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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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再びの車海老


 

「前もにーちゃんが色々エビ料理作ってくれたけど、これはこれで悪くないなー。

 ……伊勢海老の代わりってあるのかな?」


 一通りエビの代用料理を食べ終えた所で、コン君がそんなことを言ってくる。


「い、いや……伊勢海老はあの風味がメインだからねぇ、代用は難しいんじゃないかな。

 薬品とかで近い風味には出来るかもしれないけど、美味しくはないだろうしなぁ……あればっかりは伊勢海老にしか出来ないと思うよ」


 俺がそう返すとコン君は少しだけ残念そうにする。


 そして何故だか目を丸くしていたフキちゃんが声を上げてくる。


「え、何それ知らない、エビ料理作ったことあったの? どんな料理?」


「ん? あの時フキちゃんはいなかったんだっけ?

 えーっと、エビフライ、エビグラタンにタルタル焼き、それとサクラマスと一緒に海鮮まんにしたんだっけ。

 一番美味しかったのは……海鮮まんだったかな」


「オレもあれ好きだった! 他も美味しかったけど海鮮のが良い!」

「私もです、本当に美味しかったー」


 と、コン君、さよりちゃん。


「私はエビフライかな、他ももちろん美味かったが、海鮮まんはエビだけじゃなかったしな」

「ふらい!!」


 今度はテチさんと由貴。


 意外にも好みが分かれたなぁ、しかも由貴はフライが一番だったのか。


 しっかり覚えていたことも驚きで、ちゃんと発音出来ているのも驚きで……余程印象に残った味だったのだろうなぁ。


「え、ちょっ、ずるい!!

 アタシも食べたいんだけど! 全部食べたい!!」


「えっと……まぁ、車海老は養殖所で買えるから作れなくもないけど、二食連続エビ料理はどうなんだろうなぁ……」


 そう言って来るフキちゃんに俺が渋っているとすぐさまテチさんが、


「三食連続でも良いぞ」


 と、返してくる。


 すると子供達がそれに乗っかり……フキちゃんまでが乗ってくる。


 元々の目的はどこへ行ったやら、エビを使ってしまっては元も子もないと思うんだけども……まぁ、本物を知るのも大事かと納得する。


「それじゃぁ昼間作った料理を再現する形で―――」


 と、俺がそう言いかけると瞬間、


「フライ!」


「なんか新しいの!」


「濃い味のやつ!」


 と、テチさん、コン君、フキちゃんの順に声が上がる。


 エビフライは継続で、コン君は新しいの……フキちゃんも濃い味というのなら、以前作っていないやつの方が良いんだろうなぁ。


「えっとじゃぁ、車海老のフライ、新しいのってことで車海老のアヒージョ、それと以前作らなかったガーリックシュリンプでも作ろうか。

 それで良い??」


 そう俺が返すと皆は頷いてくれて、とりあえず今日の夕飯はそれで行こうとなった。


 なったとは言え、今から作るのは少し早すぎる……のだが、コン君もフキちゃんもワクワクと目を輝かせていて、もう今からすぐにでも買い物に行って作り出してくれと言わんばかりだ。


「う、うーん……じゃぁ焼海老とかも作って、おやつにエビを食べながら待てる感じにしようか。

 ……って言うかフキちゃん、エビ祭りになるけどそれで良いの? 当初の目的からだいぶズレるけど……」


「良い!」


 そんな俺の言葉にフキちゃんは元気いっぱい、笑顔で返してきて……そういうことならと、まずは片付けやら歯磨き、それからすべき家事を済ませてからの買い物に向かう。


 まずはスーパーであれこれ必要なものを。


 それから養殖所で車海老を。


 今回も下処理は自分でするので生きたまま箱詰め、オガクズ詰めをしてもらう。


「このねー、オガクズが水を吸ってエビが呼吸出来るようになるんだってー」


 その様子を眺めながらコン君、前に俺がした説明をそのままフキちゃんに。


「なるほどー!」


 と、フキちゃんはスマホ構えて写真を撮りまくりながら相槌を打っている。


 そんな買い物を終えたら我が家に向かい……それから下処理を始める。


「と、言っても今回はほとんど処理がいらないんだよね。

 なんと背ワタを取る必要もなし、いや、取っても良いんだけど取らなくても全然問題なしってことらしいよ」


 と、俺はフキちゃんに背ワタの取り方をあえて説明してからそんなことを言う。


 背ワタを取る理由はそこに残っている残留物が嫌な味や食感になるから。


 つまり残留物が残っていなければする必要がない、で、この車海老は養殖所で育ったもの。


 ……つまり売る前に数日絶食させて背ワタを空にしたなら、ワタ取りをしなくて良い個体になるらしい。


 あとは普段から使っている餌もワタに残りにくいとか不快感に繋がらない物にするとかの工夫をしているとかで……つまりは簡単かつ美味しいのがこの養殖エビということになる。


 絶食で味が落ちるかについては議論があるみたいだけど、養殖所の人が試した範囲では全く問題なかったようだ。


 その程度の差ならば俺は絶食してくれた方がありがたい方で……ささっと処理をしてしまう。


 軽く洗って串を打って、それから塩を振ってコンロの上の網へ。


 とてもシンプル、だけどこれが美味しい……特に車海老で作ると元々の美味しさが引き出されてたまらない。


 エビフライは食べる直前に揚げた方が良いし、アヒージョ、ガーリックシュリンプも冷めてしまうことを考えると簡単な下処理だけしておけば良い。


 ということで今はエビの塩焼きに意識を集中させて……調理しながらあれこれと語る。


「車海老はそれ自体が美味しいから、シンプルな料理も多いんだよね。

 たとえばつや煮とか、酒蒸しとか。

 エビの姿そのままで火を入れる時に少し工夫する、みたいな。

 それで十分美味しい、つや煮は少し味をつけることになるけど、それもエビの味を引き立てる形だし、本当に簡単で美味しいんだ。

 背ワタをとって茹でて、酒、みりん、醤油、顆粒だしを混ぜて作った煮汁で軽く煮たら完成。

 火を止めて粗熱を取りながらじっくり味を染み込ませたらつやつやの表面にぷりっぷりの身、しっかり染みた味とたまらない美味しさになるんだ。

 酒蒸しはシンプルだね、味の追加はほぼなしでその味をただ楽しむ。

 逆にガーリックシュリンプやアヒージョはがっつり味を足して、かなり濃い目にするんだけど、これがまたたまらない程に美味しいんだよねぇ」


 と、そんなことを言いながら俺がエビを焼いていると、前と後ろから……焼けるエビの匂いを嗅ぎながらエビの味を想像したらしいコン君とフキちゃんからじゅるるという口の中で唸る音が聞こえてきて……それを受けて俺は早く食欲を満たしてあげるかと、そう考えながら串を持って、エビを焼いていくのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
遠くから、真っ赤な車海老が徒党を組んで歩み寄る画が見えた! 軽くホラー!
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