皆で
理由は少しアレだけども、ヤノハちゃんが正式に御衣縫さんの家の子供になることになった。
そしてその事情をテチさんやレイさんに話した結果は、
「そうか、お祝いしなきゃいけないな」
「よし、最高のケーキを用意するぞ!」
というものだった。
なんとも軽い態度で、気にした様子もなく。
それで良いの? なんてことを思ったりしたが二人の反応は、
「養子なんてよくあることだろ」
「悲劇があったからこそ楽しく盛り上げるんだろ」
というものだった。
うーん? あれこれ悩んでいる俺の方がおかしいのだろうか。
まぁ、とにかくそういう訳で、ヤノハちゃん歓迎パーティが開かれることになった。
養子を祝うパーティではなく歓迎パーティ……半ば記憶喪失のような状態のヤノハちゃんにその辺りの事情を話すのは賢明ではないから、とにかくお祝いだけをする形となる。
だからこそと言うか、とにかく暗い話題を吹き飛ばすくらいに全力でお祝いをすることになり……御衣縫さんの友好関係もあって、かなりの規模のお祝いとなる。
何しろ御衣縫さんは地域の顔だ、獣人らしい獣人として森中に顔を知られている人物でもある。
それはもう多くの人が来ることになり……レイさんは全員分のデザートを用意するつもりらしく、まだ一週間先のことだけども店を臨時閉店して下ごしらえを始めている。
御衣縫さんの奥さんであるけぇ子さんも同じくパーティ用の料理の準備を始めていて、御衣縫さんももちろん手伝っていて……その間、ヤノハちゃんのことは我が家で預かることになった。
サプライズパーティという訳ではないけど、何もかも見せてしまうのも芸が無いということで、パーティのことは知らせながら準備は見せないということになった。
また俺もゲストながら多少の料理を提供することになり……これから収穫するクリ料理がメインとなる。
収穫は由貴やヤノハちゃんを含めた皆で行い、それを俺とテチさん、コン君達にも手伝ってもらいながら仕上げる形になる。
レイさんのデザートにも畑のクリやクルミが使われる……という訳で今日は皆で畑に出ての大収穫だ。
以前のように落下防止ネットが張ってあって、そんな畑を駆け回る皆には収穫カゴを背負ってもらっていて、クリハサミや革手袋も用意して……皆で一気に大収穫。
「きゅぅーーーーーふぅーーーー!!」
そんな中を駆け回るリス娘、我が家の愛娘の由貴はテンションマックスで、自分でも理解していないだろう奇声を上げながら木々の枝や畑を駆け回り、木から木、枝から枝へと飛び移っている。
とにかくこの光景が楽しいらしい。
皆で木を登っている光景、クリを収穫する光景、どちらもリス獣人としての本能を刺激するらしい。
由貴はそれが収穫の光景だと理解している、これが我が家の生業だとも説明したので理解している。
リス獣人にとって冬前の今の季節、そうやって食料や財を溜め込むことは、とても嬉しく楽しいことであるらしい。
コン君達ももちろん楽しいと感じている、だからこそ普段から畑の手伝いをしてくれている。
しかし由貴は特にそこら辺の本能が強いようで……駆け回って駆け回ってそしてもちろん収穫もしてくれる。
ただしその収穫方法はやや本能的だ。
開いたイガグリへと近付いて木の棒などで叩き落し、つついて中身を取り出し両手で掴み、そのまま食べようとしてしまう……が、流石にそれは周囲の子供達が止めてくれる。
由貴は横取りのように感じたのか、頬をめいっぱいに膨らませて不満そうにするが、
「ヤノハちゃんのためだよ」
と、言われるとすぐに機嫌を直してくれる。
由貴はヤノハちゃんと大の仲良しだ、精神年齢が近いと言うか同じようなテンションと言うか……しかも由貴からするとヤノハちゃんは妹分で守るべき相手となっている。
体の大きさを考えるのなら真逆なのだけど、こちらに来たのは由貴の方が先で……多分精神的にも由貴の方が大人だ。
後は身体能力も由貴の方が優れていて、そこも由貴にとっては『お姉さん判定』なんだろうなぁ。
そういう訳で収穫はとても賑やかに元気に進んだ。
ヤノハちゃんも参加して、ネットに落ちてくるクリの実を一つ一つ丁寧に拾い集めていく。
そうやって皆で収穫したら仕分けや磨きもやって……それが終わったら箱詰め、箱詰めが終わったら出荷。
出荷は花応院さん任せで……出荷が終わったら皆に分配をする。
分配が終わったら、レイさんのとこに直接届けて……我が家の分を加工したりしながらパーティの分の仕込みもしていく。
皆で楽しく賑やかに、今までのレシピを参考にしたりしながら。
今回はレシピの組み立ては俺主導じゃない、テチさん、コン君、さよりちゃん、由貴の意見もしっかり聞く。
そして皆で料理を仕上げていって……パーティまではあっという間のことだった。
会場はお祭りの時のように神社の境内、そこにいくつものパーティセット、レンタルのテーブルや椅子が並び、テーブルの上は料理で埋め尽くされ、並びきらなかったのだろう、いくつものクーラーボックスがそこらに置かれて、酒やジュースが入った氷入りのケースなんかもあちこちに。
そして会場には数え切れない程の獣人が集まった。
獣ヶ森の獣人全員が集まったかのような人数だが、当然だけどもこれも一部、見たことないような獣人も多いし……獣ヶ森のニュースでしか見かけない政治家の姿もある。
……そして主役のヤノハちゃんは、神楽のための高台に急遽用意されたドレス姿で現れる。
「ヤノハはうちの愛娘だ、よろしく頼む!」
「よろしくお願いします!」
その後ろから御衣縫さんとけぇ子さんが現れて、そう挨拶をすると、練習をしたのだろう、ヤノハちゃんが元気いっぱいに頭を下げる。
ポニーテールに結わえた髪がハネ上がり、顔を上げるとまた暴れて、慌ててけぇ子さんが整えに走る。
そして手ぐしで髪を整えられたヤノハちゃんは満面の笑みを浮かべていて……そうしてヤノハちゃんの紹介は、笑いに包まれての大成功で終わるのだった。
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