第40話 キーン、補習(いのこり)授業を受ける2
ゲレード少佐の話を聞き、自分のできることは強化しかないのだろうかと考えたキーンだが、今のところ強化を依頼されれば精いっぱい強化をかけるくらいしか思いつけなかった。
キーンは敵を斃す攻撃魔術は多く知っているが、そういったものでの貢献はたかが知れているし、戦いの素人である自分がのこのこと戦場に出る危険も認識できている。
結局その日の訓練は、少佐の生徒たちへの状況説明後、二人一組に分かれてのいつも通りの立ち合い訓練になった。二人一組になった場合、キーンは本来ソニアと二人組を作ることになるのだが、さすがにそれは難しいので、
「アービス、悪いがお前は邪魔にならないところで素振りをしていてくれ。
アブリルは、私と立会訓練だ」
「「はい」」
結局キーンは素振りになってしまったが、訓練不要とまで言われなかったことにホッとしていた。
30分ほど立ち合い訓練が続いたところで、午後からの訓練終了の鐘の音が聞こえてきた。
「それでは、今日はここまで。用具を仕舞って解散!」
「「ありがとうございました」」
生徒たちは用具や革鎧、それに使用した武器を道具置き場に返して、更衣室に戻っていった。
着替え終わり教室に帰ったみんなは各自荷物を持って寮に帰っていったのだが、キーンには居残り授業が待っている。
一番前の席に出て、ゲレード少佐を待っていたら、10分ほどで服を着替えた少佐が現れた。
「アービス、今日は補習はやめて、少しお前のことを聞かせてくれ」
「はい?」
「私は正直、お前のことを大賢者テンダロス・アービスの養子だから、それなりに魔術はできるのだろう、というくらいにしか考えていなかったんだ。だが今はその歳で既に大賢者をしのいでいるのではないかと思っている。私自身は大賢者に会ったことはないのでそこは想像だがな。少なくともアービスの強化魔術だけでも画期的だ。
軍は兵士に対して同じ水準で一定の働きができることを求めており、そのように訓練している。そうすれば兵士を単純な数として扱うことができるから、指揮をする上でも非常に都合がいい。同じ条件なら10人の部隊より11人の部隊の方が強いと判断でき、進むか引くかの判断も容易になるからな。だがお前は違う。たった一人でも戦況に大きな影響を与えることができる。だからこそ私はお前のことがもっと知りたいわけだ」
ゲレード少佐の今の話を聞くうちにキーンに閃くものがあった。
「あのう、指揮官が判断するためにいろいろな事柄は単純化するに越したことはないということは理解できますが、敵の数や位置などを正確に把握することが大切ではないでしょうか?」
「まだお前には偵察について教えていなかったはずだが、その通りだ。何かあるのか?」
「今の軍で使っているのかどうかは分かりませんが、パトロールミニオンというもので周囲を警戒することも、周囲の状況も把握できます。偵察?ができると思います」
「パトロールミニオン? 私は聞いたことがないが、どういったものなのだ?」
「見た目は30センチほどの球ですが、それが指示したところに飛んでいって様子を探ることができます。パトロールミニオンの見ている物は自分でも見ることができますし、パトロールミニオンの聞いている音は自分でも聞くことができます。そういったものなので、一度に見聞きできるミニオンは一つだけなので作るだけなら何個でも作れますが、せいぜい20個くらいが限度かもしれません」
「わざわざ斥候が敵情の把握のために出歩かなくてもいいわけか?」
「そういった使い方もできますが、ミニオンは大まかに指示を与えているだけで勝手に動き回れますから、敵の守りが最も固い、例えば本営のようなところに潜り込ませることもできると思います」
「本当か? いや、お前が言っている以上本当なんだろうな。今そのパトロールミニオンとやらを見せてもらえるか?」
「はい。パトロールミニオン!」
キーンのその言葉で、教壇の真上に鏡のような表面をした30センチほどの球が浮かんだ。
「これがパトロールミニオンか。表面が鏡のようになっているので周りが歪んで映っているな」
「これだと、ちょっと目立ちますね。それでは、一度サイコロの形にして、角をとって平べったくして、……、これだとどうでしょう?」
目の前のミニオンが消えて、代わりに表面が正方形と正三角形で囲まれた立体が現れた。これだと映った像が折れ曲がってはいるが歪んでいないため野外では見分けづらそうだ。
「すごいな。これが敵に向かって飛んでいくわけか。何キロくらい先まで飛ばせる?」
「気にしたことはないのでどこまで飛んでいけるのかは分かりません。なのでどこまでもとしか分かりません」
「そうだったな。アービスだものな。それで、このミニオンとやらの打たれ強さはどんな感じだ?」
「私がファイヤーアロー100を撃ち込めば壊れるかも知れません」
「ファイヤーアロー100とは?」
「ファイヤーアローを100発纏めて、一度の魔術の発動で的に向かって撃つようにしたものです」
「これも良くわからんが、アービスだものな。それなら、ファイヤーボール100なんかもできるのか」
「はい、100でも1000でも変わりません」
「やっぱりそうか。アービスだものな」
ゲレード少佐は、その辺りについては考えることを止めて、アービスの一語で片付けることにしたようだ。
――アービスを兵団本営に置くことができれば、その兵団は圧倒的に有利になるのは確かだ。ただ、軍学校の生徒とはいえ、まだ子供のアービスを兵団本営に置くことはできない。その辺りが悩みどころではある。ただ、自分を含めて、強化した上あの黒い大剣を持ったアービスを傷つけることのできる戦士などこの国を含め周辺国にはいないと断言できる。
「あと、何か変わった魔術はないのか?」
教壇の上ではパトロールミニオンがゆっくり回っている。
「うーん。自分ではどういったものが変わっているのかは分からないので、こういったものはできないのかと言われれば、できるできないでお答えできます。できない事でも何か思いつくこともあるかもしれません」
「そう言われるとこちらも難しいな。何せ頭の中にあるのはこれまでの軍の常識しかないからな。そうだ、軍では陣地を作って防備を固めるのだが、その際、掘り返した土を盛って土塁を作っている。兵団に配属された魔術兵が魔術で手伝ってくれるがあまり仕事は捗らない。こういったこともアービスならできるんだろ?」
「それも試したことはありませんが、目の届く範囲なら簡単に地面から土を掘り上げてそれで土塁?を作ることは可能と思います。そうですねー、地面をいくら掘ってもいいなら、いくらでも大きな土塁が作れると思います」
「なるほど、やはりアービスだったな」
ゲレード少佐はキーン・アービスには軍人が考える程度のことで不可能はないと思い始めた。




