうしてそうなったかは後で話してください。私はお茶の準備をしてきます」
「はい。
ソニア、家の中を説明するからついてきて」
一階を一通り見て回った後、玄関脇の階段で2階に上がり、二つある空いた寝室のうち片方にソニアを案内した。
「ソニア、この部屋を自由に使ってくれていいからね」
「ありがとう」
「それじゃあ、僕は『龍のアギト』を片付けてから居間に下りているから」
「私は着替えてから下りていくわ」
キーンは『龍のアギト』を部屋に置き、服を着替え、孔が空いて多少裂けてはいるが汚れてはいない今まで着ていた上着を手に持って一階の居間に下りて行った。
すぐにソニアも居間に下りてきたので、
「ソニアも適当に座ってて」
「うん」
居間には暖炉はあるにはあるのだが、まだ一度も火を入れたことはない。薪は台所の脇に料理用の物があるだけだ。
「ソニア、寒いようなら暖炉に薪を持ってきて火を入れるけど」
「部屋の中は寒くないから大丈夫」
ソニアが居間に飾りでおいておいた、商業ギルドから受爵祝いにもらった置時計を見て、
「キーンくん、これって最新式の機械式置時計よね? こんなに小さなのは初めて見たわ。すごく高かったんじゃない?」
「もらいものなんだけど、相当高いものだと思うよ」
「キーンくんってお金持ちなの?」
「爺ちゃんがお金持ちだったのは確かだよ」
「そう言えば、あなたのお義父さんの大賢者アービスは名誉伯爵だったんだものね。それにキーンくんは本物の男爵さまだし」
「男爵の方はまだよくわからないけど、今年セントラムに出てくるまでは田舎に住んで贅沢していなかったから」
「そうなんだ。キーンくんも着ている服は上等だけど、いたって普通だものね」
「そういうこと」
ソニアとそんな話をしていたら、アイヴィーがワゴンにお茶の用意をして居間に入ってきた。
アイヴィーは手伝おうとするソニアを制して3人分のお茶の用意をして、
「それで、キーン、その上着はどうしたんですか?」
「学校からの帰り道、また襲われたんだよ。今度は、召喚魔法使いだった」
「召喚魔法という言葉は私も知っていますが、私もまだ見たことはありません。キーンが服だけとは言え不覚をとったということは、それなりの相手だったということですね」
「召喚獣が出てきたんだけど、名まえはシャドウ・ウルフとかいう召喚獣だった。こちらから攻撃した時は実体がないのに、シャドウ・ウルフがこちらに攻撃を仕掛ける瞬間だけ実体化するみたいなんだ。そのかわり攻撃力は大したことなかったけど」
「それでどうやって相手を倒したんですか?」
「召喚魔法使いが隠れたままだったから、先にそっちをやっつけたら、召喚獣は消えちゃった」
「良い判断です。そのとき、ソニアさんは」
「キーンの後ろにいました。近くでミニヨン?が飛んでて、私を守っていてくれていたようでした」
「ソニアにもしものことがあったら大変だから、ガードミニオンを先に出しておいたんだよ」
「それも良い判断です。キーンはまだ13歳ですが周囲の状況をよく見て、良い判断を下しています」
「あれ、アイヴィーに褒められちゃった」
「キーンがちゃんと成長しているので私は安心です。テンダロスも生きていれば喜んだことと思います。
そういえば、まだ誰にも伝えていませんでしたが、この前の休日の夕方、キーンがここから寮に帰ったあと、半日かけてダレンの王都まで走っていって橋を3本落としてきました。あれは警告だったのですが、もう一度ダレンまで行く必要がありそうですね。
その前に上着は繕っておきましょう」
アイヴィーに上着を手渡しながらキーンは、
「ダレンのことだけど、橋を3本も落としたんならもういいんじゃない。おそらくダレンも襲撃を止めさせようとは思ってたんだろうけれど、襲撃者に連絡が取れていないんじゃないかな。ダレンの都からここまで少なくても一週間はかかりそうだし。次にアイヴィーがダレンに行くときは相手も待ち構えているはずだから、このくらいで止めておこうよ」
「確かにキーンの言う通りですね。年が明けても襲撃が止まないようなら、何か他のことを考えてみましょう」
傍でキーンとアイヴィーの話を聞いていたソニアは、目を見開いて驚いていた。キーンを襲っていたのがダレンからの襲撃者だということもそうだが、アイヴィーが一人でダレンの都にかかる橋を3本落としたことにさらに驚いたようだ。たしかあの3本の橋はダレンが長い年月をかけてようやく完成させた石造りの大橋だったはず。それを買い物ついでくらいの感覚で走っていって、こともなげに落としたとは。




