第36話 キーン、将来を考える。
補習から寮に帰ったキーンはみんなに出迎えられ、強化のことや大剣について質問された。それに一々答えながら自室に引き上げたキーンは普段着に着替え、その後すぐに水シャワーを浴びた。
いったん部屋に戻ってしばらく椅子に座って今日のことを考えていたら、午後6時の鐘が鳴ったので、食堂に下りて行き夕食を食べた。どこに行ってもみんなに声をかけられる。入寮してたった二日でキーンは3号生徒の中で人気者になったようだ。
そんな中、みんなキーンの大剣については特に興味があるようだったが、個室についてはプライベートが尊重されているようで、わざわざ黒い大剣を見せてくれと言ってキーンの部屋を訪ねる者はいなかった。
学校初日はいろいろあった関係か、早めにキーンは就寝した。
こちらは、キーンの担当のゲレード少佐。キーンへの補習を終えて、学舎内の彼女の教官室に引き上げた。
「資料によると、アービスは座学の成績不良により放校とあるが、成績不良とはとても思えんな。しかもいたって素直だ。いずれにせよ、うちの生徒になった以上もうこっちのものだ。ランデル少佐が言っていたことを考え合わせると、10年に1度の逸材かもしれない。これは笑いが止まらんな」
などと、一人ニヤニヤしていた。
「付属校との交流戦はうちではあまり重視してはいないが、こう負けが込んでいると、生徒たちの士気にもかかわるから、アービスを来年の交流戦に出しても良さそうだ。付属校の連中も、自分たちが放り出した生徒、しかも2号生徒に敗れればさぞかし悔しかろう。アハハハ」
ゲレード少佐は、今日は気分よく自室で酒が飲めると思い、教官室を出て、学校内の職員用の宿舎に帰っていった。
翌日。
キーンは、朝食を終えて、ノートの入ったカバンと昨日さんざん持参するよう言われていた黒い大剣『龍のアギト』を忘れず手に持ち、胴着と武術実技用の革のガントレットと革のヘルメット、それに革のブーツを布袋に入れて寮を出た。ちなみに、キーンは教科書を忘れることの無いよう全ての教科書を教室にある自分のロッカー内に置いたままにしている。
付属校でもそうだったが、この軍学校でも教科書を使うような宿題は出ないようだ。そのかわり、真面目な生徒は予習復習のため教科書を寮に持ち帰っている。聞けば、ソニアとトーマスも教科書とノートを持ち帰っているという。キーンはノートだけはまねして持ち帰っているが、キーンの辞書には予習、復習は無いので、ノートを寮で開いてみることを思いつくことはない。
とはいえ、まじめモードの時のキーンは、一度読んだことや聞いたことは簡単に覚えることができるので、新しいことは教科書を見ながら授業を受けていれば十分だし、自分から改めて授業内容を勉強し直すという発想が浮かばないようだ。
大きな荷物を持って寮を出たところで、他の生徒達にジロジロ見られたが、適当に朝の挨拶をしながら教室に入った。
教室には半分くらいの生徒がすでに登校していたので、キーンの大きな荷物を見た生徒たちが寄ってきた。
生徒達がキーンを囲んだ中、トーマスが、
「それが、キーンの大剣なんだよな?」
「そう」
「見てもいいか?」
「巻いてある布をとるからちょっと待っててくれるかい」
くるくると巻いていた布をほどくと、中から切っ先から鍔まで真っ黒い剣身の大剣が現れた。
「ウオー! すごい!」
みんなが驚く中、
「刃に触っても切れはしないけれど、僕が振るえば、たいていのものは切れるよ」
「ほんとか? 例えば鋼も? いや、いくら何でも鋼は切れないよな?」
「切れると思うよ。トーマスは知ってるかな、この学校と付属校との交流戦で出てくる鋼柱があるんだけど、あれくらいなら簡単に切り飛ばせると思うよ」
「俺はこの前、交流戦を見に行ったから知ってる。あんな太い鋼柱が切れるのか?」
「実際はやったことないけど、簡単だと思うよ」
「見てみたいなー。何かないかな?」
「教室の中で振り回すわけにはいかないから、午後の武術の時間まで待ってくれよ」
「そうだった。こんなところで机でも壊したら大ごとだしな。午後楽しみにしてるよ」
「うん」
周りにいたみんなもそれで納得したようなので、キーンは階段教室の上まで登ってロッカーに防具類を入れた袋と『龍のアギト』を入れ1限目の教科書を取り出して自分の席に着いた。
すぐに隣のソニアもやってきたので、雑談しながら教官が教室に現れるのを待っていた。ソニアの話だと、連絡事項や特別な指示などがあるときはゲレード少佐が授業前にやって来るそうだが、今日はゲレード少佐が現れることもなく1限の担当教官が現れ授業が始まった。
今日の1限は『戦史』の時間で、キーンは一番期待している授業だった。頭の中では夏の間に読んでいた冒険小説のようなものを想像していたようだが、実際は全く違った。ただ、期待は外されたが『戦史』はキーンの琴線に触れたようで、熱心に先生の話を聞きながら、板書をノートに書き写していった。隣りで同じようにノートをとっているソニアから見てもキーンの熱心さが伝わってくるほどのものだった。
2限目は『戦術論』、3限目は『世界史』、4限目は『地理・地誌』と続いた。3限4限は昨日の居残り補習で少しかじっていたが、2限の『戦術論』は1限同様初めての話だったので、キーンはこれも食い入るように授業を受けた。
キーンは将来については、軍学校に編入したこともあり漠然と軍人になるのだろうと思っていたのだが、どうも『戦史』や『戦術論』といった方面が自分に向いているような気が早くもし始めていた。傍から見れば、魔術と大剣を使いこなす、実戦派のキーンなわけで、その方面へ進むことはかなり難しいと言える。




