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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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結末


 ガーリックシュリンプとアヒージョの味の組み立てはほぼ一緒だ。


 オリーブオイルとニンニク、これがメイン。


 ガーリックシュリンプには鶏ガラスープと塩コショウ


 アヒージョはトウガラシとコンソメ。


 そういう違いはあるが基本的な部分は一緒で、だけども油で焼くと煮るという食感の違いもある。


 そこにフライと塩焼きとなると、もうかなりの濃厚メニューとなる。


 アヒージョにはバゲットが、鶏ガラを使ったガーリックシュリンプには白米が合うので、両方を用意すると更にとんでもないことになるのだけど……相手はカロリーモンスター達、多分問題ないだろう。


 だけどもそれだけを出すのはあんまりにあんまりなので、爽やかなサラダも用意することにする。


 茹でダコスライス、水菜、海藻ミックス、サニーレタス、玉ネギ、アボカド、トレビス、セルフィーユ、レモンの輪切り。

  

 そこら辺をしっかり混ぜて、すりおろし玉ネギ、塩コショウ、オリーブオイル、アンチョビソースを混ぜたドレッシングを作り、ふりかけて完成。


 普通のサラダよりはやや豪勢に、そしてとにかく爽やかに。


 これで今日の濃いめの車海老づくしをなんとかカバー出来ると思う。


 しかしこれだけしっかりしたサラダを作ってしまうと、もう一つの欠点も発生してしまって……それはサラダだけで満足できてしまうということだ。


 この組み立てのサラダだと例えばスモークサーモンを足しても良いと思う、あるいは茹でエビ。


 車海老の茹でエビなんかがあったらもう最高だろう……それとパンだけで満腹になれるくらいだ。


 サラダ好きの人ならそれでメインにしてしまっても良いくらいで……多分俺はそれで満足が出来る。


 しかしまぁ、テチさん達は満足はしないだろうからなぁ、そこら辺の差は常に意識しておかないとなぁ。


 ちなみに今のヤノハちゃんは獣人らしい食欲だけども、テチさん達程の食欲ではない。


 人間と獣人の中間くらい……ある程度体が成長というか回復しきった結果、そこら辺に落ち着いたようだ。


 御衣縫さん夫妻は元々少食気味だったそうで、ちょうど良い相性ではあるようで……そんなヤノハちゃんに食べさせすぎないようにも気をつけないといけない。


 飲み物も爽やかなにハーブティーなんかを用意して……夕食前になったら本格調理開始。


 そして出来上がったら冷めないうちに一気に食卓へと運んでいく。


 全ての料理が並んで「いただきます!」と声を上げたなら皆一気にサラダとエビ料理に飛びつく。


 由貴には似た味付けにし、食べやすくして更に並べたエビだけを用意してあげていて、由貴はそれに飛びつく形だ。


「エビの尻尾は出来るだけ食べないようにね、どうしても食べるのならしっかり噛むように」


 と、俺がそう言うと皆はそれに従ってくれる。


 エビの尻尾は、ちゃんと洗ってあるのなら食べても問題ないとされているのだけど……しっかり噛んで細かくしておかないと、体内で塊が残って暴れて胃腸を傷つける可能性がある。


 絶対にそうなる訳ではないけど、可能性は常にあって……食べないのが一番なのだろう。


 普段は食欲で暴走気味の皆も、今日は目の前にたっぷりと料理があるから暴走を抑えられていて……エビ本体の食感と濃い味を存分に楽しんでいる。


 俺はサラダをメインに、他の料理は一口程度にし、ゆっくりとエビを楽しんでいく。


 ……と、珍しく食事時に俺のスマホが鳴り始める。


 画面を見てみると花応院さんの文字、俺はとりあえず口の中のものを素早く噛んでから飲み下し、スマホを操作しながら立ち上がって台所に向かいながら応答します。


「もしもし、どうかしましたか?」


『……夕食時に申し訳ありません、急ぎ知らせた方が良いかと思いまして。

 こちらの情勢でいくつか大きな出来事が。

 まずヤノハさんの件でいくつかの実験が行われましたが、全て失敗に終わりました。

 扶桑の木や種は誰であっても助けるという訳ではないようです』


「……いつの間に?

 門が開いたような気配はなかったと思いますが……」


『森の中に入るだけなら、ヘリコプターでホテルに向かえば良いだけですから。

 何人かの政府関係者が自らでもって実験をしましたがいずれも失敗、扶桑の種を使ってもダメでした。

 その後ランダムに選ばれた子供を含む重病人でも試しましたが失敗。

 逆に邪悪な目的での侵入を試みた者には手痛い罰が下りました、関係者全員に全く未知なる病気が発症し、衝撃が走っています』


「……そ、それはまた……。

 扶桑の木による警告、でしょうか」


『そうですね、わたくし達もそう考えています。

 何しろ手足から扶桑の枝が生えるという病気ですから、それ以外にはないでしょう。

 それに関連して……ではないのですが、ヤノハさんのご両親が親権を放棄するとおっしゃっています。

 こちらからそういう働きかけをしたことはないのですが唐突に。

 ……病気に関する報道が影響はしているのでしょうね。

 扶桑の木は獣ヶ森に悪意を持って接することは許さないようです。

 ……そしてご両親は自分達が一切の悪意を持っていないという自信がないのかもしれません。

 どこからか援助を受けたのかもしれませんね、娘の情報を渡すならと。

 その状態で娘に会いに行けばどうなるか……誰にも予想できません』


「……なるほど。

 それは確かに俺にも予想が出来ませんね。

 そうすると今後ヤノハちゃんは……?」


『御衣縫様ご夫妻の子供として、獣ヶ森の住民として生きていくのが一番かと考えています。

 御衣縫様にはこの後、連絡をする予定です、特に問題がなければそのまま手続きを行いたいと思います』


「……分かりました、こちらから特に言うことはありません。

 ヤノハちゃんは今こちらにいますので、あちらでは腰を据えての話が出来るかと思います。

 ちょうど食事中で……必要であればこのまま泊まっていってもらうつもりです」


『ありがとうございます、そう言って頂けると幸いです。

 では……またメールなどで連絡いたします』


 と、そう言って通話は終了。


 通話の間も皆は食事に夢中で……特に会話を聞かれたりはしていないようだ。


 色々と驚きながらも自分に出来ることはないし、何かすべきこともないし……小さくため息を吐き出した俺は、食卓に戻って食事を再開させるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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