第64話 キーン、期末試験に臨む。
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2度目の襲撃を受けたキーンだが、敵が相変わらず想定外の弱さだっため、夏休み期間中読んだ冒険小説の敵の弱さが、実はそんなに変な話ではなかったということに気づいてしまった。ということは、あの小説に出てきた主人公の強さは、世間一般から見てかなり強い、という認識で間違いなさそうだ。
それでは、小説の主人公をそんなに強そうではないと思ってしまった自分は一体どうなんだろう? そうは思ったが、別に悪い話ではないので、いつも通り気にしないことにした。
今回の襲撃では、呼びに行って駆け付けてくれた近衛兵に、簡単な状況説明をしただけで解放されので、キーンは襲撃現場から寮に向かって駆けだした。いくら相手が拍子抜けするほど弱いと言っても、気を抜く必要はないので、周囲を警戒しつつ駆けている。そういったところは手を抜かない性分である。
もちろん今回の襲撃のこともアイヴィーには話はするが、報復などはしなくていいというつもりだ。
そのアイヴィーは今現在、キーン襲撃の報復のためダレンの都ゴラブールに架かる橋を落とそうと街道を南西に向かって絶賛高速走行中なのだが、キーンはそんなことは知らない。
昨日今日と自宅でアイヴィーと試験勉強について話をしたキーンは、アイヴィーも特に受験だからと言って特別な勉強は不要と言っていた、と解釈している。
ということで、キーンはいつも通り寮の自室で何をするとはなく、ぼーとして過ごそうとしたが、クリスに年末年始の休みの間どうしようかとお伺いを立てようと思い立った。
そのことを書いた手紙をキャリーミニオンに持たせて送りだしたところ、クリスはソーン家の行事でその期間忙しく家を抜け出せない、との返事がすぐに戻ってきた。
そして翌日、試験の初日。
試験は座学の試験のみが行われる。全9科目、1日午前中3科目で3日間。
軍学校では実技には期末試験はない。その理由は実技で問題がある生徒がいれば、当日問題が解消されるため居残りで訓練しているため、すでに全員合格しているからだ。
教室に入るとほとんどの生徒が登校していた。キーンも自分の席、階段教室の後ろに向かって階段を上っていくと、先に席に着いていたソニアから、
「キーンくん、試験はどう?」
「何とかなるんじゃないかな」
「まあね。世の中のことはたいてい何とかなると思うけど、ならないこともたまにはあるのよ」
「それは付属校の時に経験したよ」
「アレ。悪いこと言っちゃったかしら?」
「いや、全然。とりあえず、今回の試験だと魔術以外は大丈夫だと思うよ」
「魔術の座学ができないのが私からすれば不思議なんだけれど、そもそもキーンには不要だものね。1つくらい落としても、そこは問題ないと思うわ」
「そう言えば、軍学校では成績不良で放校ってないの?」
「そういうのはないわ。だって、合格点の80点をとるまで何度でも試験するから、いつかは合格するのよ。その代り休みの日数は減るし、教官には迷惑をかけることになるけどね」
「なるほど」
そんな話を教室の一番後ろの自席で隣に座るソニアと話していたら、試験担当の教官が入室し、すぐに筆記試験が始まった。
……。
「キーンくん、さっきの試験どうだった?」
「うん。さっきの試験は授業で聞いたことがほとんどだったし、聞いてなかったことも、その延長で答えが分かったから、まずまずの成績だと思う」
「それじゃあ安心ね。今日はあと2教科、頑張ろ」
「ソニア、ありがとう」
キーンは後二つの試験も無難にこなし、
「ソニアのおかげだよ。今日はなかなかうまくいったと思う。ソニアはどうだった?」
「すごい自信ね。私もそこそこできたわよ。明日の勉強もあるから、そろそろ帰ってお昼を食べましょうよ。今日は学校の食堂はお休みで、寮の食堂よ」
「それじゃあ帰ろう」
教室のみんなも同じ寮なので、試験の出来や答え合わせをしながら、ぞろぞろと一緒に寮に帰っていった。
キーンは付属校で二日間試験を受けただけだったが、試験のできについては、クリスに一言『ダメだった』と言ったきりで、話し合ったことなどなかったことを思い出した。それどころか、クリス以外の生徒とは話したこともないことも思い出してしまった。実際はメリッサ・コーレルと一言二言言葉を交わしたことはあるのだが、そのことはキーンにとっては無かったことになっている。
その日もキーンは寮で予定通り試験のための勉強をするでもなく、洗濯場が空いていたので洗濯をしたり、部屋の掃除などをしていた。こういった行動は、はた目から見れば勉強のできない生徒の行動そのものである。
二日目の試験も好調だったキーンだが、3日目、1科目、2科目目は快調にこなした後の最後の魔術の試験でコケてしまった。キーンにしてみれば、既定路線だったのでそれほど驚くことではない。
「キーンくん、魔術はどうだった?」
「最後の問題以外ダメだった」
「最後の問題って、感想文みたいなものだから、書くだけで点数がもらえる救済問題だものね。再試験頑張って」
笑顔でソニアに励まされてしまった。
再試験は、二日後の成績発表の次の日から始まるそうだ。再試験のない生徒はその日から新年を挟み2週間の冬休みが始まる。
試験の終わった二日後、担当のゲレード少佐が教室で答案を返しはじめた。
名前を呼ばれた順に、9科目の試験の答案と、成績と学年順位の書かれた成績表が各自に渡されていった。
最後に答案と成績表を受け取ったキーンは、自席に戻り、成績表をみると魔術の成績は100点満点中20点しかキーンは取れていなかった。その取れた20点も魔術を行使する時、気をつけていることを書けというソニアの言う救済問題だったので、答案を書きさえすれば20点与えられるものだった。
魔術で最低点をたたき出したキーンだったが、残りの8教科は全て満点だった。
その結果キーンの座学の成績は52人中6位で820点。あとで聞いたところ、1位はソニアで9科目合計で875点、2位はトーマスで860点だった。
軍学校の教官たちも、キーンの魔術は世間一般の魔術体系とは大きくかけ離れているため、魔術理論的なものはキーンには無意味のようだし、逆にキーンの使う魔術を模倣することも不可能なのだと考え始めていた。そのため、答案を返し終えたゲレード少佐から、
「アービス、お前は魔術の点数が最低点だったが、教官会議の結果再試験を免除することになった。魔術の講義の目的が、より高度な魔術を使いこなす手助けをすることだから、当然と言えば当然の措置だがな」
そういった理由で、キーンに対する魔術の試験の再試験は行われなかった。こういうところは付属校と違い軍学校は融通が利くようだ。軍学校は付属校によるキーンの放校処分を反面教師としたと考えることもできる。
「そういうわけで、今回の試験ではアービスを含めて再試験の必要な者はいなかった。われわれ教官が楽ができるよう、これからも頑張ってくれたまえ」
「「はい!」」
全員明日から冬休みに入ることができるようだ。




