第45話 急転。サルダナ軍本営会議
こちらは王都セントラム。
キーンが魔術実技で訓練コースを回っていたころ、ダレンとの国境に接する城塞都市バツーが10万のダレン軍に囲まれつつある、との事態を伝える急使が、馬を乗り継ぎサルダナ軍本営を実質運営する近衛兵団本営に到着した。近衛兵団本営も軍本営と同じく宮殿内に置かれている。
この国難に際し、軍総長は国王ローデム2世の名のもとにサルダナ軍本営会議を招集した。
軍本営会議の出席者は、国王ローデム2世のほか、軍総長トーマ大将および副軍総長ボーア大将、近衛兵団長セカール中将、魔導師団団長タルボット少将、近衛兵団より連隊長5名(サルダナ軍では10個中隊を連隊という)、それにセカール近衛兵団長の指示により近衛兵団でただ一つの騎兵中隊の中隊長が出席している。騎兵中隊の中隊長はあのランデル少佐である。
議長を務めるのはサルダナ軍副総長のボーア大将。
「北方に注意が向き、南東方面がおろそかになったことは否めないが、第1兵団が移動中でなくとも、10万のダレン軍に抗することはできない。バツー救援に第1兵団を向かわせるべきか、否か? 北方の第2兵団、北方に移動中の第3兵団も含めてわが軍をどう動かすか詰めていく必要がある」
副総長の発言を受けて、セカール近衛兵団長が、
「副総長。北方の守りの要、クジー要塞は3000人の定数があれば、こちらから打って出ない限り1カ月は持ち堪えることができます。その他の第2兵団の兵はわが近衛兵団を含め全てバツー方面へ投入すべきではないでしょうか?」
「王都の守りの要である近衛兵団を全力では出せんだろうが、北の守りは第2兵団から北へ送られた先遣の増援部隊だけでも何とかなるだろう。
残りの第2兵団主力と第3兵団については南へ移動させた方がよかろう。ただ、ダレン軍に当たるのは第1兵団と合流後でないと簡単に各個撃破される。第2、第3兵団はここ王都で合流させ、その際近衛の一部、そうだな、防衛戦では不向きな騎兵隊も付け加えよう。
各兵団の動きについてはそれでいいとは思うが、合流後、優勢な敵軍にどう当たるかが問題だ。合流したとしても単純に当たれば、いくらわが軍の兵士が精強といえども数で負けている以上力負けする可能性もある。ただ、われわれは敵を撃退するだけで撃滅する必要はない。敵の弱点を突き、追い払うことができればいいのだがな。何か良い手、ないし意見はないかな?」
その後、近衛兵団の連隊長たちが各々意見を出していった。
「すでに敵軍はわが国に攻め入っていますので、後続の輜重を襲撃しても、食料などはわが国の住民から徴発するでしょうから、あまり痛手にはならないかもしれません。バツーから王都までの進撃路の住民の避難を急がせる必要があります。その際食料などを持たせれば、ダレン軍の徴発を抑えられるかもしれません」
「住民の避難については、至急軍本営から各都市に使者を出そう」
「ダレン軍の本陣には王族の所在を示す旗が立っていたという情報もありました。なんとか、敵の本陣に一撃を加えることができれば、ダレン軍は撤退するのではないでしょうか?」
「それができれば、ダレン軍が撤退する可能性は大いにあるが、そう簡単ではなかろう」
そこで、この会議室の中で、最も階級の低い近衛兵団騎兵中隊の中隊長であるランデル少佐が、
「近衛兵団騎兵中隊中隊長ランデルと申します。近衛兵団長閣下には報告しておりますが、かの大賢者テンダロス・アービス師のご子息、キーン・アービス殿が軍学校に通っています。私自身は軍学校で馬術の実技講師もしています」
いきなり、下級者からのズレた発言に周囲が戸惑っている中、ローデム2世が、
「私も聞き及んでいる。続けてくれたまえ」
「はい。
アービス殿は、若干13歳ではありますし、私自身、故アービス師を直接存じ上げているわけではありませんが、すでに故アービス師の全盛期を越える魔術師ではないかと思っています」
副軍総長ボーア大将があまりのことに、
「なにか具体的なことでもあるのかね?」
「彼は、軍馬に対して全6種の強化魔術をかけることができます」
そこで、この会議に出席していた魔術師団団長のタルボット少将が、
「そんなことはあり得ない。他人を含む生き物や物体には強化魔術をかけることができないというのは魔術界の常識だ!」
「そう言われましても、私は実際目にしていますし、私の助手を務めていたわが中隊の中尉もその場にいた50人ほどの生徒たちも見ています。さらに言えば、私の助手はアービス殿に同じように全6種の強化魔術をかけてもらっています。6色の光の帯が輝いて見事なものでした」
副軍総長のボーア大将が半分いら立って、
「わかった、それでランデル少佐、きみは結局何が言いたいのかね?」
「私の騎兵中隊全騎、人馬諸共アービス殿に強化魔術をかけてもらうことで、敵の本陣に突入できるのではと考えました」
そこで、またも魔術兵団団長のタルボット少将がランデル少佐に向かい、
「騎兵中隊全騎となると100騎ではないか。人馬諸共となると200回の強化魔術。そんなことが一人の魔術師の手でできるはずがなかろう」
「いえ、本人によれば、基本的に強化の回数は際限ないとのことでした。さらに強化の持続時間ですが、実測したところ8時間ほどありました」
「なるほど、少佐の話が真実なら、騎兵隊による襲撃も可能かもしれん。あくまでその話が真実ならばな」
ボーア大将がそれでその話を打ち切ろうとしたところを、ランデル少佐の話を聞いていたローデム2世が、
「ランデル少佐、勝算はあるのだな?」
「はっ! 必ず敵将を討ち取ります」
「わかった。その作戦をすぐにでも進めてくれたまえ」
「はいっ!」
ランデル少佐は上司に当たる近衛兵団長のセカール中将が頷いたことを確認し、会議室を出て自身の中隊へ戻っていった。
これまで発言を控えていた軍総長を務めるトーマ大将が、
「陛下、よろしいのですか?」
「ランデル少佐の話は本当だ。グッドオールド軍学校校長から報告を受けている」
トーマ大将は大きく頷いて、
「グッドオールド退役大将殿から陛下へお話があったのですか。理解いたしました」
「私がいては議論百出とはいかないだろうからそろそろ席を外そう。あとの兵団の動きと作戦を今の話とは別に詰めていってくれ」
「はいっ!」
ローデム2世の退席後、各兵団の動きについての無難な結論を得た後、軍本営会議は引けた。
軍本営会議を終えた魔術師団団長タルボット少将は魔術師団の本部に戻り、副官を呼びつけた。
「あのテンダロス・アービスに養子がいたことをきみは知っていたかね?」
「いえ、存じません」
「まだ13歳にもかかわらず、あのテンダロス以上の天才だそうだ。陛下もご存じだという。それが現在軍学校に在籍中ときた。魔術大学付属校ではなく軍学校だぞ!」
「実技では魔術大学主席をしのぐほどの実力を持ちながら座学が成績不良で先日付属校を放校になった生徒がいると聞きましたが、もしや、その生徒が軍学校に特例か何かで編入したのでは」
「きみはどうしてそんなことを知っているのかね?」
「はい。私の魔術大学時代の同期の者が付属校で実技の教師をしており、その者から聞き及びました。軍学校には本部からマルス大尉を出向させていますので、直に報告が上がってくると思います」
「それだけの実力がある者をタカが座学の成績で放校とするとは。
付属校の校長は誰だったかな?」
「たしか、魔術師団本部から出向しているエッケル大佐だったと思います」
「ふー。エッケルか。魔術師団は常に実力のある魔術師を求めている。わたしの方針を知らぬわけではないだろうに。そろそろ、校長の替え時だな。次の校長にはその辺をよく理解させてくれたまえ。エッケルは魔術師としてはそれほどでもない男だ。このまま予備役に入れてしまえばいいだろう」
「了解しました。そのように手配します」
「うむ」




