第37話 キーン、大剣『龍のアギト』を持参し武術実技に参加する。
やる気十分で午前中の座学を終わったキーンは、みんなと連れだって食堂に移動した。
「キーンくん、今日は昨日以上に真剣だったわね」
同じテーブルの向かいに座ったソニアがキーンに話しかけてきた。
「どの授業も新鮮で、面白いんだよ」
「そうなんだ。あなた、軍人に向いているのかもしれないわね」
「そうかなー? 知らないことを新しい知識として頭の中に入れていくのが楽しいだけなんだけどね」
「まだ見てないけれど、キーンくんは大剣も得意なんでしょ?」
「試合したことなんてないからはっきりは分からないけど、たぶん得意だと思う。ところで、今日の昼からの武術の実技ってどんなことするの?」
「各人が得意な武器を持って訓練するんだけど、私たちは将来指揮官になるわけだから、片手持ちの長剣を使う人が多いわ。長剣といっても訓練用の木の長剣ね。剣の他には槍とかメイスといったところかしら。それで、初めはゲレード少佐が回って来て型や動きを注意してくれるの。そのあとは木の人形相手に打ち込みね。後半は、二人でペアになって試合形式で練習するのよ。ゲレード少佐は立ち合い訓練って言っていたわ」
「面白そうだね」
「立ち合い訓練はお互いに叩き合うわけだから防具はつけていても結構痛いし、ケガもするのよ。でもキーンくんが編入してくれたおかげで、生徒数が偶数になったでしょ。私はいつもあぶれてほとんど先生との立ち会い訓練だったからありがたいわ」
「そういえば、その実技の授業中は身体強化をかけてもいいの?」
「問題ないわ。戦争する時は敵味方とも身体強化も含めて戦う訳だもの。私たちじゃあ発動体を使って身体強化をかけたとしても3分が関の山だし、発動体が邪魔になるから、ほとんどの人は身体強化の魔術は使わないみたい。もちろん私も」
「そうなんだ。ほんとに強化していいのかな? 自分じゃわからないけれど、僕が強化をしちゃうと、僕が振るう大剣を人の目では追えないとかアイヴィーが言ってたんだけど」
「キーンくんの言うアイヴィーってあのアイヴィーさんよね」
「きっとそのアイヴィーだと思うよ」
そんな話をしていたら、遅れてやってきたトーマスがキーンの隣に座って、
「何々? 二人で何の話をしてるの?」
「それがね、キーンくんが『強化』をかけて大剣を振るうと、人の目では追えなくなるってあのアイヴィーさんが言ってるんですって」
「本当かよ? って、アイヴィーさんが言ってるんなら本当なんだよな。すごいな。それだと、ゲレード少佐にも簡単に勝っちゃうんじゃないか?」
「ゲレード少佐はどんな武器を使うの?」
「少佐はなんでもだけど、得意なのはハンマーかメイスじゃないかな」
「そうかなー、俺が見るにあの人はキーンと同じ大剣じゃないか?」
「いずれにせよ、ゲレード少佐は体格いいし力が強そうだから、そういったイメージよね」
そんな話をしながら昼食を終えたキーンたちは、いったん教室に戻った。
キーンは布袋に入れて持参した武術実技用の装備と『龍のアギト』を持って、他の生徒達と一緒に更衣室に向かった。
胴着に着替えて革のブーツだけを履いてヘルメットとガントレットを手に持って向かった先は、武術訓練場という名前の大きなアリーナだった。トーマスによると、この訓練場は入学式や始業式に使われる他、付属校との交流戦の会場にもなるということだった。
まだ時間があったが、すでに武術担当のゲレード少佐は馬術担当のランデル少佐と訓練場の真ん中あたりに立っていた。ゲレード少佐は武術の教官らしく黒を基調とした防具を身に着けていた。
キーンが訓練場に入っていくと、
「アービス、さっそくだがその大剣を見せてくれ」
二人の教官から催促された。
キーンは急いでゲレード少佐とランデル少佐のところに駆けていく。『龍のアギト』にはいつものように布で巻いている。
少佐二人に急かされながら巻かれた布をとっていくと中から真っ黒い『龍のアギト』が現れた。
「お、お、お、おーー。凄いな。禍々《まがまが》しさが漂ってくるような迫力があるな。刃は立っていないようだが、これは打撃武器になるのか?」
「いえ、刃はありませんが、これで大抵のものは切り飛ばせます」
「そうなのか。にわかには信じられんが、お前が嘘をつくとは思えんし、試せばいいだけだしな。あとで見せてもらおう」
「アービス、黒い剣身に吸い込まれそうだ。この大剣が元が木だったとは全く信じられないな。しばらく私は訓練場の脇で様子を見ている」
ランデル少佐はそう言って授業の邪魔にならないよう訓練場の隅の方に歩いていった。
そこで、午後の始業を知らせる鐘の音が聞こえてきたので、ゲレード少佐が生徒たちに向かい、
「みんな整列! 準備運動始め! 休暇明けで体がなまっている者もいるだろうからしっかり準備運動しろよ」
整列した生徒たちが、例の準備運動を始めた。キーンは昨日の馬術の時間見よう見まねではあるが一度やっているので今日はかなりスムーズに準備運動することができた。
「それでは各自、革鎧を着て、武器を持って素振りだ。ちゃんと、前後左右の距離をとれよ。
アービスは、その大剣で素振りしていいが、少しみんなとの距離をとっておけ。それと、肉体強化などの強化系魔術はいくら使っても構わない」
生徒たちはいったん駆け足で道具置き場に向かい、自分に合った大きさの革鎧を着けて、それぞれの木製武器を手にして戻ってきた。用意されていた革鎧はヘルメットを脱いで頭からかぶり、各所を革紐のバックルで止める形だったので一人でも短時間で着ることができた。キーンもみんなを真似て革鎧を着て、ヘルメットとガントレットを着けた。
準備の終わったキーンは指示された通り、他の生徒たちとは少し離れたところで素振りを始めることにした。
『龍のアギト』を片手で持ったキーンは、ゲレード少佐の許可も出ているので久しぶりに『強化』を自分自身にもかけておいた。
6色の光が波打ちながらキーンを覆う。屋内のため6色の光がよく目立つ。
キーンの近くで素振りを始めようとしていた生徒たちがざわつき始めた。
ゲレード少佐がすぐにキーンのところまでやって来て、
「これがアービスの『強化』なのか。サール中尉が言っていたが凄まじいな。しかもこれが放っておいてもいつまでももつんだろ?」
「解除しない限りは、おそらく寝ていてもそのままだと思います」
「お前には何でもありだな。それじゃあ、その状態で適当に素振りをしてみてくれ」
「はい」
素振りといっても他の生徒達がどういった訓練をしているのか分からなかったので、いつも通り突きからの練習を始めることにした。
「1」キーンの掛け声と同時に、ビシッ! という音がする。
「2」
……。
ゲレード少佐にもランデル少佐にも確かにキーンの声は聴こえた。しかし、キーンの体がぶれたところまでは認識できたが大剣の動きはおろか腕の動きすら認識できなかった。もちろん周りで見ていた生徒たちはそれ以下である。
ゲレード少佐は、
――この状態のアービスに剣で戦いを挑んで勝てる者がいるのだろうか? この剣速なら、フェイントなど無意味だし、確かに盾だろうと武器だろうとどんなものでも切り飛ばせる気がする。到底私では太刀打ちできんから、あとでアービスと立ち会い訓練をしたときアービスには受けだけをさせてみるとするか。それで私の攻撃をしのぐようなら防御も完璧と見ていいだろう。
――「10年に1度の逸材」と昨日は単純に期待していたが、100年に1度の天才と改める必要がありそうだ。
――ここは、アービスの使い方をよく考えなければならない。自軍に強化をかけさせるだけでも凄いことになりそうだが、アービスがここを卒業して本当の意味での軍人になったら敵の本陣に突っ込ませるのもアリだ。
――待てよ。魔術の天才。剣の天才。果たしてアービスはこれだけなのか?
一方ランデル少佐は、
――百聞は一見にしかずではあるが、未だに信じられん。ただ、人馬諸共強化をかければ、とんでもない騎兵隊ができ上る。これだけは確かだ。アービスのことはゲレード少佐が校長に報告するだろうから、私からは、近衛兵団長に報告しなければならんな。
そのあと、ランデル少佐は、あまりゲレード少佐の実技授業の邪魔するわけにはいかないと思い、ゲレード少佐に軽く会釈して訓練場を後にした。




