第62話 ダレン王国
イスラ河に架かる石橋が3本ともほぼ同時に落ちたとの報が、ダレンの王都ゴラブールの旧市街中央に位置する王宮にもたらされたのは、アイヴィーが最後の橋を落として30分後のことだった。
それから丸1日経過し、王宮宮殿内の会議室で宰相を始め王室の警護に当たる禁軍の将軍ほかダレン王国の国王派の重鎮たちが善後策について会議中である。国王ルシフェルム1世は臨席していない。
「橋が崩壊する前、キーン・アービスの従者アイヴィーと名乗る人物が、
『イスラ河にかかる全ての橋を破壊する。次に何かあればダレン王宮を破壊する』と大声で宣言していたそうです。そのアイヴィーと名乗る人物は市街を移動して、橋の手前で姿を消した後橋が崩壊しています。状況から考えて、橋を破壊したのは本物の『サルダナの悪魔』アイヴィーと考えてよろしいでしょう。『サルダナの悪魔』が単身で簡単に橋を落とせるほどの力があったとは予想外でした」
「30年近く表舞台に現れることのなかった『サルダナの悪魔』の実力をわれわれは過小評価していたようだな。
それで、『次に何かあればダレン王宮を破壊する』とは?」
「おそらく、われわれが放った刺客がキーン・アービスを襲撃したものの、殺害をしくじったのでしょう。今後キーン・アービスに対して同様の襲撃があった場合、この王宮を破壊すると警告しているものと考えられます」
「刺客の首尾の報告はまだないのだろう?」
「今のところ何も連絡はありません。複数の刺客を放っていますのでキーン・アービスに対してこれからも何度か襲撃が行われる可能性があります」
「刺客を呼び戻すことはできないのか?」
「セントラムのどこかに潜んでいるのでしょうが、いちおうは手練れを送り込んでいる関係で簡単に見つけ出すことは困難です。従って、こちらからは連絡のしようがありませんし、連絡可能としても今からでは間に合わないと思います」
「キーン・アービスを再度襲撃して、仕留めることができればまだいいが、仕留めそこなった上に『サルダナの悪魔』に報復され宮殿が破壊されたら目も当てられないぞ。ところで、実際のところあの『サルダナの悪魔』は何なのだ?」
「容姿なども40年前と全く変わっていなかったとの情報もあり、おそらくは人ではなく、一種の軍事アーティファクトではないかと思われます」
「やはり軍事アーティファクトなのか。まずいな。わが国にはどこにも『サルダナの悪魔』を仕留める方法はないのだろう?」
「可能性があるとすれば、王宮の宝物庫に眠る軍事アーティファクト『鎧装デクスフェロ』(注1)を使うしか。しかし、それで『サルダナの悪魔』を仕留めることができるかと言えば難しいと言わざるを得ません」
「確かに。『サルダナの悪魔』もデクスフェロの弱点は知らないだろうからアレを使いこなすことができれば斃せぬまでも対抗はできそうだ。ただ、今現在わが国にはアレをまともに使いこなせる者はいないのだろう?」
「早急に陛下の許可を得て『鎧装デクスフェロ』を使える者を育てる必要があります」
「陛下は嫌がられるだろうな」
「仕方がありません。戦では必ず犠牲は出ます」
「ただなー。……。
いや、わかった、その件については然るべく準備だけはしておこう」
「あとはエルシン王国(注2)が持つ『狂戦士の涙』(注3)を用立ててもらうくらいでしょうか。『狂戦士の涙』を複数使えば『サルダナの悪魔』を仕留めることができるかも知れません」
「『狂戦士の涙』か。こちらも使いにくくはあるが、デクスフェロよりは幾分マシではあるな。相応の対価を支払った上軍事アーティファクトと考えられる『サルダナの悪魔』を仕留めるためと言えば、エルシンも数個くらいなら用立ててくれると思うが、エルシンの都までの行き来と交渉時間を考えれば、最終的にエルシンが用立ててくれたとしても間に合わないだろう。
いずれにせよ、陛下には事情をお話しして、一時離宮に避難していただくより仕方あるまい。
ところで橋の復旧の方はどうなっている?」
「人と物資の移動には渡し舟と、大回りになりますが上流の橋を使うことで当面対処します。仮設橋を架けるには最低でも1週間はかかるようです。当面それらでしのぐほかありません。本橋の修復には1本あたり最低でも2年はかかるそうです。イスラ河から直接海へ出、海から直接イスラ河へ入っていくため、橋の中央部について橋脚をある程度高くしたいとの要望もあります。この要望を聞いた場合、さらに時間と費用がかかると思われます」
「確かに、小舟であれ海から直接河に入りたい気持ちもわかる。要望は聞かざるをえまいな。
亡くなられた第3王子には気の毒ではあったが、サルダナに攻め込まなければよかった。セロトとも渡りをつけてサルダナ軍を北に引き付けてのサルダナ侵攻。
キーン・アービスとやらがいなければ遠征は成功し、第3王子が王太子に指名されていただろうがな。無理のない堅実な作戦だっただけに悔やまれる。ただ、何を対価にセロトと渡りをつけたのか? サルダナを取っていれば分け取りで話は終わったのだろうが、今回セロトはタダ働きだったわけだからな」
「やはりセロトが軍を動かすとき、わが方に軍を動かすよう求められるのでは?」
「常識的にはそうだろうな。
第3王子が亡くなられた今、王太子の選定が長引きごたごたも続く。
第3王子派もこれで解散してくれればよいが、また別の王子を担ぎ出しかねん」
「連中が弱体化した今なら、粛清も可能では」
「可能ではあるが、この時期内部で争いたくはないからな。いや、逆に不安分子は摘み取ってしまった方が将来的にはわが国の為やもしれんか。うーん。……」
注1:鎧装デクスフェロ
ダレン王国の持つ軍事アーティファクト。全高7メートルにも及ぶ超大型の半自立全身鎧。胴体内の操縦殻と呼ばれる球形の操縦装置の中に人が入り手足を動かすことで、デクスフェロを操縦する。非常に頑丈でほとんどの物理、魔術攻撃を受け付けないが弱点がある。
注2:エルシン王国
ダレン王国、ギレア王国などの南方、ロドネア大陸南西部に位置する超大国の一つ。ロドネア大陸東部にはロドネア大陸の3分の1を占めるもう一つの超大国ソムネア王国がある。第4章、章頭の『ロドネア大陸地図』を参照のこと。
注3:狂戦士の涙
エルシン王国の持つ特殊なヘルメット。エルシンを超大国たらしめている一つの要因。
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