第48話 騎兵中隊、バツー解囲
ランデル少佐の突撃命令で中隊は襲歩に移りさらに加速していく。
先頭を走るランデル少佐。星空の下、前方を見れば無数に建つ幕舎の先に敵の王族旗がはためいていた。これぞ天祐。
ここまで来ると、さすがにダレン軍の陣地内も騒がしくなってきた。
横に広がった色とりどりの光の筋が地響きを立ててものすごい速度で迫ってくる。ダレン軍の総本陣内で見回りをする歩哨は大声で警告を発するが、ちょうど寝入りばなの陣地内の動きは鈍い。
鎧を着る時間もなく慌てて剣や槍をとるも、目の前に迫りくる光の塊に立ち尽くす兵士たち。
ダレン軍の野営地に突入した騎兵たちは、立っているものには容赦なくサーベルで斬りつける。斬りつけられたものは人であれ幕舎を支える柱であれ両断されていく。武器を持った兵士たちも騎兵たちがあまりの速さで通り過ぎるため何もできず立ち尽くすだけだった。
敵陣に突入し、ものの1分もかからずランデル少佐は目当ての敵本陣にたどり着いた。ひときわ大きな幕舎の頂上に王族旗がはためいている。その幕舎の近くには10頭余りの馬が簡単な馬立に繋がれていた。
目の前のその幕舎から、剣を構えて数人の兵士が現れた。さすがに鎧は着ていたようだがランデル少佐は通り抜けざまに一人を斬り捨てた。残りの兵士も後に続く騎兵に簡単に切り捨てられた。ここでランデル少佐は襲歩を止め、駆歩まで速度を落とし、馬立に手綱で繋がれていた馬を解き放ち、本陣と思われる幕舎の周りの支柱を片端から両断し始めた。あとに続く騎兵たちも同じように支柱を破壊していく。
幕舎の周辺の支柱を全て叩き切ったところで、ランデル少佐を先頭に各員が馬に括りつけていた勺杖を左手に持ちファイヤーアローを唱え幕舎に火を点けた。他の騎兵たちはグルグルと本陣の周りを駆けまわって敵の接近を防いだり、焚かれていたかがり火をひっくり返して、そこらの幕舎に火をつけて回ったりしていた。
燃える幕舎の中から布を切り裂いて出てくる敵を踏みつけ斬り倒し、一人一人倒していく。身なりのいい敵兵?を10名ほど倒したところで幕舎の中でうごめいている者はいなくなったようだ。その10名の中の一人はひと際身なりがよかった。おそらくその男が敵の総大将だろう。昔ならば首を落として持ち帰るが、さすがにそういった慣習は廃れている。ランデル少佐は、馬上からなにか証拠になる物はないかと見渡したがそれとわかるものは無かった。
そのころにはクロスボウのボルトを何本も射かけられているのだが、ボルトは命中すれば鎧や衣服、馬具には突き刺さるものの、兵士や軍馬の皮膚を破ることはできなかった。
「このまま敵陣を突っ切り、攻城兵器を破壊する」
ここまでの戦いで騎兵たちの武器はかなり傷んでいたので、すでに敵の武器を各自で分捕っているようだ。斬るより叩き壊す方が破壊という意味では適しているため多くの騎兵たちは今では敵から分捕った大型のメイスやハンマーを片手に持って振り回している。
光の一団が周囲に破壊をまき散らしながらダレン軍の陣地内を横断していく。
先頭を走るランデル少佐は左手、南方向に組み立ての終わった大型の投石器が4基並んでいるのを認め、そちらに向かって部隊を誘導していく。
組みあがり、明朝からの投射を待つばかりとなった大型の投石器に向かって騎兵たちが殺到していった。
このころにはダレン軍の他の陣地の兵士たちも異変に気づき動き始めているが、状況を把握できている者はいなかった。
通り抜けざま分厚い木製の大型防楯で守られたダレン軍の攻城用投石器を防楯ごと全て破壊したランデル少佐の近衛兵団騎兵中隊は大きく左旋回して再度ダレン軍陣地に突っ込んでいった。
今回は、敵のクロスボウや投げ槍、アロー系の魔術などの反撃がだいぶ活発化してきたが、騎兵中隊は正面に立つ者以外無視してそのまま敵陣を走り抜け、王都セントラムに続く街道に戻っていった。
こちらはダレン軍。
ダレン軍の総本陣では、攻城用投石器が翌早朝から石塊を撃ちだせば、午前中にはバツーの城門を破壊でき、早ければ明日中にもバツーを陥落させることができると、今回の遠征での最初の戦闘であるバツー攻略戦に対し楽観していた。
そういった見通しの中、ダレンの遠征軍各軍の将軍および副将が総大将デビス・ダレン、ダレン王国第3王子の招きで総本陣に参集し前祝の宴を催していた。
夜も更け、兵士たちの就寝する時刻を過ぎてきたため、将軍たちが自分たちの本陣に引き上げようというところで、光り輝く謎の騎兵の襲撃を受けてしまった。その結果、陣地が遠いため先に自軍陣地に戻っていた右軍の将軍と副官をのぞき、総大将のデビス・ダレン第3王子を始め、前軍、中軍、左軍の将軍および副官が全てサルダナ軍の騎兵と思しき一団によって討ち取られて、組み立ての終わっていた攻城用大型投石器も全て破壊されてしまった。
翌夜明け前、最上位者となったことを知ったダレン軍の右軍の将軍が、他の軍の上位者を自軍の本陣幕舎に集め、今後の方針を話し合った。
「総大将のデビス殿下が亡くなられた以上、ご遺体をもって速やかに国に帰るべきではないか?」
「昨夜の敵襲で総本陣は壊滅しましたが、その他の被害は軽微です。戦果もなくこのまま国には帰れません」
「多少の戦果を上げようが殿下がお亡くなりになった以上、われわれの進退は決まったようなものだぞ」
そこで、運よく生き残った右軍の副官が、
「昨夜の敵襲で、わが方の被害はそれほどでもないという話ですが、わが方は敵兵をただの一兵も斃していません。
それに対してわが方の被害は、殿下を始め、遠征軍の将軍3名副官3名が死亡。その他将兵の死傷は今のところ分かっているだけで600名。その上攻城用投石器は全て破壊されています。
現在の兵力でも目の前のバツーは落とせるでしょうが、想定よりも時間はかかるでしょうし攻城兵器を失った以上消耗もするでしょう。その間にまたあの光の騎馬隊がわが軍を襲撃してきた場合、対応できるのですか?
あの光の騎馬を直接見た魔術師によると、あれは全6種の強化魔術を重ね掛けしていたものだったようです。しかもその強度は6種のうちのたった1つでさえ魔術師集団による集団魔術に相当するほどのものだと言っていました。
さらに驚くべきことは、わが軍では馬への強化など不可能ですが、昨夜の軍馬には兵士同様の強化がなされていたことです」
今の右軍副官の説明を聞いた会議の席がどよめいた。
「うむ。あの光の騎馬は異常なまでの魔力で強化されたということは分かったが、結局なんだったのだ? まさかアービスがまだ存命だったのか?」
「アービスの葬儀がバーロムで行われたことは確かな情報です」
「ということはアービスではない何者か、または魔術師集団が強化魔術を施したということか?」
「魔術師集団としても尋常ではありませんが、新たなアービスがサルダナに現れた可能性も」
「それだけは願い下げだが、今の我らには確かめる術はない。
帰ろう。われわれの処遇は陛下のみ心のままだがやむを得ない。
みんな、異存はないな」
「……」
「陣を畳み速やかに国に帰る」
そのころランデル少佐の騎兵中隊は、バツーから40キロほど離れた街道沿いの駅馬車の休憩所で大休止をしていた。大休止といっても時間待ちの意味合いもあるため、兵士たちには夜が明けて1時間ほど休止すると伝えている。
少佐はダレン軍の動静を探らせるため、バツーに向けて斥候を放っている。
斥候は乗馬ともども目立つ光を相変わらず放っているため敵に発見される可能性が高いが、すでに襲撃は終えており、ダレン軍に追撃されたとしても容易に逃げ切れると判断し敢えて斥候を送り出したことになる。ランデル少佐は斥候の報告を待ち、場合によっては再度ダレン軍を襲撃するつもりだ。
兵士たちは愛馬の世話をした後、休憩所の周囲の木々に馬を繋いで、仮眠をとったあと、今は部隊ごとに車座になって携帯食を口にしながら談笑している。
昨夜の襲撃で兵士たちの鎧や衣服はそれなりに傷んでいたが、誰一人として血を流した者はいなかった。軍馬についてはさすがに襲歩までした関係で、蹄鉄などが傷んだ馬もいたようだが、それも新しいものに取り換えられている。
ランデル少佐の近くには麾下の3人の小隊長たちが集まっている。
ランデル少佐が自分の体が6色の光の帯で波打っているのを見ながら、小隊長たちに向かい、
「ところでこの強化はいったいいつまでもつんだろうな? 今のところ感覚も最初にアービスに強化された時と変わらないし、光も全く衰えていない」
サール中尉がそれに答えて、
「8時間の10倍ということはないでしょうが、4倍はもちそうですね。しかしあのアービスのことですから10倍もあるかもしれませんね」
「4倍としても、32時間か。今日の真夜中までもつわけか。馬たちも元気なものだ。このまま眠らずに作戦を継続できそうだな」
「そうですね。斥候が帰ってきたら休ませて、それから出撃ですか?」
「斥候の報告次第だが、ダレンがバツーに対して力攻めを始めたようなら、また連中の頭を刈りに出撃するつもりだ。こちらの目論見通り敵が退散するようなら、深追いはしない」
ランデル少佐が小隊長たちとしばらくそういった話をしていたら、バツーを囲むダレン軍の様子を確認に行かせていた斥候たちが戻ってきた。
「ダレン軍は陣を畳み始めたか。やはり、昨夜の襲撃で敵の総大将を仕留めた可能性が高いな。よし、あと30分ほど休んだら確認のためバツーまで行ってみよう」
「「はい」」




