第50話 キーン、日常に戻る。
第5章 キーンの休日
語呂的には『ローマの休日』っぽいのでそれなりのものを書こうとしましたが作者の能力的に無理でした。
ランデル中佐が中隊員たちとハメを外した日の前日。
近衛兵団騎兵中隊の全兵士と軍馬に対して強化を行ったキーンは、そのとき一緒に軍学校の馬場にいた3号生徒担当のゲレード少佐と学舎の方に歩いて帰った。居残り学習はその日もそこまでで終了だったようで、途中でゲレード少佐とは別れたキーンは、一度教室に戻って荷物を持ち寮に帰っていった。
寮に帰ると、玄関に寮生たちが集まっている。どうやらキーンを待っていたようだ。
最初にキーンを出迎えたソニアがみんなを代表して、
「キーンくん、お帰りなさい。それで何か変わったことなかった?」
「今日も補習が途中で終わっちゃった」
「それも変わったことだと思うけれど、他には何もないの?」
「秘密ってことでもないだろうから教えるけど、バツーってダレンとの国境沿いの街がダレン軍に囲まれたって聞いた」
「えっ! いま、北部にセロト軍が押し寄せているんじゃなかったの?」
「それとは別なのか、連動しているのかは分からないけれど、バツーに攻め寄せているそうだよ」
「大変じゃない」
「うん。それで、さっきランデル少佐の騎兵中隊100騎、人馬諸共強化したんだ。今夜中にもバツーに到着すると思う」
「バツーまで200キロはあったはず。まさか、と思うけど、でもキーンくんが強化魔術をかけたのよね」
「そう。今回は今までの10倍の強度で強化したから、かなり強力だと思う」
玄関でそんな話をしていたら、トーマスを始めどんどん寮生たちが集まってきた。
気を利かせたトーマスが、
「ここだと邪魔になるから、食堂にいこうぜ」
その言葉でキーンも含めみんなでゾロゾロと食堂に入っていった。食堂のおばさんは夕食の支度の最中だったが何も言わず仕事を続けていた。
キーンを真ん中のテーブルの中央に座らせ、その周りを生徒たちが取り囲み、みんなを代表してソニアがキーンに質問した。
「それで、10倍の強度って?」
「普段僕が何も考えずに強化をかける強さの10倍魔力を込めた感じかな」
「10倍になるとどうなるの?」
「おそらくだけど普通の剣で斬りつけられたり、槍で突かれても大丈夫じゃないかな。もちろん斬りつけたり突く側が10倍強化していたら少しは傷つくと思うけれど、大怪我をする前に武器の方が壊れると思う」
「そんな強化があるのか知らないけど、それって魔術師団の小隊や中隊で行うような大魔術じゃない? それを一人で、しかも騎兵中隊全員にかけちゃったの?」
「軍馬にもかけたよ」
「そうだったわね。キーンくんだものね。そこまで強化された騎兵が突撃したら、ただの1個騎兵中隊としても、誰も止めることのできないとんでもない軍隊になる。キーンくん、あなたのやったことは途方もないことなのよ!」
「ごめん」
「何言ってんの? 怒ってるんじゃなくて、びっくりしてるの。キーンくんがこの国に生まれてくれてほんと良かったわ」
ほかの生徒達もソニアの言葉にしきりに頷いている。
そのあと生徒達はひとしきりキーンを褒めて、その場は解散となった。
明日は休日のため王都出身者は今日中に実家に帰る者もいるようで、キーンの話を聞き終わった中の数人は、そのまま玄関に向かって実家に帰っていった。
キーンはゲレード少佐に言われていた明日の食事をお願いするのを忘れないでおこうと思いだしたところ、食堂の脇の壁にかかっている黒板に書き込んでおけばいいとトーマスに教えてもらったので、さっそく明日の3食を記入しておいた。
そのあとシャワーを浴びたキーンは、夕食をとって部屋に戻り、明日の待機中にいつ呼び出しなどがあるか分からないので、約束のクリス・ソーンへの手紙を書き始めた。
クリスへの手紙にはさすがにバツーがダレン軍に囲まれたとか書けないので、当たり障りのない軍学校での授業の内容について書いていった。もちろん、座学もちゃんと受けていると書いている。友達になったソニアやトーマスのことを書こうかなと思ったキーンだが、どう書いていいのか分からなかったのでそれはやめておいた。
手紙を書き終えたキーンはキャリーミニオンを作り出し、畳んだ手紙を持たせて窓を開け、夜空の中クリスのもとに送り出した。送り出したミニオンは距離的にいって10分もかからずクリスの屋敷に到達するはずである。
クリスが返事を書くのにどれくらい時間がかかるか分からなかったので、ミニオンを作るときに込めた魔力はいつもの10倍ほど込めている。今まで丸1日程度ミニオンは飛び回ることができたので、少なくとも一週間はミニオンが生きていると思っている。
キーンによって送り出されたキャリーミニオンは体の中にクリス宛の手紙を取り込んで、王都の上空をまっすぐソーン侯爵家の屋敷に飛んでいき、クリスの部屋の窓辺に到着した。
侯爵家だけあり、クリスの部屋の窓は鎧窓の内側にガラス窓が嵌っている。その鎧窓にキャリーミニオンが軽く体をあててトントンと音を立てる。
「あれ? もしかして」
クリスはちょうど部屋にいたようで、すぐに窓を開けてキャリーミニオンを招き入れた。窓を閉めたところで、キャリーミニオンがクリスの足元にキーンの手紙を落とした。
「ちゃんと約束を守ってくれたわ。キーンが約束を破るわけないから当たり前だけど嬉しい」
クリスは床の上に落っこちた手紙を拾い上げて、机の椅子に腰を掛けて中身を読む。
「キーンは軍学校で結構真面目に楽しくやってるみたいね。こんな夜分の手紙だから明日の休みには一緒に遊びに行けないと思っていたけれど、やっぱりそうみたい。
お手紙の返事に来週のお休みに会おうって書こうかしら。女のわたしから誘うのも何か変だけど、相手はキーンだし、こっちから誘った方がきっといいはずよね。
キーンがいなくなって学校の方はつまらなくなったから、学校のことについて書けないし、うーん。何て手紙を書くのか迷うわね?
ところでこのミニオンいつまでこのままなのかしら? 消えてしまったら大変だから早めに手紙を書かないと。でもキーンのことだからこのミニオンも2、3日くらいはもつかもしれないわ。きっとそうよ。それじゃあ、良ーく考えて手紙を書きましょう」




