第29話 キーン、軍学校で昼食をとり雑談する。
1限は付属校で『国内地理』は習っていたキーンだが、初めての『地理・地誌』だったこともあり、ソニアに教科書を見せてもらいながら、先生の書く黒板の板書も真面目にノートを取っていった。
キーンのいるサルダナ王国は北にセロト、北西にローエン、西と南にダレン、東にギレアという4か国に囲まれている。ギレアとの関係はほぼ良好だが、残りの3国とは友好とは言い難く、その3国は隙あらばサルダナに攻め入る機会を狙っているのが現状だ。特にダレンは、過去にテンダロス・アービスとアイヴィーにより手痛い敗北を喫しており反サルダナ感情が根強い。
国名くらいはキーンにもなじみがあったが、どういった国なのかといった知識は全くなかったので、かなり勉強になった。
2限との授業の合間、キーンの元に学校の職員と思われる人が教科書を一そろい持って来てくれた。礼を言って、教科書を受け取り、次の授業の教科書を残して、教室の後ろの空いたロッカーの中に入れておいた。
付属校の時とは大違いで、2限、3限、4限と午前中の授業を興味を持ちつつ真面目に終えたところで、隣のソニアがキーンに、
「それじゃあ一緒に食堂に行きましょう。案内するわ」
そう言ってくれた。
ソニアの他にもキーンと一緒に食堂に連れだって行ったため10人ほどのグループになってしまった。トーマスも一緒だ。
連れていかれた学校の食堂は、寮の食堂が広くなったようなものだったが、いわゆる1号生徒、2号生徒もいる。ソニアの話によるとキーンたち3号生徒と2号生徒は入り口から手前の3分の2、そこが空いていればどこに座ってもいい。その代り窓際の3分の1は1号生徒の領域で、そこに空きがあっても2号生徒、3号生徒が座ることはできないという暗黙の決まりがあるそうだ。もちろん1号生徒はどこで食事をしてもいいが、基本は窓際の指定席で食事をとるらしい。
キーンたちは配膳口に並んでトレイを受け取り空いた席に着くが、10席も固まって場所が取れなかったので結局バラバラに座ることとなった。キーン、ソニア、トーマスは運よく3人で固まることができた。
キーンたちの年齢で2歳も歳が離れていると、はっきりと体格に現れるようで、キーンが食事しながら周りを見回すと、指定席に座る1号生徒たちはみな体格が良かった。さすがは軍学校だとキーンは素直に感心した。
3人で食事しながら、
「そういえば、午後からの馬術だけれど、キーンくんは馬に乗れるの?」
「いや、今日が生まれて初めて」
「私もこの春初めて乗ったけど乗馬は楽しいわよ」
「俺もこの春初めてだったけど、ソニアと違って未だにうまく乗れない。俺はきっと馬に嫌われている」
「トーマスは馬をかわいいって思ってないからじゃない?」
「確かに犬は好きだが馬はちょっとな」
「好き嫌いは仕方ないけれど、なるべくそれは表に出さないようにしたほうがいいわよ。馬ってそこらへんちゃんと分かってるから」
「なるほど、ソニアの言うように今日は頑張ってみよう」
「じゃあ、僕も馬をかわいいと思って乗るようにしよう」
「キーンくんは今日は馬選びからだと思うわよ。空いている馬が何頭かいるはずだからその中で自分に合った馬を助手の人と相談して決めるの」
「俺たちも馬選びをしたけど、みんな一斉だったからバタバタしたしその割に時間もなくて適当だったんだよな。その点キーンはじっくり選べていいかもしれない。せいぜい、いい馬を選ぶんだな」
「どういった馬がいい馬なのかもわからないけれど、助手の人と相談して僕にあった馬を選んでみるよ」
「馬なんて軍に入って騎馬隊に入るか相当偉くならないと乗れないから、焦る必要はないけれど、乗れないと困るからな」
キーンたちが昼からの馬術実習の話で盛り上がっていたら、キーンの隣の席が空き、そこにどう見ても1号生徒に見えるガタイのいい生徒がやって来た。
その生徒が、キーンに向かって。
「きみが、異例の編入生のアービスくんか?」
「はい。キーン・アービスです」
「ふーん。ただの魔術師崩れかと思っていたが、良い顔つきをしている。期待してるぞ」
ここでも期待されてしまった。訳が分からないものの、一応無難に、
「はい。ありがとうございます」
と答えておいた。キーンもだいぶ世慣れてきたようだ。
3人とも食事が終わってトレイを持って立ちあがったら、ソニアもトーマスも先ほどの1号生徒?に向かって、
「「失礼します」」とことわったので、キーンも慌てて「失礼します」とことわった。
下膳口にトレイを返して教室に向かう途中、
「さっきの人は誰なの?」
「そうか、キーンは知らなかったんだな。あの人は1号生徒代表のハンス・マクフィールドさんだ」
「生徒代表は各学年に1名いるの。1号生徒の生徒代表は2号生徒の時の成績トップの人、2号生徒の生徒代表は3号生徒の時の成績トップの人、3号生徒の生徒代表は入学試験での成績トップの人。つまり私ってこと」
「ソニアが3号生徒の生徒代表だったんだ。凄いね!」
「キーン、確かにソニアは凄いが、3号生徒の生徒代表なんてあまり意味はない。そのかわり、1号生徒の生徒代表は、軍に入ってよほどのことがない限り将官になる」
「へー、そうなんだ」
「そうなのよ。本当は卒業時の成績次第なんだけど、1号生徒の生徒代表が1年間で順位が下がることは病気や大怪我でもしない限りほとんどないからまず学年トップで卒業するのよ」
「ソニアの場合、このまま1号生徒になっても生徒代表のような気もするけどな」
「トーマス、嬉しいことを言ってくれるのね」
「俺もお前の実力は認めてはいるんだぜ」
「ありがと。私も2位のトーマスに抜かされないよう頑張るわ」
二人の話を聞いていると、トーマスは学年2位の成績のようだ。学年といっても50名ほどの学年だが、それでもすごい二人と知り合いになれてラッキーだとキーンは素直に喜んだ。キーンは付属校の時も筆記試験トップのクリスと友達になれたことを思い出し自分はかなり運がいいようだと思い始めている。




