第28話 キーン、軍学校初日を迎える。
そんなこんなで入寮初目を終えたキーンはベッドでぐっすり眠り、翌日の登校初日を迎えた。
1階にある洗面所まで下りていき、他の生徒達と朝のあいさつをしながら顔を洗って歯を磨き、部屋に戻って着替えをしてもう一度1階に下りていって食堂に入った。
「おはようございます」
そう言って食堂に入っていくと、キーンに気付いた生徒たちが『おはよう』と言ってくれる。
配膳口には朝食が乗っかったトレイが並んでいた。奥にいたおばさんに向かい、
「おはようございます」
「アービスくんね。おはよう」
昨日の夕食時と同じように空いた席で朝食をとっていたら、トーマス・ブルマンが隣の席に座った。
「おはよう、キーン」
「おはよう、トーマス」
二人で並んで朝食を食べていたら、キーンの向かいにソニア・アブリルが座った。
「おはよう、キーンくん、おはようトーマス」
「「おはようソニア」」
「あなたたち、もうお友達になったのね」
「きのうシャワー室でキーンと仲良くなったんだ」「そう」
「ふーん。ねえ、……」
そのあと、三人で会話しながら食事をしていると、昨日の夕食の時のように生徒たちが集まってきた。ソニアもトーマスも人気者らしい。そのあと食事を終えた生徒たちは、めいめい自室に帰っていった。
キーンは部屋に戻りさっそく制服に着替えた。授業は7時半からだが、校長先生にあいさつし、担任の先生を紹介してもらわないと、どこに行っていいのかもわからない。
数冊のノートと筆記用具を入れたカバンと今日初めてだが乗馬用の服を入れた包みを持って部屋を出て、階段に向かって廊下を歩いていたら、途中の扉が開いて制服を着たトーマスが出てきた。
「ちょうどよかった。キーン、まずは校長のところに顔を出した方がいいだろうから連れて行ってやるよ」
キーンは誰かに道を聞こうと思っていたところだったので非常に助かる。
歩きながら、トーマスが説明してくれた。
「キーン、うちの校長の名前はフォールマン・グッドオールド。退役大将なんだ」
「そんな偉い人なんだ」
「なんでもグッドオールド校長は現役時代、キーンの義理のお父さん、テンダロス・アービスとアイヴィーに危機を救ってもらったことがあるといってたぜ。何度もその話をしてるからみんな知ってるんだ。どうもうちの校長、大賢者の物語に出てくる近衛兵団長だったらしい」
「へー、そうなんだ」
アービスはトーマスに連れられて、校長室のある学舎に向かっていった。
「ここが校長室だ。それじゃあ教室で」
「トーマス、ありがとう」
トーマスは教室に向かっていった。ここからは一人だ。
「失礼します。軍学校に今日から編入するキーン・アービスです」
こういった学校では力一杯の方が合っているような気がしたキーンは、大声で校長室の扉に向かって名前を告げた。
『入って良し!』
部屋の中から若い男の声がした。
扉を開けて中に入ると、声の主と思われる軍服を着た若い男が立っており、窓際の大きな机の後ろに髪の毛が全くなくなった70歳くらいの男の人が立っていた。髪の毛がないくせに鼻の下には白いものが幾分混じっているが立派なひげを蓄えている。顔は日に焼けてその髭面が精悍に見えた。
「キーン・アービスくん、待っていたぞ」
その髭の人物に声をかけられた。
キーンはどういっていいのか分からなかったので、当たり障りのないように、
「おはようございます。キーン・アービスです」
そう答えておいた。
「おはよう。私がこの軍学校の校長のフォールマン・グッドオールドだ。楽にしてくれたまえ」
そう言われても何をどう楽にすればいいのか分からなかったので、キーンはそのまま立っていた。
「キーンくん、アービス殿が亡くなったのを知ったのが葬儀の終わった後だったため失礼してしまった。許してくれたまえ。アービス殿には私が現役時代随分お世話になっていてな。そうそう、アイヴィー殿は健在なんだろ。そのうちでいいからアイヴィー殿を連れてきてくれたまえ」
「はい、アイヴィーに伝えておきます」
一応無難に答えておいた。テンダロスとアイヴィーが校長先生を助けたという話は本当らしい。
『ゲレード少佐入室します』
と部屋の外で声がして、赤毛を短く刈り込み、背が高くいかにも筋肉質と思える30代の女性が入室してきた。
「彼女はきみの担当教官のドリス・ゲレード少佐だ」
「アービスくんだな。私は君の担当のゲレードだ、期待しているぞ」
ここでも期待されてしまった。担任と担当の違いも分からなかったがきっと同じなんだろう。
「キーン・アービスです。よろしくお願いします」
「授業が始まる前にクラスのみんなに紹介するからついてきてくれ。
校長、それでは失礼します」
校長室を出て、廊下をしばらく歩いた先が教室だった。
「アービスは、私が呼んだら教室の中に入って来てくれ」
そう言ってゲレード少佐が先に教室の中に入っていき、扉を閉めてしまった。
すぐに教室の中から、ゲレード少佐の大きな声が聞こえてきた。
『もう寮で多くの者が本人と会っているだろうが、昨日みんなに話した、編入生を改めて紹介しよう。
キーン・アービス入ってこい』
いったん教室の入り口で待たされていたキーンが、クラス担任のドリス・ゲレード少佐の声に従い扉を開けて教室に入っていった。
教室は付属校と同じく階段教室になっていた。
「昨日もみんなに話したが、アービスはあの大賢者テンダロス・アービスの養子だ。魔術の腕前は往年の大賢者をしのぐという」
最後のゲレード少佐の言葉で教室の中から驚きのざわめきが広がった。どうしてゲレード少佐がキーンの魔術の腕前を知っているのか分からないが、まんざらでもないのでキーンは心の中だけでニマニマしていた。今度自宅に帰ったらアイヴィーに話さなければならないとも思っている。
「そういった頼もしい仲間が3号生徒のきみたちに加わったわけだ」
3号生徒というのはどうやら1年生のことらしい。
「アービス生徒は一番後ろの席になるが、アブリル生徒の隣に座ってくれ。それと教室の後ろのロッカーは空いているのを使ってくれ。
勝手に空いたロッカーを使っている者はちゃんと自分のロッカーに荷物を戻しておけよ」
ロッカーがもらえた上、運よくソニア・アブリルの隣になったようだ。
階段教室の後ろの方を見上げると、ソニアがニコニコ笑いながら手を振っていた。
「教科書は後で届けてやるから、1限目はアブリル生徒に見せてもらえ。それから、アービスは軍学校の1学期の課程を終えていないので、今日から私が判断して問題ないと言えるまで私が補習する。アービスは今日から放課後この教室に居残っていること」
放課後居残り授業というものを初めて知ったキーンはびっくりしたが、この軍学校は放任主義の付属校とは全く違うのだと実感した。
ソニアの隣に座ったキーンが「よろしくソニア」そう言ったら、
「居残り頑張ってね」と笑顔で言われてしまった。
「もうすぐ、1限の先生が来られるから今日の連絡はこれまで」
そういって、ゲレード少佐は教室を出ていった。




